公的年金を運用するGPIFは、2018年度の運用実績を7月5日に発表しました。
前期の運用利回りは1.52%と2.4兆円の黒字で、資産残高は159兆円を超える世界最大規模の機関投資家となっています。
その発表の中で資産の2.2%に当たる3.5兆円を「ESG投資」に充てており、1年前の2.3倍に増えたことに注目が集まっています。
ここでは「ESG投資」の意味と、個人でもできる「ESG投資」の手法をご紹介します。

目次
ESG投資の趣旨とその内容
ESG投資の趣旨は、投資対象とする企業が単に売上高や利益が大きいことだけで株価が上昇するという従来の考え方から、「社会的責任を果たしている企業は、長期的に見て投資リターンも大きくなるはず」と考えることです。
社会に良いことをしている企業を、倫理的な視点から選ぼうという訳ではありません。
まずはESG投資の意味と具体的にはどういった活動をする企業への投資を指すのか、確認していきましょう。
ESGは何の略か
そもそもESGとは、何の略でしょうか。
S:「社会」(Social)
G:「企業統治」(Governance)
欧州最大の資産運用会社シュローダーでは、業界の成長性や個社の利益率などの業績に加え、定性評価の項目にこの3要素への取組みを考慮して投資判断をしているようです。
ESGが取り上げられたきっかけとは

1990年代に台頭したCSR(企業の社会的責任)への取組みが定着しました。
次のステップとして2006年に国連のアナン事務総長(当時)が責任投資原則(PRI)の中で、ESG投資推進を「投資家の取るべき行動」と定義したことが、世界的に動き出したきっかけだと言われています。
その後、2008年のリーマン・ショックなどの金融危機を経て、企業が短期的な利益を過剰に追求することへの批判が高まったこともESG投資を重視する流れにつながったと言われています。
GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も、2015年9月責任投資原則(PRI)に署名しました。
ESGとは、どのような活動をする企業への投資なのか
趣旨や理念をご理解いただいたところで、具体的にどういった活動をする企業へ投資するのか見てみましょう。
「環境」への具体的な取組み内容
「環境」に配慮した企業の取組みとしては、次のような活動が挙げられます。
プラスチック製のストローから紙製への変更、買い物袋の有料化による資源ゴミの削減など。
≪省エネ、CO2排出量の削減努力への取組み≫
飲料メーカーによる水源地の保全事業、CO2を排出しない電気自動車への取組みなど。

「社会」への具体的な取組み内容
「社会」に配慮した企業の取組みとしては、次のような活動が挙げられます。
原産地での材料調達や雇用創出、従業員の勤務時間自由化や在宅勤務への取組みなど。
「企業統治」への具体的な取組み内容
また「企業統治」に配慮した企業の取組みとしては、次のような活動が挙げられます。
積極的な株主還元、外部取締役や女性管理職の登用など。
これらの活動を事業拡大のチャンスと捉え積極的に取組んでいる企業は、長期的に見れば企業価値の向上や持続的成長につながり、結果として投資リターン(収益)を得られると考えるのが「ESG投資」です。
GPIFもどのような運用を行うのかは市場への影響だけでなく、社会に対しても責任があると考え投資原則を定めています。
加えてGPIFでは投資対象としての直接的なESG投資だけではなく、運用を委託する運用会社の評価基準の1つにESGの要素を取り入れており、直接的な投資よりも影響度が高くなっています。
最近、信託銀行や運用会社が株主総会で反対票を投じる記事が取り上げられますが、これはGPIFから運用を委託されている側の責務を果たしている行動の1つですね。
個人でもできる「ESG投資」
注目が集まるESG投資ですが、個人の方が知り得る情報源で適正に投資判断することは不可能に近いでしょう。
運用会社でも、担当者が各社にヒアリングして得る情報を駆使して評価するなど、定量的な決算情報だけではなく定性的な要素が多く含まれるからです。
そこで、個人でもESG投資の波に乗れる投資信託を2つご紹介しましょう。
1. CAM:ESG日本株ファンド
投資対象を日本株に絞った、日本初の個人投資家向けESG投資信託です。
これまでの財務スコアを50%、ESGスコアを50%の割合で100社を抽出し、その中から投資対象を絞る運用プロセスを取っています。
ファンド設定(2017年1月)から今年6月末までのリターンは + 10.14%、同期間のTOPIXは + 0.12%なのでファンドの運用プロセスがうまく機能していると思われます。

2. シュローダー:アジアパシフィック・エクセレント・カンパニーズ
投資対象をアジア・太平洋地域に広げた際の投資信託はこちらです。
発展途上国では日本よりもESGへの取組みは正に発展途上であり、その意味で投資妙味が大きいことが魅力です。
なお直近の国別割合は国内株式4割、海外株式6割となるため、アジア・太平洋圏の株式相場以外に為替変動リスクも伴います。

ESG投資はすぐに投資効果が出る手法ではない
見ていただいたように、ESG投資は理念に基づいた投資手法かつ20年未満の投資手法につき、確実にまたはすぐに投資効果が出る手法ではないと思っておきましょう。
しかし今後増えることはあっても、減ることはない投資手法として、長期運用には採り入れておきたい(今からでも間に合う)手法ですね。(執筆者:中野 徹)