前回の記事では、民法(相続法)の40年ぶりの改正にあわせて、「自筆証書遺言の方式の改正」について説明しました。
今回のテーマは、大きく分けて以下のとおりです。
(2) 遺留分制度の見直し
(3) 相続の効力等に関する見直し
(4) 特別寄与料の請求
聞きなれない言葉も多いですが、民法が改正されることによって、家族が亡くなったとき、私たちの相続においてどのように影響してくるのでしょうか。
テーマごとに解説していきたいと思います。

目次
「葬儀代が足りない」そんな時の遺産分割協議前の払い戻し制度
現在の相続制度では、原則、遺産分割協議が終了するまで、相続人単独では、相続財産である預貯金の払い戻しや分割ができません。
しかし、この原則があるがために、
「協議が終了するまでの生活費や返済金が工面できない」
といった悩みも多く、最悪の場合、相続人が一時的に借入をしなければならないこともあります。
こういった事情を受け、今回の改正では、遺産分割協議の終了前でも、金融機関から預貯金を引き出せるようになる「仮払い」が認められることとなりました。

仮払い制度の仕組み
仮払いの手続き方法は、以下の2通りです。
金融機関で手続きを行う
金融機関での手続きは、次に説明する家庭裁判所での手続きよりも、スピーディーに対応してもらえます。
しかし、「預貯金 × 1/3 × 法定相続分」の金額まで、もしくは法務省令で定める金額までといった上限があり、葬儀代や生活費といった、一時的にお金が必要となる場合にしか適しません。
なお、法務省令で定める金額は、金融機関ごとに150万円となりました。
家庭裁判所に仮処分の申立てを行う
家庭裁判所に、遺産分割の調停(審判)の申立てをしてから、相続 財産の預貯金の仮払い(仮処分)の申立てを行います。
預貯金を利用する必要性が認められる場合には、他の相続人の利益を害しない場合に限り 、家庭裁判所において仮払いが認められ、現金を引き出すことが可能です。
上限は定められておらず、家庭裁判所に認められれば、高額を引き出すこともできます。
しかし、家庭裁判所に提出する書類の準備 や預貯金の引き出しに時間がかかります。
いずれにしても、現状では、各金融機関における詳細な運用方法は決定しておらず、仮払いをした場合の他の相続人への保障を含め、今後の動向に注目が集まります。
遺留分が金銭請求権に 遺留分制度の見直し
民法では、相続人の生活の保障や、その期待も 考慮して、それぞれの相続人が最低限相続できる「遺留分」を保証しています。(※被相続人の兄妹姉妹には、遺留分の保証はありません)
今回の改正では、この遺留分について以下2つの事項が見直されました。
遺留分の金銭債権化
お亡くなりになった方の遺産の中には金銭だけでなく、不動産といった不可分のものもあり、遺留分が請求されると、不動産は、遺留分を請求した者と、遺留分を侵害した者の共有財産という位置づけです。
現行法では、遺留分を請求する者は、遺留分を侵害している他の相続人に対し、その侵害額を金銭で返還するよう請求することはできず、返還方法は、侵害した側に委ねられていました。
これが、改正後は、遺留分を請求する者は、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求できるようになります。
この場合、不動産の共有状態が生じないため、金銭で解決できるようになれば、トラブルが長期化することも少なくなるかもしれません。
遺留分の基礎財産に含める贈与の期間を10年に限定
これまでは、遺留分の算定に用いる基礎財産に含める「特別受益」 の期間は、限定されていませんでした。
つまり、生前贈与されたのが何年前であっても、特別受益に該当すれば遺留分の算定に組み込まれてしまうということです。
改正後は、特別受益に該当する生前贈与の期間は、相続開始までの過去10年間に限定して、遺留分の算定に組み込まれます。

相続開始後の迅速な対応が必要 相続の効力等に関する見直し
これまで、特定財産承継遺言(遺産分割の方法を指定した遺言)等によって、相続した財産については、登記といった対抗要件がなくても、第三者に対抗することができました。
ところが、改正後は、法定相続分を超える部分については、第三者に対抗するために、登記等の対抗要件が必須となります。
例えば、相続人の1人が早々に法定相続による登記を行い、第三者に売却してしまった場合、遺言で不動産を相続した他の相続人は、購入した第三者より先に登記を備えていないと、第三者には対抗できません。
よって、相続開始後は、登記等の迅速な対応が必要となります。
献身的な看病・介護が報われるために 特別寄与料の請求についての見直し
どれくらい看病・介護をしていたかで相続人同士がもめる話は、テレビでもよく見かけます。
現行法でも、献身的に看病・介護をした者には、財産の維持や増加に貢献した場合、法定相続分にその貢献に応じた「寄与分」加えて財産を取得させること 認めていますが、実はこれが認められるのは、法定相続人のみです。
子どもが親の看病・介護をすることが当然でなくなってきた今、相続人でなくても、献身的に被相続人に尽くした親族(「特別寄与者」)を 保護するための改正が行われることになりました。
それでは、特別寄与者について詳細に見ていきましょう。
特別寄与者になる資格とは
特別寄与者になり得るのは、「相続人でない親族」です。
民法上の親族とは、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族を指し、特別寄与者には、相続を放棄した者、相続権を失った者等は含まれません。
また、あくまでも親族でなければならないため、家政婦や友人などの他人がいくら看病・介護をしても特別寄与者にはなれません。

特別寄与とはどういう場合?
特別寄与は、「無償の看病介護によって、被相続人の財産の維持・増加に特別な寄与をすること」です。
無償であることがポイントで、看病・介護に関して、何かしらの対価を受け取っていた場合は、特別寄与として認められません。
特別寄与者に請求可能な特別寄与料とは
特別寄与者は、相続人に対して、金銭(特別寄与料)の請求を行うことができます。
ただし、特別寄与料は、被相続人が残した財産から、遺贈(遺言により、被相続人が相続人以外の者に財産を譲ること)された財産を差し引いた額を上限としています。
そのため、遺贈によって財産が残っていないときは、特別寄与者は、特別寄与料を請求できません。
献身的な看病・介護は、非常に労力を要するものです。
相続人でない者も特別寄与者として請求できることとなれば、その労力も報われることとなるでしょう。
しかし、何をもって特別寄与とみなすのかは、これまでも論点となっており、そう簡単には認められないという傾向があります。
自分の権利をきちんと把握しておくことが非常に重要
今回の改正で、実際に被相続人の財産の維持や増加に貢献した人が保護されることを望みますが、今後の協議は難しいものになるかもしれません。
今回説明した内容はどれも、相続が生じたとき 、私たちに 大きな影響を及ぼすことばかりです。
ですので後々、親族間でもめることのないよう、自分の権利は把握しておくことが非常に重要です。(執筆者:松村 茉里)