育休明けの社員に対するカネカの処遇による炎上問題。
この件についてはさまざまなメディアで、大企業の社員に対する労働待遇に関する議論がなされているため、今回はあえて投資の視点で解説していきます。
今回注目するのは、将来「日本企業の抱えるリスク = 日本企業の株を保有する投資家のリスク」についてです。
具体的には、ESG投資を行っている欧米機関投資家による訴訟により、ある日突然企業価値が欠損する恐れについての注意喚起です。
現在見向きもされないこの問題は、ある日突然多くの日本企業のリスクとして浮上する可能性があるため、日本株で資産運用をしている個人投資家は今からしっかり認識しておきましょう。

目次
ESG投資とは
ESG投資とは、
・「社会」
・「企業統治」
を重視している企業に投資をして長期的に優位性を得ようとする投資手法
です。
ESG投資をする機関投資家や社会の目を気にして、昨今の大企業はCSR活動をアピールする傾向があります。
炎上しているカネカでも、CSR基本方針としてアニュアルレポート内で次のようにアピールしています。

ESG投資の優位性に関する認識の違い
ひと昔前は、このような社会的意義のある投資は、通常の投資よりリターンが劣ると考えられてきました。
しかし、昨今では、長期的に優位性があると認識され始めたため、すでに欧米の機関投資家の間では投資手法の1つとして採用されています。
ただ、日本では、社会的意義はあってもリターンの面では疑問視されているのが現状です。
この感覚の違いが、投資家向けのレポート内に安易にCSR活動をアピールしてしまう原因になっていると考えられます。
ESG投資のポートフォリオロジック
環境・社会面での企業の取り組みを考慮して、投資判断をする流れを普及させているGSIAでは、ESG投資をする際の具体的な投資手法をいくつかに分類しています。
その中には、今回のカネカの件で問題になっている人権や労働環境を、重要な判断材料としているものも当然あります。
GSIAには莫大な資産を運用する機関投資家(年金基金も)も加わっているため、企業価値を高める目的でCSR活動を投資家向けにアピールしているにもかかわらず、実際には全く行われていなかったとなれば、ESG投資をするうえで重要になる判断材料が虚偽だったことになります。
このような事例が多発すれば、欧米機関投資家による訴訟が多発してもおかしくありません。
なんとなくCSR活動をアピールする日本企業の風潮

もちろん真剣に社員の労働環境を整えている企業もありますが、すでに紹介した通り、なんとなくCSR活動をアピールしている企業の方が多いのが現状でしょう。
でなければ、ブラック企業なんて言葉は存在しないはずです。
「とりあえず投資家向けのレポートに書いておく雛形程度」に考えていると将来の株価暴落のリスク要因になることを、どれだけの企業の経営陣が理解しているのでしょうか。
今回のカネカのようなことが起これば、当然社内でメディア向けの対応などの対策をとるはずです。
そして、ESG投資を行っている投資家向けの対策も同時に行うのが自然な流れです。
しかし、今回は後者の話題が全くもって出てきません。
そのため、ESG投資を行っている機関投資家による訴訟リスクの対策について、カネカに直接電話取材を行いました。
カネカへの電話取材で見える日本企業の経営陣の認識
以下、カネカの担当者とのやり取りです。(2019年6月5日時点)
Q.「今回の炎上の件について」
A.「確定していないので申しあげられません。また、そのような直接の連絡もないため、お答えできません。」
Q.「サイトの一部ページの削除は意図的か」
A.「サイトリニューアル前のページがそのままになっていた。
このタイミングで削除したこと、旧ページの削除をリニューアル後に行っていなかったことで、誤解を招いたことは申し訳ありません。」
Q.「ESG投資を行っている欧米の機関投資家から訴訟を起こされた場合、対応策はあるのか」
A.「この場ではお答えできません。」
最後の質問には、まったく予想もしていなかったといった反応でした。
CSR活動を参考にしたESG投資家への説明は、まったく用意していなかったようです。
下記は、カネカのアニュアルレポートを一部抜粋したものです。
「ステークホルダーに対して、企業活動を通じて満足度を高め、企業価値を向上させていくこと。」
これはカネカ1社だけの問題ではありません。
安易に上記のような文面を機関投資家向けに発信することが後々どれほどのリスクになることか、上場企業の経営陣は真剣に考える必要があるでしょう。

また、日本株で運用する個人投資家も、
「考えるだけでなく行動しているのか」
を見極める必要があります。
そうでなければ、老後のために行っている資産運用は盤石だとは言えないでしょう。
企業のCSR活動、ポーズではなく本気の体質改善を
いまや企業のCSR活動は、奇麗ごとの範囲を超えています。
社会的意味合いだけでなく、投資家のリターンにも大きく影響してきます。
今回の件で、社員の労働待遇改善とESG投資家対策を進める流れが、カネカ1社だけではなく、日本企業全体に波及することを願うばかりです。(執筆者:三田 亮)