長年連れ添った夫婦が別れを決断し、別々の人生を歩む「熟年離婚」。
蓄積された不満を吐き出し、勢いで離婚に踏み切ると後悔することになりかねません。
冷静に考え準備を整えるために、必要なことをまとめてみました。

目次
熟年離婚とは
熟年離婚と聞くと、50代以降の夫婦の離婚を思い浮かべる方が多いと思いますが、実は少し違います。
一般的には、婚姻して20年以上の歳月をともにした夫婦の離婚のことを、「熟年離婚」といいます。
熟年離婚に至る原因はさまざまです。
不倫やモラハラ、DVといった深刻な問題もありますが、価値観の違いや性格の不一致、嫁姑問題や介護問題などのほか、日々の小さな不満が蓄積され、そのうち顔を合わせるのも嫌になってしまった…というものもあります。
また、熟年離婚の場合、「子供が自立したから」という理由も多く聞かれます。
「子はかすがい」とはよく言ったもので、子供がまだ小さく、両親を必要としているときは、たとえ夫婦仲が悪くなったとしても、「子供のために」我慢できるところがあります。
しかし、子供が自立してしまえば、その我慢も必要なくなってしまいます。
熟年離婚をする際に考えておかないといけないことはたくさんあります。
早く離婚したい一心で、条件を決めずに離婚をしてしまうと、後で後悔することになるでしょう。
「後から話し合えばいい」と急いで離婚してしまうことは、絶対に避けるべきです。
熟年離婚で損をしないために
ここでは、熟年離婚をする上で、損をしないために覚えておきたい重要事項について説明します。

財産分与について
財産分与とは、離婚の際、婚姻期間中に夫婦で協力して築いた資産(夫婦の共有財産)を夫と妻とで分けることを言います。
財産分与は、離婚後の生活を大きく左右する重要な検討事項です。
財産分与の対象となるのは、現金や預金、不動産、有価証券、車、生命保険、退職金などです。
たとえ、名義が夫だけになっているものでも、夫婦が共同で築いたものとして扱われます。
財産分与の割合については、特に、法律上の決まりはありませんが、もし、話し合いに折り合いがつかず、裁判で決定する場合は、原則2分の1相当の分割です。
一般的に、婚姻期間が長ければ長いほど、形成した資産は増えるものです。
そのため、熟年離婚の場合、財産分与の額は大きくなる傾向にあります。
また、妻が専業主婦で収入がなかったとしても、現在の裁判実務では、「家で家事労働をすることで資産形成に貢献した」と考えられているため、妻は堂々と財産分与を請求できます。
財産分与の対象は、あくまで「婚姻期間中」に夫婦で築いた資産です。
そのため、結婚前にためていた貯金や離婚後に株やFXでもうけた資産は、財産分与の対象にはなりません。
退職金も財産分与の対象
熟年離婚の場合、退職金については重要になってきます。
既に退職金が支払われている場合はもちろんのこと、まだ支払われていなくても、退職金が支払われる可能性が高いものであれば、財産分与の対象となると考えてよいでしょう。
遺産を相続したらどうなるのか
遺産は、一般的に「夫婦の協力」のもと取得した資産とは言い難いため、原則として、財産分与の対象にはなりません。
また、結婚後に夫婦が親から贈与を受けた場合、その贈与が夫婦両方に対してなされたものであれば、財産分与の対象ですが、どちらか一方に対してなされたものであれば、財産分与の対象にはなりません。
借金がある場合
借金がある場合は、原則として、財産分与の対象として考慮されます。
離婚するときには、原則として、夫婦で築いた資産から借金を差し引いた金額を財産分与することになるので注意してください。
財産分与を請求できる期限
民法では、協議離婚の成立後であっても、財産分与の請求が可能です。
しかし、財産分与の請求には期限があり、離婚成立から2年以内です。(民法768条2項)
「離婚が成立してから」とは、具体的に「役所で離婚届が受理された日」のことを指し、調停離婚であれば「調停で離婚が成立した日」になります。
期限に問題はないか確認しておきましょう。
熟年離婚後の住まいはどうする?

