元衆議院議員・元財務官僚、現在は松田政策研究所代表、バサルト株式会社社長、社団法人キャッシュレスサービス振興協会代表理事などさまざまな役職を務める、「いま知っておきたい「みらいのお金」の話(アスコム)」の著者松田学さんに、今年4月に社会人になったばかりの2人がインタビューする機会をいただきました。
雲の上のような方を目の前に、カチコチに緊張する新社会人に
と、優しく質問を促してもらい、インタビューが始まりました。

目次
普段、会えない議員の方にズバリ聞きたい!
普通であればなかなか聞けない質問を、新社会人が投げてくれました。
―星野:政治家ってやっぱりお金たくさんもらってるんですか?
―松田先生:いきなりストレートな質問ですね。ただ、政治家は皆さんが思っているほど、お金ないんですよ。
昔は違ったかもしれませんが、今は政治資金規正法により政治家がお金を得ることがすごく厳しくなっていて、政治家をやると逆に財産がなくなるという状態です。
議員報酬っていうけれど…
―松田先生:よくいわれる議員報酬って、全部政治活動にまわして、それでも足りないというのが実際のところなんですよ。
政治活動で何が必要かっていうと、やっぱり地元選挙区選挙で当選しないといけませんから、地元の事務所経費がすごいんです。
地元にいる秘書やスタッフの人件費、事務所の家賃や光熱費とか…。
活動に必要な資金、文書通信交通滞在費というのが月100万ぐらい支給されるのですが、それでも全然足りません。
そこで、仕方がないので政治資金パーティーをやります。
昔ですと、大金持ちや大企業がどーんと出してくれましたが、今は規制が厳しくてそれはできないし、個人の寄付も年間1人150万円までと決まっています。
そうするとたくさんの人、たくさんの企業から集めないといけません。
選挙をやると1,000万円単位のお金がかかりますし、地元の活動でも同じように1,000万円単位のお金が必要になってくるいうのが政治家の実情なんですね。
「いいね」と思った政治家に投げ銭
―松田先生:政治家への寄付の仕方も、将来的には変わってくる可能性があります。
例えば、政党が仮想通貨のようなものを発行するという時代がくるかもしれません。
賛成する人たちは政党コインを買うかたちで政治献金するなどは、近い将来起こりうると思います。
そうなったら、政治家に対しても今まで政党を通じて献金をしていた人が「個人に投げ銭」もできるようになります。
今は献金すると1円ってわけにはいかないでしょ。
でも1円単位で特定の個人に投げ銭するようなこともできます。
そんな感じの献金もできるようになるでしょうね。

