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自社株買いでルネサス株上昇
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車載用マイコンで世界首位級のルネサスエレクトロニクスは3月、最大100億円規模の自社株買いの計画をリリースした。
理由としては自社株買いをするその他多くの企業同様、「株主への利益還元と資本効率の向上、経営環境の変化に対応した機動的な資本政策の遂行を図るため」としている。
この発表をした3月25日の翌日にルネサスの株価は3%近く上昇。
しかし、ルネサスのこの自社株買いに関しては懸念の方が強いと考えている。
自社株買いとは
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そもそも自社株買いとは、企業が発行済みの株式を現預金により株主から買い取ることを意味する。
実質的には株主から払い込まれた資本を取得総額分だけ戻すこととなり、結果として純資産は減少する。
基本的には、企業が持つ現預金のうち特に使い用途のない分(余剰現預金)を出資者に返すことでその後の1株当たり純利益・純資産の価値を高めることを目的として行われる。
ルネサスの安全性の懸念
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話をルネサスに戻す。
前述の通り、自社株買いによって現預金と純資産は減少する。
しかし、ルネサスの場合はこの財務的変化を避けるべきと考える。
ルネサスは、数ある産業の中でもレバレッジの活用(負債による収益性の拡大)が難しい半導体関連に属している。
そしてルネサスの負債比率は半導体関連企業の平均的な水準と比較して相当高く、以前から財務の安全性(負債の返済可能性)に対する懸念が市場でくすぶっていた。
この状態で純資産が減少するのは、財務状態のさらなる悪化につながりかねない。
加えてルネサスは米インテグレーテッド・デバイス・テクノロジーの買収を完了。
これにより負債はさらに増えることとなった。
市場からの警戒は高まる
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こうしたルネサスの動きを受け、米格付機関大手S&Pグローバル・レーティングはルネサスの格付けを引き下げた
。
負債が膨らむことで財務指標が悪化し、早期の回復可能性が見込めないからだという。
これらの点を踏まえると、ルネサスの株主は資本効率性よりもまずは債務不履行を回避するための財務安全性に注目すべきと考える。
そもそもルネサスのような半導体関連の産業はそのキャッシュフローの不安定さから前述のように負債の調達がしづらく、設備投資やM&Aなどの資金は自社で稼いだ利益を投資するのが慣例である。
株主は今後、損益計算書ではなくキャッシュフロー計算書に着目し、本業でのキャッシュ創出実績はもちろん、買収した企業の貢献度合いを追うことで財務の安全性を測りながら投資する姿勢が重要と思われる。(執筆者:高橋 清志)