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オリンパスが海外ファンドから取締役受け入れ
オリンパスは1月、米投資ファンドのバリューアクト・キャピタル(以下バリューアクト)のJim C. Beasley氏(以下ジム氏)を取締役として招き入れると発表した。
このファンドはオリンパスの筆頭株主でもあり、投資先との信頼関係を重視し、長期目線で成長を支援するという方針を掲げている。
今回新たにオリンパスに加わるジム氏は2018年5月にバリューアクトに入社する以前に、医療機器世界大手の米C.R. Bardグループで約30年間勤務した医療機器分野のプロだ。
オリンパスは医療機器企業の経営実績もあるジム氏を経営陣に加え、「真のグローバル・メドテックカンパニーへの飛躍を目指した企業変革プラン」を推進する考えを表明している。
今回はジム氏を含めたバリューアクト陣営がオリンパスにどのような変化をもたらすのかを考察する。
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2011年からのオリンパスの財務を簡単におさらい
考察に入る前に2011年からのオリンパスの財務を簡単に振り返る。
時系列的な話で退屈に感じるかもしれないが、オリンパスの今後を考える上で重要な知識となるのでぜひ読んでもらいたい。
2011年、オリンパスは過去のM&Aに関連して発生した巨額損失を簿外に隠していたことが発覚した。
その衝撃は大きく、株価は一時400円台(同年の最高値は2835円)まで下落。
関連損失を計上したことで2012年3月期は連結最終赤字490億円となり、期末の純資産は前期と比べて半分以下にまで減った。
自己資本比率は前年の11%から一気に5%まで低下し、債務超過に陥る可能性も高まった。
しかし、その後オリンパスは財務改善に向けてソニーと資本業務提携。
ソニーからの出資含めて2014年3月期までに計1515億円の増資を行い、自己資本比率は2014年3月期末時点で32%まで上昇した。
その後も利益計上や社債・借入金の返済を続けたことで、2017年3月期末には自己資本比率が43%となった。
5年の間に5%から43%まで高めることに成功したのだ。
なお、2018年3月期からは会計基準が日本基準からIFRS(国際財務報告基準)へと変更されたので、それ以降の自己資本比率の時系列比較は行わない。
ファンドのメスその1 映像部門の売却
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それでは、バリューアクトが今後どのようなアクションを提案するのか考察する。
まず、不採算部門の存在は企業にとって株主リターンの悪化につながる。
オリンパスにはデジカメやICレコーダーなどを製造販売する映像部門がある。
「オリンパスといえばデジカメ」と感じる読者も多いのではないだろうか。
しかしこの映像部門、2009年3月期から2017年3月期までの9年間で売上高は毎年減少している。
2200億円あった売上高が650億円にまで減った。営業損益に至っては9期中7期が赤字だ。
会社全体の売上高に占める部門売上高の割合はわずか9%ほどで、「売れない・儲からない・頼らなくてもいい」と典型的な不採算・ノンコア部門となっている。
研究開発と設備投資にしても、映像部門に割く資金の割合はわずか5%。
会社としても、映像部門の起死回生を図る気はなさそうだ。
しかし、この部門の従業員は国内・海外合わせて約1万1,000人。
グループ全体の約5万7,000人のうち20%近くを占めている。
部門間で平均給料に大きな差がないと仮定すると、オリンパスは部門売上高比率9%の不採算事業に人件費の20%を費やしていることになる。
ざっくり計算の話だが、仮に映像部門を売却した場合、この部門の人件費・研究開発費・その他諸経費が浮くことで営業利益ベースで20%近い増益効果があるとみられる。
設備投資の影響も考慮すると、キャッシュフローベースではさらなる改善が見込まれる。
こうした点を踏まえると、今後バリューアクトが映像部門の売却を提案する可能性はかなり高いと考えられる。
ここまでかなりドライに映像部門切り離しの話を展開してきたが、日本の伝統的な企業では従業員を解雇するハードルが高い。
多くの企業は働き手に対して年功序列・終身雇用といった制度を背景に、超長期・一社専属的な労使プランを提供している。
ただ、早期退職希望者の募集などソフトな施策を打ち出すことも可能である。
進め方はバリューアクトと従来のオリンパス経営陣の議論次第であるが、ひとまず映像部門へのメスが議題に上がることは間違いないだろう。
ファンドのメスその2 レバレッジによる医療部門の成長加速
