先日、大物タレントの離婚がニュースとなり、数百億円とも言われる財産のほとんどを妻へと財産分与したと話題になっています。
「離婚の際、夫が妻にほとんどの財産を渡さないといけないのか?」と疑問に思った方もおられるでしょう。
法律上、どちらが離婚の申出を行ったかに関わらず、財産分与は「夫婦で折半」が原則であり、ほとんどの財産を一方当事者が取得するということはありません。
今回は、離婚の際の財産分与の方法について、事例解説も含めて弁護士がご説明します。

目次
財産分与は「折半」が原則
離婚時に行われる財産分与は、「夫婦で2分の1ずつ」が原則です。
よほど特殊な事情でもない限り、裁判所は夫婦で2分の1ずつに分けるように審判や判決を下します。
ただし夫婦の財産形成への貢献度が、一方当事者による特殊な技能や地位などによるものであれば、貢献度の高い人の財産分与割合が増やされるケースはあります。
この原則を今回の大物タレントさんのケースにあてはめると、財産を夫婦で2分の1ずつにするのが基本ですが、夫婦の資産は大物タレントさんの特殊な技能や立場によって形成された割合が大きいと考えられるので、夫側の取得割合が多くなってもおかしくなかった状況です。
不倫やDVがあれば、慰謝料を支払う義務が発生する
離婚時の給付は財産分与だけではありません。
不倫やDVなどの有責行為があれば「慰謝料」の支払い義務も発生します。
一般的な離婚訴訟で、不倫していた側や暴力を振るっていた側は、相手に150~300万円程度の慰謝料を支払うことになります。
もしも夫が不倫して離婚に至った場合、夫は妻に夫婦の共有財産の2分の1+300万円程度の慰謝料を払えば、それで離婚時の給付としては一般的には十分、ということです。
やはり全財産のほとんどを相手に渡さねばならないという結果にはなりません。
なぜ、大物タレントさんは多額の財産分与を行ったのか
今回、大物タレントさんは妻に対し、数百億円と言われるほとんどの財産を渡したと言われています。
しかもその財産の多くは、大物タレントさん自身の貢献によるものと考えられるので、離婚訴訟で争えば半分以上を自分が手にすることができたかもしれないものです。
それにもかかわらず、なぜ離婚訴訟で争わなかったのでしょうか?
非公開での離婚を望んだ

1つには、大物タレントさんは、世間には内容については非公開で離婚を成立させたい気持ちが強かったことが考えられます。
日本では、離婚方法として協議離婚、調停離婚、裁判離婚があります。
協議離婚なら夫婦が離婚に同意して協議離婚届を提出するだけで離婚が成立します。
調停離婚であれば、家庭裁判所の調停期日に本人が出席しなければ調停離婚を成立させることができません。
そのため、裁判所に出向く姿を週刊誌に撮られて、あることないことを記事にされるリスクがあります。
また、裁判離婚であれば、口頭弁論期日は原則として公開されます。
そのため、大物タレントの私生活といった重要なプライバシーが、マスコミ等に公開されてしまうリスクがあります。
そのため、大物タレントさんのプライバシーが侵害され、ご家族にも悪影響が出る可能性がありますし、大物タレントさんのイメージに傷がつく可能性があるため、協議離婚を望まれたと考えられます。
ただし協議離婚には相手の同意が必要です。
離婚を望んでいない相手に離婚を納得さしてもらうには、離婚条件についても相場以上の提案をすることが多いです。
今回の場合も、離婚を望むのは大物タレントさん側ですので、妻側に協議離婚に応じてもらえるように、相場よりも妻側に有利な離婚条件で離婚が成立した可能性は高いと思います。
前妻への謝罪や感謝の気持ち
大物タレントさんと妻の婚姻期間は長期であり、婚姻期間中、ほとんどの期間が別居との報道もありますが、妻の支えがあってここまでやってこられたという面もあるでしょう。
大物タレントさんとしても、このタイミングで、離婚を切り出された妻の気持ちを考えてみたとき、離婚することについて申し訳ないという気持ちや、今まで支えてくれたことに対する感謝の気持ちをもったことも十分に考えられます。
そこでこうした妻への感謝や謝罪の気持ちを込めて、多額の財産分与を行った可能性も考えられます。
離婚後も生活には困らない
大物タレントさんは、日本に限らず、多数のファンがいる有名人であり、収入も一般とは比較にならないでしょう。
70歳を過ぎた今も、さまざまな番組に出演していますし、離婚後も額の収入を得続けられる可能性が高いでしょう。
そのため、今後の収入だけでも、生活に困らないことから、多額の財産分与に合意した可能性も考えられます。
もしも財産分与しなかったらどうなっていた?
もし大物タレントさんが財産分与の額にこだわった場合、どのようなことが予想されたのでしょうか?
離婚調停を申し立てる
妻が離婚に応じてくれないとなると、離婚調停を申し立てて離婚を進めなければならなかったはずです。
調停を申し立てれば月に1回くらいの頻度で家庭裁判所に行って、妻側と調停委員を間に挟んで話し合いをしなければなりません。
調停でも妻が離婚を受け入れない場合、調停は不成立になってしまいます。
離婚裁判となる

離婚調停が不成立になったら、離婚訴訟を起こさないと離婚できません。
ところが裁判で離婚が認められるには、以下の5つのうち1つ以上の理由が必要です。
(2) 悪意の遺棄
(3) 3年以上の生死不明
(4) 相手が回復しがたい精神病である
(5) その他上記に準じるような、婚姻生活を継続し難い重大な事情
離婚訴訟の場合、夫婦が、上記の用件を満たすか否かを裁判所が判断するために、夫婦双方の不貞行為の有無等、暴言の有無、程度といった婚姻期間中の夫婦の詳細な生活状況、別居期間の長短といった個人の重要なプライバシーに関わることについて暴露し合い、ひいては、お互いの誹謗中傷合戦になってしまうことが多々起こります。
また、口頭弁論期日は原則として公開されますので、情報が漏れてしまうリスクが高くなります。
それによって、大物タレントさんのお子さんといった家族にも被害が及び、人気が下がり、仕事がなくなってしまうと、大物タレントさんとしては、人も、名誉も、地位も、収入も失うことになります。
仮に裁判離婚が成立し、多額の財産分与を取得できても、それでは残念な結果だったといえます。
そのため、今回、協議離婚が成立したのは、大物タレントさんにとってもいい結果だったのではないでしょうか。
離婚には夫婦それぞれの解決方法があるものです。(執筆者:安部 直子)