熟年離婚を決めたときに、問題になるのが離婚後の住居をどうするかです。
離婚をすると、通常、どちらか一方が家を出なくてはならなくなりますし、自分の生活は自分で賄わなければならなくなります。
これまで、夫婦二人で共同だった生活費が、別々になるわけですから、離婚後の住まいにどれだけのお金がかかるかについて、十分に検討しておかなければなりません。
離婚後、家やマンションを出ていく方は、もし、賃貸に住むのであれば、毎月かかる家賃を支払わないといけなくなります。
一方、婚姻中に住んでいた家に残る方は、住むところに困らず、家を今後の資産にできるメリットがありますが、固定資産税や修繕費用などが伸し掛かってきます。
また、ローンの支払いが苦しくなり、家を売却したいと思っても、想定より安い価格で評価されてしまう可能性もあります。
このようなリスクを考慮して、離婚後の生活には、どれくらいのお金がかかるのか、しっかりと計算し、夫婦で十分に話し合うことが重要になってきます。
住宅ローンが残っている場合
問題となるのは、婚姻期間中に戸建てやマンションを購入して、まだ住宅ローンが残っている場合です。
もし、住居を売却して利益が生じるようであれば、それを夫婦で分割すれば問題ありません。
オーバーローンの場合、(残債の方が多かった場合)自宅を売却するか、しないとして夫婦のどちらが住居の名義人になるか、残債をどうするかが問題になります。
この場合、まずは、夫婦で相談し、残債について考慮したうえで、自宅の処分について決めることになります。
いずれにせよ、家やマンションを売却した方が得か、それとも売らずに住み続けた方がよいのかも、熟年離婚で考えるべき重要事項です。
住宅ローンが完済している場合
もし、住宅ローンが完済していれば、売却代金相当の額が財産分与の対象財産となります。
ここで注意したいのは、住宅購入時に双方の両親から援助があったり、独身時代の貯金を住宅購入に充てたりした場合です。
その場合は、それらの金額は財産分与の対象とはならないことを覚えておいてください。
年金はどうなるの?
長い間、配偶者の扶養となっている場合、将来もらえる年金が少なくなるのではないかと不安があるかもしれません。
老後の生活を支える年金受給額がどうなるかを知っておくのは大切なことです。
平成19年4月から厚生年金保険法の改定により「年金分割制度」が施行されています。
この制度は夫婦が離婚をした後に、一方の厚生年金を分割し、他方の年金をサポートするというものです。
ただし、分割できるのは、厚生年金と共済年金だけです。
国民年金の加入者には適用されないので注意しましょう。
共済年金は平成27年10月に廃止され、現在は厚生年金に統一されています。
年金分割制度には次の2種類あります。

(1) 合意分割
これは夫婦が合意の上、厚生年金保険料納付実績の多い方から少ない方へ分割するものです。
分割の割合は夫婦で決めることができますが、最大2分の1と決まっています。
(2) 3号分割
夫が厚生年金や共済年金の加入者である専業主婦(国民年金の第3号被保険者)は、平成20年4月1日以降の納付金について、夫の合意がなくても2分の1を分割して支払ってもらえます。
しかし、平成20年3月31日までの分は合意分割がなければ分割ができません。
年金分割制度は婚姻期間中に限られているので、結婚前に加入していた分は含まれません。
また、夫が60歳を迎えたとしても、妻が60歳にならなければ年金は受給できませんので、注意が必要です。
年金分割の請求期限
原則として、離婚をした日の翌日から2年の間に請求をしてください。
離婚をした日から2年以内でも年金分割請求の前に、夫が死亡した場合は請求ができません。
熟年離婚で後悔しないために十分考慮しましょう
熟年離婚に踏み切り、幸せを感じている人は多いでしょう。
しかし、後悔している人がいるのも事実です。
特に女性の場合、離婚後、満足のいく仕事に就けず、生活レベルが極端に落ち、精神的に苦しくなることがあります。
一方男性は、食事や健康面に不安を覚え、日常生活にストレスを感じてしまうこともあるでしょう。
熟年離婚で後悔しないためには、知識と計画性を持ち、何を準備するべきかについて十分に考慮することが大切なのではないでしょうか。(執筆者:安部 直子)