仮想通貨が増えるっていいことですか?
―星野:仮想通貨が生まれることによって、円やドルの通貨の堺はなくなっても、それぞれの仮想通貨を持っていたら、仮想通貨同士で境や隔たりができませんか?
―松田先生:いろんな種類の仮想通貨が世界中でたくさん生まれ、それらが交換されるので流通が円滑になり、境はできないと考えます。
例えば私が「松田コイン」を発行します。
私はチェロを演奏するんですが、それを好きな人が世界中にいたら、「松田コイン」がその人たちの間で受け取られて流通するんですね。
ということを作り出し、プロデュースして世の中に訴えていくと、表明する人たちの間で流通する仮想通貨がたくさん出てきます。
小さな経済圏がたくさんできて、その間で仮想通貨同士をまた交換し合うことが起こります。
今も法定通貨が、円とドルとかユーロとか市場で交換されていますよね。それと同じように仮想通貨同士が交換されます。
仮想通貨+人工知能
―松田先生:将来的には、店で受け取りたい仮想通貨の優先順位リストがあって、自分の方で支払いたい仮想通貨も優先順位がついていて、それを人工知能がマッチングさせることも可能になると思います。
となって、いろんな仮想通貨をその時々で使い分け、みんなが使えるようになるというイメージです。
―星野:仮想通貨はこの先増える可能性は高いですか? 一本化されることはないですか?
―松田先生:多くの方が、通貨は1つの方が便利ではないかと考えます。
しかし、これから社会全体の考え方が変わっていき、法定通貨とは違うところで、自分たちが通貨を発行する時代に入ってくると思います。
そのときに「スーパー仮想通貨」が現れて、
というふうになってしまったら元の木阿弥で、せっかく良い流れになってきたものが、また悪くなります。
この世界が多様化していろんな価値観が救われる時代が来たのに、また中央集権型に戻ってしまいます。
日本人は現金志向だけれど、ポイントには慣れている
―松田先生:日本人は現金志向が強いけど、ポイント制には慣れています。
そういった意味で、わりと特定の範囲で多種多様なものが生まれやすい土壌にあるんじゃないかなと思います。
日本がやっていることを海外の人が「面白いね」ってなることはよくあります。
ゲームだとかアニメだとかいろんな流行を作ってきましたよね。
そんな感覚で楽しみながら、いろんな種類の暗号通貨を日本発で生み出したらいいと思います。
そんなに深刻に考えることではなく、自分たちが通貨を発行してみようという感覚でよいと思います。
もちろんうまくいかないこともあるでしょうが、そんな中でいいものがたくさん出てきます。
っていう状況を作るっていうのが大事だと思うんです。
学校内通貨や社内通貨も面白い
―佐々木:特定の範囲で通貨を発行したらとても面白いと思います。
学校でも
とかっていうシステムが学校の中であったら、日々の生活の中で金銭教育もできますね。
―松田先生:社内通貨っていうのありますね、一部でもう始まってるんですよね。
それをもっとやりやすくしたり、もっと広い範囲で受け取る人を募るとか、そのために今の暗号技術っていうのは応用され、適用されていくって、そういうのがこれからの方向だと思いますね。
それでも日本から現金がなくなることはない
―佐々木:仮想通貨が流通しても、日本では現金はなくならないと考えられますか?
―松田先生:私は現金はなくならないと思います。
その理由は、国民の国に対する信頼感の薄さにあります。どういうことか説明します。
スウェーデンのように現金を受け取らないという店がたくさん出てきている国もありますが、それはその国民全体が何を選ぶかということで、政府が決めるわけではないと思うんです。
スウェーデンはもともと政府による個人情報の管理が徹底しています。
日本は残念ながらそうではありません。
最近日本で導入されたマイナンバー制度も、多くの先進国では何十年も前から導入されています。
私が国会議員だったときにスウェーデンの国税庁で聞いた話では、マイナンバーは国税庁(税務署)が管理します。
赤ちゃんが生まれたら、まずは税務署に届けるんですね。
それで税務署がすべての行政機関と連携して、今後のいろんな行政手続きをその番号で1つでできるようにします。
民間企業と共有して、例えばお母さんが赤ちゃんを出産後、一緒に自宅に戻ったら、民間企業からオムツの広告が入っているとか!
「日本だったら個人情報の問題になる」って言ったら、国税庁の職員がポカンとして、「便利だからいいじゃないか」って…。
日本人は個人情報の管理に敏感
―松田先生:スウェーデンの国民は「国がきっちりと管理してくれている」っていう信頼感があるんです。
日本人はそうではなく国に監視されるんじゃないかっていう考え方でしょ。
私が大蔵省に入って間もないころ、グリーンカード制度っていうのを日本政府が導入しようとしたんです。
番号制度とか預金にきちっと名寄せをして、それで仮名預金だとかそういうものがないようにしようということをやろうとしたんですが、導入には至りませんでした。
良い悪いは別にして、日本人は国や政府が情報を把握するのを嫌がる国民であることは間違いありません。
マイナンバーカードの保有率も10%程度にとどまっています。
例えばエストニアでは、IDカードがないと生活ができないという状態になってるので、そういう国ですと完全キャッシュレスってあると思うんですが、日本の場合はとてもそこまではいかないと思います。

