親が死亡したとき「遺言書」が残されているケースがあります。
その中に「長男にすべての遺産を相続させる」などと書かれていたら、他の子どもたちはまったく遺産を受け取れないのでしょうか?
実はそうとも限らず「遺留分」を請求できる可能性があります。
また相続人全員が合意すれば「遺産分割協議」を行って、遺言とは異なる方法で遺産を分けることも可能です。
以下で遺言書によって自分の持分すらももらえなくなってしまった場合の対処法をご説明します。
目次
1.遺言書の有効性を確認する

相続が発生したときに遺言書が残されていたら、まずは「遺言書の有効性」を確認する必要があります。
「自筆証書遺言」は有効性が低め
特に「自筆証書遺言」の場合には、要件をみたしておらず無効になるケースが多いです。
自筆証書遺言とは、遺言者が全文を自筆で書かなければならない遺言書です。
誰かが代筆したり、遺産目録以外の部分をパソコンで作成したり日付や署名押印が抜けていたりするだけで、全体が無効になります。
ですので、自筆証書遺言があるときは、有効性をしっかりと確認しましょう。
遺言作成時の遺言者の状況もポイント
遺言作成時の遺言者の状況も確認しましょう。
作成時点において遺言者に、遺言の内容及び遺言の結果どのように財産が承継されるかが理解できる能力、「遺言能力」が無い場合も、遺言が無効となります。
例えば、重度の認知症であり、家族の顔も分からないような状況の場合には、遺言能力が無いとされる可能性が非常に高いでしょう。
このように、遺言がある場合には遺言書の有効性を必ず確認をし、有効性について疑問がある場合は、専門家に相談する等しましょう。
そして、有効性を争う場合は、遺言無効確認訴訟等の手続きを検討しましょう。
2.相続人全員で協議し、遺言書と別の方法で遺産を分ける

遺言書があっても、必ずその内容に従って相続手続きを進めないといけないわけではありません。
確かに「遺言は法定相続に優先する」のですが、法定相続人が全員合意して遺言内容と異なる遺産分割協議をすることも可能です。
不公平な遺言書があって納得できないなら、他の相続人に声をかけて「遺産分割協議をしよう」と説得してみましょう。
ただし遺言によって多くの遺産を受けとる相続人は通常このような呼びかけに応じないので、説得にはかなりの努力と根気を要します。
遺産分割協議は「多数決」ではなく「全員の合意」が必要なので、遺贈を受けた相続人も含め全員の相続人が同意しない限りは遺言書によって相続手続きを進めるしかありません。
3. 遺留分侵害額請求をする
遺言書が有効で、他の相続人を説得しても遺言書を無視して遺産分割協議することに同意してもらえず、遺言によって自分の取り分が大きく減らされたりゼロになってしまったりした場合、それ以上何の主張もできないのでしょうか?
実はこのように遺言書によって取得分が失われた場合、「遺留分」という権利を主張して金銭賠償を受けられる可能性があります。
「遺留分」とは
「遺留分」とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められた最低限度の相続分になります。
具体的には、以下がそれぞれの遺留分として認められます。
・ 上記のケース以外…2分の1 × 法定相続分
例えば、法定相続人が長男・長女の2名で、長男に財産1,000万円すべて相続させる旨の遺言がある場合、長女の遺留分は、いくらになるでしょうか。
直系尊属のみが相続人のケースではないので、
1,000万円 × 4分の1 = 250万円
長女は、長男に対し、遺留分として250万円を請求できるようになります。
遺留分の請求方法・期間
そもそも遺留分は、「請求」をしないと認められない権利となります。
ですので、自分に「遺留分」があると分かっていても、財産をもらいすぎている他の相続人に「遺留分」を請求しないと、遺留分に相当する金銭を得られません。
また、「遺留分」の請求には、期限があります。
(2)相続開始から10年が経過したとき
上記のいずれか早い方の期限までに請求をしなければなりません。
期限の前に遺留分を請求したことが明確になるよう、遺留分の請求を行うときは、内容証明郵便で送付するのが良いでしょう。
遺留分について、「交渉」でまとまらない場合は、家庭裁判所の調停手続や地方裁判所の訴訟の手続きをとります。
裁判所の手続きをとる際は、弁護士に相談するのが良いでしょう。

遺言により自分の相続分がないときの対処法は3つ
あらためて、不公平な遺言書が見つかったときには、次のように対応しましょう。
2. 他の相続人に「遺言書を無視して遺産分割協議できないか」打診する
3. 早めに遺留分請求をする
以上が弁護士視点からのアドバイスです。
参考にしてみてください。(執筆者:松村 茉里)