厚生労働省は、年金生活者の実態を把握するために、毎年、年金基礎調査と称するアンケート調査を実施しています。
その最新版は、平成29年度分です。
平成30年年末に公表され、厚労省のサイトに詳細がアップされています。
実際に調査が実施されたのは、平成29年12月です。
以下のお話は、ほんの1年数か月前現在の年金生活者の実態として、知っておいていただきたいのです。
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目次
繰り上げ・繰り下げ実行者の数値
多数の調査項目のうち、今回、注目したいのは「繰り上げ・繰り下げ受給に関する回答」です。
公的年金は、本来の受給開始年齢よりも「繰り上げ」して、早くもらい始めれば、その分、減額されます。
減額された年金額はその後、一生続きます。
一方、「繰り下げ」した場合、遅れてもらい始めるかわりに増額され、増額分は、その後、一生続きます。
今回、質問に対する有効回答の総数は3万6,323人です。
定められた受給開始年齢からの受給を開始した人は、3万1,539人で約87%となります。
繰り下げ受給している人は、わずか458人で約1%にすぎません。
各数値をどのように解釈するか?
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まず、約87%が定められたとおりに受給を開始しています。
世間並み、横並びが好きな日本人らしい結果と言えます。
繰り上げ受給している人は約12%ですから、全体からすれば、かなりの「少数派」です。
繰り下げ受給している人は約1%にすぎませんから、ほぼ、誤差の範囲です。
同調査では、繰り上げ受給している人に、その理由まで聞き取りしています。
結果、不明が1,906人という結果となったものの、「減額されても、早く受給する方が得だと思った」が872人で、繰り上げ受給者の約20%。
「年金を繰り上げできないと生活できなかった」の732人・約17%を上回っています。
そして、繰り下げ受給者の総数、458人を超えているわけです。
結果は、年金受給者の理解不足を示している
「減額されても、早く受給する方が得だと思った」という認識は、完全に間違っています。
繰り上げて受給した場合、減額以外にもさまざまなペナルティがあります。
あらかじめ、自分自身が早く死ぬことを知っているか、年金制度が近未来のうちにハタンする以外、「得する」ことはありえません。
調査結果の数値が示すのは、年金受給者の年金制度に対する理解不足に他なりません。
よくわからないから、「みんなと同じように、決められた年齢から受給しておこう」というのが3万1,539人、約87%の人たち、大半の心理ではないかと推測できます。
繰り下げ受給者の458人・約1%というのは、ほとんどの人が「繰り下げ受給」という制度があることを知らないことの結果ではないかと想像できます。
繰り上げ受給者のデータを見る限り、「得だと思った」が「生活できなかった」よりも多数なのですから。
繰り返しになりますが、繰り下げ受給は限られた年数の家計を年金ナシでやり繰りできれば、以後は増額された年金額が一生続きます。
「長生きリスク」に対応するには、かなり有効な手段として活用できるケースも少なくないはずです。
制度に対する理解不足で、選択肢を失うことのないようにしたいものです。(執筆者:金子 幸嗣)