5月上旬、住宅金融支援機構が提供する住宅ローン「フラット35」を悪用した、大規模な不正が発覚しました。
本来「フラット35」は住宅ローンであるため、「自ら居住義務」がありますが、不動産業者は当初から賃貸目的で申込者を集め、融資を引き出していました。
まだ全貌が明らかになったわけではありませんが、引き出された融資の件数が150件以上、総額は数十億規模に上るそうです。
今回は、不動産業者の手口や不正に対する罰則ついて解説します。
目次
不動産業者はどのように融資を引き出したのか
今回の事件で特徴的だったのは、中古住宅を販売する不動産業者が、今流行りの不動産投資を呼び水にして、年収200~400万円程度の若者を中心に集めたことです。
そして、この若者の中には数百万円の借金を抱えた人物など、住宅ローンの審査が通りにくい人もいました。
恐らくあらかじめ不動産業者が借金を肩代わりして個人信用情報をきれいにした上で、申込みをさせていたのでしょう。
また、住宅金融支援機構の「フラット35」は、住宅を取得しにくい人にも融資を行うという半官半民的な性格も担っているため、不動産業者のターゲットになったものと考えられます。
不動産業者は自分たちの実績を上げるために、若者に中古住宅を購入させて「フラット35」の融資を引き出し、その後その部屋を賃貸に出すことで賃料収入を得て、そこから若者に返済させていました。
若者にとっても、賃料収入が入ってくる限り「フラット35」の返済は継続でき、返済が終われば自分の所有物になるというメリットもありました。
賃貸期間中の不動産業者の巧妙な手口
もっとも、どの住宅ローンでも、このように不正に賃貸されないために、さまざまな対策を打っています。
典型的なのが、住宅ローンの償還明細などを6か月おきに送ることです。
本人がきちんと居住していれば、そのまま届きますし、宛名が違っていれば返送されます。
これに対し、不動産業者は、すべての物件の郵便物を転送扱いとすることで、返送されるのを免れていました。
「転送不可」で発送されていたら、この不正は成り立たなかったと自ら自白しているので、このあたりは住宅金融支援機構の対応が問われるかもしれません。
また、3つの金融機関を通じて「フラット35」の申込みをしたようですが、独身男性ばかりの申込みに違和感を感じなかったのか、代理店となる金融機関の融資姿勢も問題になるでしょう。
住宅ローンで無断賃貸は重いペナルティ
今回、上記のスキームが成り立ったのは、住宅ローンならではの低金利を活用したためであり、資金使途自由な不動産担保ローンでは金利が高く不可能でした。
故に、最近の不動産投資ブームを反映して、賃貸用に住宅ローンを利用しようとする人がいるのですが、それは明らかな契約違反です。
上記のように定期的に郵便物を送り、本人居住を確認する以外にも、第三者からのタレコミによる現地調査など、申込人が考えている以上に「自ら居住義務」の確認は行われています。
そして、不正な賃貸が判明した場合には、直ちに賃貸契約を解除させ、悪質であれば詐欺罪で金融機関から刑事告訴される場合もあります(全額返済も求められます)。
もちろん単身赴任などやむを得ない場合は、金融機関が承認すれば問題なく、要は悪質な賃貸には断固とした態度で挑むということです。
不動産投資では、何かとおいしい話ばかりが目立ちますが、今回の事案を教訓に、冷静な判断力を身に着けていただけたらと思います。(執筆者:1級FP技能士、宅地建物取引士 沼田 順)