離婚という人生のイベントは夫目線、妻目線で180度景色が異なります。
本来、離婚は夫婦の責任なので夫、妻は「ただの男、女」になってしまうのは当然です。
一方、親子は両親の離婚に対して子供に責任はないのだから、離婚しても親子は親子のはずです。
しかし、親権を持った妻(母親)は子供への愛情は変わらないけれど、親権を持たない夫(父親)はなかなか割り切れないでしょう。
例えば、誕生日やクリスマスのプレゼントを渡したり、成長した姿を写真で見たり、直接会って食事や買物をしたり…。
このような親子の触れ合いが全く実現しないのに「愛情を持ち続けてよね」と言われ、養育費の支払を押し付けられるの苦痛です。
そのため、「あいつ(妻)のせいで人生が台無しだ!」と被害妄想に取りつかれ、「いない方が良かった」と子供の存在を記憶から消し、一刻も早く新しい家庭を築こうとする人もいます。
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目次
万が一の場合に備えて「保険」が大事になってきます
典型例は「保険」。
もはや元妻の子供を受取人にする義理もないでしょう。
とはいえ夫が途中で亡くなる可能性はゼロではありません。
そのため、万が一の場合に備えて「保険」が大事になってきます。
夫婦が離婚するにあたり、保険に新規加入する場合、もしくは加入済みの保険を見直す場合、どのような点に注意すれば良いでしょうか?
結婚前から加入している生命保険がある今回の相談者

相談者は田辺真奈美さん。
真奈美さんは夫との話し合いのなかで、すでに養育費の条件(夫が妻に毎月7万円を20歳まで。計1,800万円)は決まっていました。
そして結婚前から加入している生命保険がありました。
具体的には契約者と被保険者は夫(加入時は24歳)、死亡保険金の受取人は法定相続人のうち、順位1番の人間(ただし同居していない家族は除く)という契約内容でした。
真奈美さんは「最後まで夫に養育費を払わせるためにどうしたら良いでしょうか?」と相談しに来たのです。
【家族構成と登場人物、属性(すべて仮名。年齢は現在)】
妻 : 田辺真奈美(34歳) → 専業主婦
☆今回の相談者。田辺夫婦は結婚8年目。横浜市在住。月7万円の賃貸在住
長女 : 田辺奈菜(7歳) → 田辺夫婦の娘
契約者が受取人を自由に選ぶことができない保険だった
受取人ですが、保険の目的は養育費の確保ですから、受取人が妻、子「以外」では困ります。
そのため、妻や子が保険金を受け取ることができるよう設定しておくのは当然のことですが、真奈美さんいわく、この保険商品ははじめから受取人が固定されていて、契約者は受取人を自由に選ぶことがままならないタイプだったのです。
具体的には
という内容でした。
しかも「同居家族に限る」という但し書きが添えられていたのです。
「この保険で大丈夫なのでしょうか?」と真奈美さんは不安そうな顔をしていました。
受取人を考える
まず妻は離婚と同時に法定相続人から外れるので受取人には該当しません。
一方、子はどうでしょう。
離婚後、夫が独身のままで亡くなった場合、子は離婚前も後も法定相続人ですし、順位は1番なので、一見、保険金を受け取れそうです。
しかし、離婚後は妻が子の親権を持って一緒に暮らし、夫と子は離れ離れになるので、子は「同居家族」ではありません。
ですから、但し書きのせいで子も受取人から除外されます。
「このままでは旦那さんの両親が受け取りますよ」
私は真奈美さんに投げかけたのですが、もっとひどいのは夫が再婚している場合です。
順位1番は両親から再婚相手に移ります。
途中で夫が亡くなった場合、夫の両親や再婚相手が保険金を受け取るのですが、真奈美さんが頼み込んだところで、保険金の一部または全部を渡してくれないでしょう。
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受取人を法定相続人から妻や子へ変更するか新しい保険に入るか
「これじゃ何のために離婚後も保険を継続するのか分かりませんよ!」と真奈美さんは嘆きます。
この場合は、途中で受取人を法定相続人から妻や子へ変更するのが手っ取り早いです。
そのため、真奈美さんがこの保険会社に「受取人に変更したい」と伝えたところ、あえなく断られてしまったようです。
今回のように受取人を個別に指定できない保険では、養育費未払いのリスクヘッジに向きません。
「残念ですが、今の保険は解約し、別の保険に新しく加入した方が良さそうです」
私はそんなふうにアドバイスしたのですが、受取人は必ず「同居中の法定相続人」という保険商品は特殊です。
離婚前でしたら個別の人間…妻や子を受取人に指定できる保険商品は存在します。
どちらを契約者にするのか
「どちらの名前で入ればいいでしょうか?」
夫と妻、どちらを契約者にするのか真奈美さんは質問してきました。
「契約者・妻」、「被保険者・夫」ですと保険金に対して贈与税が課税される可能性があります。
一方「契約者、被保険者・夫」なら保険金に課税されるのは相続税です。
税率は「相続税 < 贈与税」なので契約者は夫にしておきました。
「私と娘、どちらを受取人にしたらいいのでしょう?」
真奈美さんは尋ねてきましたが、これは税金との兼ね合いを考えて決める必要があります。
生命保険の保険金は契約者と被保険者が同一人物、受取人は別の人物の場合、相続税の課税対象です。
受取人が法定相続人の場合、非課税限度枠(500万円 × 法定相続人)が適用され、保険金が非課税限度枠を上回った場合のみ、その超過分に対して相続税が課税されるという仕組みです。
もし、夫婦が結婚しているのなら、妻は法定相続人なので、妻を受取人に指定しても非課税限度枠が適用されます。
しかし、真奈美さんの場合、離婚するのだから、元妻はすでに法定相続人ではなく、元妻を受取人に指定すると非課税限度枠が適用されませんが、保険金のすべてが他の相続財産のなかに組み込まれます。
相続税の基礎控除額について
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相続税の基礎控除額は「3,000万円 + 法定相続人 × 600万円」です。
例えば、他の相続財産だけで相続税の基礎控除額を超えていると、死亡保険金は全額、相続税の課税対象です。
私は真奈美さんに助言したのですが、新規で保険に加入するにあたり、子を受取人に指定しました。
離婚前に保険内容をきっちり把握しておくことが大事
仮に離婚前の保険を離婚後も継続する場合はどうしたら良いでしょうか?
妻が受取人になっているのなら、子へ変更しておきたいところです。
「離婚しないと手続できないのでしょうか? 今の方が時間もあるし、やれることはやっておきたいのですが…」
真奈美さんは手続のタイミングについて迷っていたのですが、離婚後ですと受取人が娘さんとはいえ親権者が元妻(真奈美さん)なので保険会社が難色を示す可能性があります。
そもそも夫が契約者なので夫の同意が必須ですが、いったん離婚すると夫が協力してくれるかどうか分かりません。
そのため、真奈美さんは離婚前のタイミングで上記の内容の保険に加入しておいたのですが、こうして真奈美さんは養育費の担保を用意した上で離婚できました。(執筆者:露木 幸彦)