誰もが既に「投資」している
―佐々木:新社会人が、お金について気を付けておくべきことってありますか?
今はお金もないし、老後も不安だし…貯金のポイントなど、アドバイスをいただけるとしたらどんなことでしょう?
―松田先生:「合成の誤謬(ごうせいのごびゅう)」という言葉がありまして、若い人たちがお金を老後のために蓄えようとすると、みんなが持っいてるお金が減っていくということです。
↓
消費が減る
↓
不況になる
↓
売り上げが減る
↓
賃金カット、雇用削減
↓
所得が減る
日本はまさにそういう状況にあります。
銀行に預けているお金は誰のモノ?
―松田先生:1つ、きちんと認識してほしいことがあります。
「投資はしていない」という人が多いですが、銀行に預金をしていれば「投資」です。
銀行にお金を預けているのは、自分のお金を金庫に預けているような感じがするでしょう。
でも、そのお金は銀行のお金になって、銀行が誰かに貸しているから金利がついています。
銀行に預けた時点で銀行はあなたのお金を「運用」しているわけです。
銀行に預けていると思っているけど、実際は「銀行預金」という元本保証のローリスク、ローリターンの金融商品に「投資」しています。
制度的には1,000万円まで保証されているから「元本保証」と言っているけど、自分から離れて銀行のものになっていることは自覚した方がいいですよ。
それは隣の人にお金を貸してしまっているのと同じ状態です。
預金をしておけば安心だっていうんじゃなくて、
を考えるのが大切です。
自分の目で見てこれ「いいね」って思う
―松田先生:今の若い人はもっと日本を信用してよいと思います。
「財政がこんなに厳しいから日本は財政破綻するのではないか」なんて大嘘です。
日本は、世界一対外純資産国なので、いくらでも資金繰りがつきます。
財政が破綻する心配はありません。
日本人はお金を運用することに慣れていない
―松田先生:対外純資産が世界一なのは、日本はお金の使い方が下手だということです。
それは、小さいときからお金の教育を受けてないからでもあります。
日本人が一生懸命貯めた財産が国内で十分運用されない、あるいは十分使われないで、有り余って、世界に供給されてきたということです。
日本はそういった意味で、自分の実力の割にはすごく損している国なんですね。
それは何がいけないかというと、将来に対して悲観的すぎることなんですね。悲観的な価値観にみんなが適応してしまっている。
そうすると、企業も賃金を上げませんしね…。
しかし、日本の将来は明るいんだと信じ、日本の強さをもっと自覚していれば、確実に変わると思います。
直す方法はいくらでもある
―松田先生:私は財務省の出身ですけど、もっと次の世代への投資のためには国債をたくさん発行してもいいと思っています。
世界に余計にお金が流れてしまうなら、国内でもっと投資をして国内で回した方がいいわけです。
オススメの投資商品を教えてほしい!
―佐々木:少しずつ始められるいい投資方法や商品ってありますか?
―松田先生:個別銘柄はお伝えできませんが…。
何十年単位で見て、世の中の役に立ちそうな会社にちょっとずつ出資をしていくことが大切だと思います。
「次の社会はどうなるのか」をよく見る必要があります。
私も「未来社会プロデューサー」という肩書で、
と考えています。
革新素材の会社などもいいですね。
私は防災や減災にITを活用するプロジェクトを推進しており、その一環で、2018年7月の豪雨災害で大きな被害を受けた広島県内の3か所をドローンで実態調査したのですが、これからは防災関係やセキュリティー関係も産業として大きく成長します。
そういった次の社会を見据えた企業っていうのは、有名企業はあまりないんですね。
会社の規模はまだ小さくても、そういう信頼できるところに、少しずつ分散投資するっていうのが1つの考え方だと思います。
上場できない企業でも、STO(セキュリティトークンオファリング)で有望な企業もいくつかありますね。
用意された枠組みで投資するっていうのよりは、もっと大きく広い目で見て、自分がいいと思う産業なり企業に投じていくっていう考え方がより良いと思いますね。
防災関係を産業化しようという動きが強まる
―松田先生:防災の観点でも日本はできていないことが多いです。
不動産評価をしてそれを公表すると、それに対して
「対策をしなきゃいけない」
など、そこから多くの作業が生まれてきます。
それはまさに今やらないといけないことです。
「国民の生命を守るためにやらなきゃいけない」っていうところに、これからも産業の芽が出てくるということです。
これからの社会を担う若い人たちへ…
―松田先生:
「日本人は天才」
情報技術の急激な進歩は、想像以上のスピードを超えて世の中を変えている。
ですから、実際に何が起こるかわからないっていう状態になっていると思うんです。
想像もしなかったような未来社会が訪れると思うんですよね。
「私たちがこうやりたい」と思っていたことが、よりやりやすくなる社会になると情報技術がそっちの方に動いていくと思います。
そこの部分で日本人って一番向いてるんですね、そういうの作り出すことが…
自分たちの数十年後は、今よりももっともっと明るい日本になるように自分から動いてください。
2時間のインタビューの中で感じたこと
星野

銀行に預けているお金は「貯めている」のではなく、「運用している」という意識はなかったので新たな発見でした。
投資においても「儲ける」意識ではなく、「いいね」の意識でするというのも自分にはなかった視点だったのでイメージが変わりました。
お金に対しての距離感であったり価値観が更新されました。
佐々木

同じ年代で「仮想通貨」や「投資」に取り組んでいる人はある種の才能的なものがあって、自分とはほど遠い雲の上の話だと思っていました。
今日のお話を聞いて、自分の追える範囲なら、新たな資産や別角度での貯金のかたちとして、やっておかなくてはならないものだと感じました。
「防災産業」という言葉が一番印象的で、日本に住んでいる限り、地震や震災は生きているうちに必ず経験すると思います。
ただ被災してしまうだけでなく、防災をさらにビジネスのチャンスに転換して前もって考えておくというお話が印象的でした。
日本の明るい将来のために考える松田先生
東大出身、元衆議院議員・元財務官僚というあまりにも立派な肩書きながらも、柔らかい物腰で、新社会人の話を聞いて、真剣に答えてくださいました。
日本ではまだちょっと怪しいと感じられている「仮想通貨」についても、その魅力やこれからの発展について丁寧に教えてくれました。
日本の将来を悲観することはなく、若い人たちのアイディアが日本をどんどん良くするという話は、新社会人の胸に強く響いたようです。
これからの未来を「みらいのお金」と共に、明るく考えていきたいと思います。(執筆者:編集部)