消費税率10%への引き上げは2度延期されていますが、令和元年10月からの増税は、教育無償化も使途することで信を問う選挙を行っており、既定路線として固まっていました。
しかし平成の終わりから令和の初めにかけて、政府与党関係者の言動から消費増税延期論が再燃しました。ただ毎年税制改正されており、例年3月末には法案可決成立に至ります。
消費増税を前提にした平成31年度(令和元年度)税制改正法案が成立した後だったので、まだ増税前とはいえ4月を過ぎて延期したら土壇場になります。
もっとも延期観測は、6月に政府の骨太方針に盛り込む等の動きで、急激にしぼみました。
財政健全化・適正な予算執行に基づいた増税延期反対論は、実体経済への影響はともかく一本筋通った反対論ですが、消極的な反対論も出ています。
残念ながら、これは税の複雑化が大きな原因でもあることも否定できません。

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「軽減税率の準備を進めたのに」という反対論
令和元年10月からの消費税の重大な変更点として、標準税率10%と軽減税率8%の複数税率を採用しているというものがあります。
6月後半になって、経済産業省・中小機構の軽減税率広報をご覧になった方もいらっしゃると思います。これまでの消費増税では目にしなかった広報です。
レジ・経理システムを複数税率対応に改修した上で、事業者には軽減税率制度を理解してもらわなければいけません。
国税庁・各税務署は軽減税率制度の説明会を各地で行っています。
また持ち帰りを実施している外食店やイートインコーナーのあるコンビニは、複数税率のあいまいな線引きにも対応しておりました。
手間をかけて複数税率の準備をしたのだから、今更増税延期されても困るというのが、消極的反対論です。
複数税率の負担を事業者に押しつける意味はあったのか?
複数税率に変更することによって、事業者が行う消費税の申告も複雑化します。

景気対策の意味もあったが複雑な軽減税率を実施したいがために、消費増税延期の足を引っ張ったとすれば、本末転倒のようにも感じられます。
消費増税延期は決まったものを覆す問題点はありますが、業界で見れば広範囲に影響します。
筆者の知る限りでは、消費増税に賛成しているエコノミストや相場関係者ですら、世界の景気が減速しているタイミングでの増税は問題だと指摘しているのも現実です。
2019年に入って中国が景気対策としての減税や社会保険料軽減を行うのを見ると、増税延期で景気対策を打つ発想はさほどおかしいものとは言えません。
多数の増税対策が仇に
もし本当に増税延期となればはじめて複数税率になる時期も延期され、令和元年10月に税率変更が起こらないよう、これまでにない事態に情報システムの改修を短期間で行うことになります。
平成から令和になった頃にシステムトラブルが多発したことは記憶に新しく、システム対応にまた悩みの種を増やすことになりかねません。
消費税10%増税に対する経済対策のメニュー(未実施に終わりそうな増税延期も含む)を多数そろえたがために、各々の対策が相互に足を引っ張り合う残念な状況になりつつあります。
また軽減税率は予定通り実施したとしても混乱は予想され、ここから税の簡素化を考えていかないといけない事態が想定されます。
もっとも平成30年には住宅特例・証券税制など個人所得の課税において、行政側のミスが相次いで明るみになったため、本来ならこの段階で考えてないといけない話です。
「老後2,000万問題」にも一石投じる複数税率の是非

公的年金だけでは老後の生活を賄うのに不足するため、自助努力が必要(試算の一例として出された数字が2,000万円)…このような内容を盛り込んだ金融庁金融審議会の報告書に波紋が広がりました。
テレビ中継もされた国会で紛糾する事態にもなり、令和元年参院選の大きな争点になりそうです。
公的年金の給付が不十分な点が国民の不満につながるのは最もですが、年金不安を選挙の争点化して国民に満足のゆく年金制度に変わるかは疑問です。
ただ社会保障の財源不足にもつながる消費税の軽減税率に関しては、もともと与野党で賛否が分かれており、運用の複雑さ・曖昧な線引きによる弊害を含めて争点化して信を問う意義はあると言えます。
(執筆者:AFP、2級FP技能士 石谷 彰彦)