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映像部門へのメスも重要だが、
一番の本命は何といっても医療部門の成長加速だろう。
バリューアクトによるオリンパスへの投資は2018年5月に明らかとなった。
バリューアクトはこれと同じタイミングで医療機器世界大手からジム氏を雇っている。
いわばジム氏はオリンパス改革のためにバリューアクトに雇われた人物だ。
医療関連ビジネスは世界的に見ても高成長が期待されているだけに、バリューアクトのオリンパス医療部門に対する本気度が感じられる。
ちなみにオリンパスの医療部門では主に内視鏡(身体内部を観察するための医療機器)や外科手術用機器を取り扱っている。
医療部門の売上高は会社全体の70%強、営業利益は150%強にも上る(全社的な管理費用がそれを削る構図)。
収益性も高く、営業利益率は20%強だ。
要するに、オリンパスはこの部門のおかげで食っていけている状態。
ここに一体どのような手を加えるというのだろうか
結論を先にいうと、おそらくバリューアクトはレバレッジ(負債)を活用した資本効率の改善を提案すると考える。
オリンパスは、負債が少なすぎるのだ。
先にレバレッジを活用した資本効率改善について簡単に解説しよう。
100万円の元手(出資)でタクシー用の車を買い、個人タクシーの商売を始めるケースを考えてみる。
年間20万円の利益を上げた場合、出資者のリターンは20%(20万円/100万円)となる。
仮に車購入代金の半分をカーローン(金利2%)で調達した場合、出資者のリターンは38%まで上がる。
出資額50万円に対し、19万円の儲け(20万円-ローン利息1万円)を上げたからだ。
このような負債を活用したリターン向上をレバレッジ効果という。
なお、上の例では厳密には利息の他にローン元本の返済によるキャッシュアウトが生じるが、企業の場合は借り換えにより一定の負債比率を維持するのが普通なので、それに合わせた。
話をオリンパスに戻す
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基本的に負債は、企業のキャッシュフローが安定しているほど多く積むことができる。
負債の供給サイド(銀行や社債保有者)は利息という定期的リターンを要求する上で、キャッシュフロー安定型の企業の方がリスクが低いと考えるからだ。
そして、負債が多いか少ないかを測る尺度の一つに「ネットD/Eレシオ(純有利子負債/自己資本)」という比率がある。
この比率は業種に応じて適切な水準が違うものの、平均的にはおおむね「2倍」とされる。
電力・ガス会社や通信会社などキャッシュフローが極めて安定的な会社の場合は3倍以上にもなる。
逆に、キャッシュフローが最も不安定な業種の一つである半導体関連セクターの平均はほぼゼロだ。
そして、オリンパスはというと2017年3月期末で0.2倍。
医療部門は比較的景気変動の影響を受けにくく、キャッシュフローはどちらかといえば安定的な方だ。
医療部門に大きく依存したオリンパスのネットD/Eレシオが平均的目安である2倍を大きく下回り、半導体関連セクターに近い0.2倍にとどまっているのを見ると、やはり過剰な守りと感じざるを得ない。
おそらくオリンパスとしては2011年に債務超過目前となったことで、負債の積み増しに必要以上に慎重となっていると思われる。
ここ数年財務の安全性を強化してきたことで債権者は喜んだだろうが、株主は高成長・高収益によるリターンが犠牲にされてきたことで歯がゆい思いをしたことだろう。
こうした点を踏まえ、バリューアクトがこの「過度な安全運転の犠牲となっている医療部門の収益性・成長性」にメスを入れようとする可能性は非常に高いとみる。
加えて、前述した映像部門の売却により他部門からも投資資金を引っ張ってくることができれば、さらなる成長投資も計画できるということになる。
今後の注目点は?
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2019年1月12日付の日本経済新聞によると、バリューアクトは迅速なリストラなどは要請せず、オリンパスが練った医療部門再編など中長期的な企業変革プランについて賛同し、支援しているという。
ジム氏は医療機器世界大手での経営経験もあり、海外でのシェア拡大に大きく貢献してくれるだろう。
ただ、バリューアクトは投資ファンドでもあるので事業ポートフォリオの見直し(映像部門の売却)や資本政策の修正(レバレッジの引き上げ)なども企業変革プランのアクションとして提案すると思われる。
そうしたアクションを実行に移すには株主総会や取締役会での影響力を強める必要がある。
今後はまず、バリューアクトからの取締役が増えるか否か、バリューアクトがオリンパスの株式を買い増すか否かに注視したい。(執筆者:高橋 清志)