「婚前契約書」は、歌手のSILVAさんなどが作成したということで話題になっています。
「婚前契約書」という言葉自体、聞きなれないものですが、どういった内容の書面でしょうか。
作成にあたっての注意点などを、それと似た制度も紹介しながら取り上げます。
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目次
「婚前契約書」どんな内容を盛り込むの?
婚前契約書というのは、あえて定義すれば、
夫婦の生活のこと
仕事のこと
財産管理の仕方
子育てのこと
親の介護のことなど
を結婚する前に、あらかじめ取り決め、書類にしたものといえるでしょう。
通常は同居する前や入籍する前に決めごとを取り決めておく、というイメージではないかと思います。
再婚やまとまった遺産のある場合、夫婦生活が破綻したときのために
契約内容は自由に決められるので、財産以外に関することでも必要があれば取り決めることになります。
同居してから問題になりそうなことについて、お互い話し合って決めるのが良いでしょう。
実際のところ、初婚の場合は結婚生活でどんなことが問題になるかイメージしづらいところがあるのではないかと思います。
ですので、こういった契約書を作成しよう、と思われるのは再婚等、これまでの経験を踏まえてのことが多いのではないでしょうか。
また、会社や病院を経営していて、「法人の資産と個人の資産を明確に分けておきたい」と思うこともあるでしょう。
あるいは引き継いだまとまった遺産がある場合のように、結婚前にある程度以上の資産があり、それと分けてこれからの夫婦生活で築き上げる財産の管理などを考えたい場合もあると思われます。
これまでの資産を保全する目的でこういった「婚前契約書」を利用することもあると思います。
また、夫婦生活がだめになってしまった場合に備えて、慰謝料や財産の分け方などについても決めるケースもあるようです。
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慰謝料などは妥当なラインで設定しておくこと
夫、あるいは妻の収入に比べてあまりに法外な金額の慰謝料を取り決めても(たとえば、夫あるいは妻の年収が500万円前後であるのに対し、慰謝料を5,000万円と決めたとして)、そもそも支払いが困難であれば意味がないですし、高額すぎると契約内容が認められない可能性もあります。
こういった離婚後に問題になりそうな慰謝料の相場については、あらかじめ弁護士など専門家に相談をし、妥当なラインプラスαにしておくのが、実効性もあります。
なお、離婚になった場合の慰謝料でも、条件(離婚に至ること)さえ成就すれば金銭の支払いをしなければならなくなります。
「公正証書」にしてもらうと安心です
あらかじめそれに備えて支払義務ある人に公正証書で、ただちに強制執行(給与や資産の差押さえなど)ができるような条項(「強制執行認諾文言」といいます)を入れておくことも考えられます。
しかし、実際のところ離婚になっても慰謝料がいくらになるかはこれまでの結婚生活の状況や離婚に至った原因などに立ち入って判断する必要がある事柄ですので、婚前契約書を作るときはそういった「強制執行認諾文言」まで入れるのは現実的には難しいと思います。
また養育費を定める場合には、婚前契約では子供の人数もわからないので、ある程度の期間ごとに見直しをするのが前提になるでしょう。
こうして定めた「婚前契約書」ですが、当人同士が交わすだけの単なる書類(合意書)でもよいです。
全国各地にある公証人(裁判官、検察官などのOBといった、法律の専門家)が書類を作成してくれる公証人役場で「公正証書」という書類にもできます。
「公正証書」にしてもらうと、公証人役場でも原本を保存してくれますし、何より印鑑証明や本人確認手続きをへて作るものになりますので、「中身について知らずに書類作成をした」といった話にならずにすむでしょう。
じっくり内容を吟味しての作成になるのが普通でしょうから、その分その後の結婚生活でも文書の内容を実践していく心構えにもなります。
民法にも規定されている「夫婦財産契約」とは?
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これに対して、実は似て非なる制度で、「夫婦財産契約」というものがあります。
これは、財産に関する契約で、内容としては夫婦の財産の所有、管理、処分や債務の負担、結婚生活解消にあたっての財産の清算について取り決めるものです。
この「夫婦財産契約」、民法で規定されているのですが、年間10件くらい(0.1%)しか利用されていないという制度で、残念ながら使い勝手が良くないのです。
それというのも、夫婦財産契約の中身については、基本的には自由に決めてよいとされていますが、婚姻届出前までに法務局で登記をしなければ、夫または妻から財産を譲り受けた人に、財産契約の内容を主張できないとされているのです。
また、いったん財産関係について契約で取り決めてからは、婚姻届提出後に変更できないとされており、柔軟性がないものになっています。
ちなみに夫婦財産契約がない場合ですが、法定財産制といって、夫婦のどちらかが結婚前から持っている財産は所有している人自身の財産(「特有財産」といいます)となり、夫婦いずれの財産か分からない財産が、夫婦の共有であると推定されることになります。
外国では、夫婦財産契約をする習慣があること、契約のパターンを複数定めて選択しやすくしていたり、結婚後も内容の変更ができるようにするなどして、夫婦財産契約を利用しやすくなっています。
この夫婦財産契約を利用しやすくして、夫婦それぞれが利用しやすい制度にしようとの動きが一時あったようですが、今まだ手付かずのままになっています。
常日頃からの夫婦のコミュニケーションが大切です
仕事柄、筆者は結婚生活が続かなくなってしまった方のご相談を受ける立場ですが、耳にすることが多いのは、
「家事の負担が大きいのに話し合いができなかった」
といったお話しです。
女性も結婚後仕事を続けることが増え、家事をどうするか、子育てをどうするかなど、これまで以上に夫婦の間で話し合う必要が増えています。
ただ、こういったことは最初に決めないと、後から話し合いが難しいことも多いです。
「婚前契約書」と言っても堅苦しく考えず、できるところから決めていって、その後の生活に合わせて修正するのが良いでしょう。(執筆者:片島 由賀)