不動産投資の王道とも言えるアパート・マンションの賃貸には家賃滞納というリスクが付きものです。
家賃滞納者に長期間居座られると、資産であるはずの不動産が一転して負債になりかねません。
家賃滞納者にどのように対処すればいいのかは悩ましい問題ですが、収益を上げるために賃貸経営をしているのですから、できる限り損失を抑えて、収益を最大化する方策を取りたいところです。
そんな観点から、この記事ではおすすめできる3つの方策をご紹介します。
3つの方策の中でも、後にご紹介するものほどおすすめの方策ですので、最後までお読みいただければ幸いです。

目次
方策1. 一般的な対処:立ち退き請求訴訟 + 強制執行
家賃滞納者が発生したら、以下のように対処するのが一般的です。
連帯保証人に請求
契約解除通知(内容証明郵便)
建物明渡請求訴訟
強制執行
弁護士に相談すると、多くの場合はこの方策をすすめられます。
逆に言うと、これよりも上手な方法をアドバイスしてくれる弁護士はそう多くありません。
注意点:訴訟と強制執行には時間と費用がかかる
この方法には、とにかく時間と費用がかかります。
賃貸借契約を強制解除するには、家賃の滞納が始まってから少なくとも3か月以上は待たなければなりません。
それから内容証明郵便を送って期限を切って対応を待ち、その後に訴訟の提起、強制執行となります。
この一連のプロセスには1年以上かかることも少なくありません。
費用の面でも、
・ 強制執行費用
・ 弁護士費用
・ 次の入居者の募集に備えたリフォーム費用
まで考えれば100万円は下らないケースも多いでしょう。
半年から1年も家賃収入が入ってこないうえに、これだけの出費がかかるのは得策ではありません。
メリット:定型的に処理できる
この方法のメリットは、時間とお金さえかければ定型的に処理できることです。
弁護士に依頼すれば法的な手続きは弁護士にお任せできますし、借り主を強制的に立ち退かせる場面でも裁判所にお任せで構いません。
・ 不動産賃貸借の知識がほとんどない方
・ 多数の賃貸物件を管理していて個別に借り主と向き合う余裕のない方
にはおすすめの方法です。

方策2. とにかく早く立ち退いてもらう:滞納家賃の支払い請求調停の申立て
1.の訴訟と強制執行による方策は損失が大きくなります。
家賃を払ってくれない借り主に貸した物件はある意味「不良債権」となるので、早期に損切りをしたいところです。
早く立ち退いてもらうためには、早く対処するのが基本です。
Step 1. 借り主に直接催促
家賃を滞納されたら、翌日には電話で催促しましょう。
それでも支払いがなければ、1週間後くらいには借り主を訪問して催促したほうがよいでしょう。
借り主とのやり取りを通じて、
・そうではなくても経済状況が厳しい人である
ことがわかったら、訴訟や強制執行を待たずにすぐに出ていってもらうことを考えた方が得策です。
非情なようですが、このようなケースでは、より安い家賃の物件に移転して生活を立て直してもらう方が借り主のためにもなるというものです。
Step 2. 借り主との話し合い
早く出ていってもらう方法としては、まずは借り主と話し合います。
すぐに出ていってもらえるのであれば滞納した家賃は免除することを提案してもよいでしょう。
さらには、引っ越し費用を敷金から負担してあげることを提案してもよいかもしれません。
馬鹿らしいかもしれませんが、訴訟や強制執行を待つよりは損失を抑えることができます。
Step 3.「滞納家賃支払い請求調停」の申立て
話し合いがうまく行かない場合には、調停を申し立てるのが有効です。
のです。
1か月でも滞納されたら、すぐに申し立てましょう。
調停なら弁護士に依頼しなくても多くの人は自分でできますし、費用も数千円ですみます。
契約解除・建物明け渡しを請求する訴訟は少なくとも3か月以上の家賃滞納があって、貸し主と借り主の信頼関係が破壊された状態でなければ提起しても勝てません。
しかし、滞納家賃の支払いを請求する訴訟や調停なら1か月の滞納でも申立てができるのです。

方策3. 退去を求めずに家賃を支払ってもらう方法
借り主を立ち退かせて新たに入居者を募集する方法では、どうしても損失が発生します。
できることなら、一度入居した借り主には長く住んでもらって、きちんと家賃を支払ってもらいたいところです。
そのための方法は、早く出ていってもらう方法と同じです。
Step 1. 電話・手紙・口頭での支払い催促
まずは電話や手紙、口頭で支払いを催促します。
家賃を支払ってもらうためには、できるだけ訪問して話し合うことがおすすめです。
電話や手紙よりも、顔を合わせて話し合う方が心理的強制力が高いからです。
ただし、態度は穏便に、支払ってもらいやすい方法を柔軟に話し合うのがポイントです。
できれば、普段から顔を合わせてあいさつをし、ときには世間話をする関係を作っておくのが理想的です。
Step 2.「滞納家賃の支払い請求調停」
話し合いがうまく進まない場合は、調停を申し立てましょう。
早く出ていってもらう方法と同じで、滞納家賃の支払いを請求する調停です。
電話や手紙を無視したり、訪問しても留守が多い借り主でも、多くの場合、調停には出てきます。
もし出てこない場合には、支払督促や少額訴訟を検討します。
調停の席上でも穏便に話す方が得策です。
滞納家賃の支払い方については、
・ボーナス払いをしてもらう
など、相手の事情に応じて柔軟に話し合いましょう。
調停がまとまると、確定判決と同じ効果があります。
つまり、強制執行ができるということです。
Step 3. 家賃回収の強制執行で再度話し合い
調停が成立して家賃の支払いが始まっても、しばらくするとまた滞納が始まることは多いです。
そんなときには、遠慮なく強制執行を申し立てましょう。
ここでの強制執行は、立ち退きではなく、あくまでも滞納家賃を回収するためのものです。
執行の種類としては、相手の家財道具などを差し押さえる「動産執行」です。
個人に対する動産執行は空振りに終わることも多いのですが、本当の目的は家賃を払ってもらうことにあります。
執行官と一緒に借り主の部屋に行き、そこで任意に家賃を払うように借り主を説得するのです。
ここまですると、観念して滞納家賃を払う借り主がほとんどです。
強制執行なら無理やり鍵を開けることができます。
鍵屋さんを同行するので、借り主に居留守を使われても、鍵を壊してでもドアを開けることができるのです。
強制執行の日時は執行官等と打ち合わせの上で決められるので、できる限り借り主がいそうな時間を狙って行くべきです。
借り主が不在だと説得ができないので、不在のまま差押えを行うことになります。

賃貸経営は「事業」資金か労力のいずれかを要する
家賃滞納による損失を最小限に抑えて収益を最大化する方策は以上ですが、手間暇と気苦労はどうしてもかかってしまいます。
難しいことを考えるよりは、弁護士に依頼して建物明け渡し請求訴訟・強制執行をする方がよいと思う方もいらっしゃると思いますが、それはそれで構わないと思います。
アパート・マンションの賃貸経営は「事業」ですので、資金か労力のどちらかを投下するのは避けられないのかもしれません。(執筆者:川端 克成)