年金制度への不安につながったとされるいわゆる「老後2,000万円報告書」ですが、この報告書に書かれていたことは問題になったときに突如わかったものでは無く、何年も前から議論されてきたことです。
麻生金融担当大臣が受取拒否したにも関わらず、金融庁のサイトから削除されなかったのは、公開の場で議論されており、今更隠蔽のようなことまではできないという事情があったからと推察されます。
複雑な制度に関しては、知らない間に制度が決まっていたということが多いように感じるでしょうが、国民の関心事は公開の場で議論されていることを知っておいた方がいいです。
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金融庁・厚労省の審議は傍聴可能

老後2,000万円報告書は金融審議会の市場ワーキング・グループにおける議論の結果を受けて作成され、問題になった記述には厚労省も関与しています。
全てというわけではないですが、審議会は公開されているものが多く、厚労省や金融庁の審議会は一般傍聴が可能なものも数多く見受けられます。
(参考元:厚労省の傍聴可能な審議会等・金融庁の審議会等)
国会本会議など議会の傍聴が可能なことは知られておりますが、行政においても同様であり、また議会よりも先立って議論されるテーマもあります。
特に厚労省の労働政策審議会(労政審)・社会保障審議会(社保審)やその部会・分科会は、国民の生活に身近なものも数多く議論されています。
財政検証の結果報告が行われた社保審年金部会(2019年8月27日開催)についても、傍聴可能でした。
厚労省で言えば、開催日の1~3日前までに申し込み期限が設定されるので、その時までにメールで参加希望の旨を連絡します。
また政府税制調査会(政府税調)の総会のように、開催時間に生中継される他、その後2週間程度公開されるものもあります。国会の本会議および各委員会も、2週間限定ではありませんが動画で傍聴できます。
政府税調の動画はこちらで見られます。
「〇万円の壁」も公開の場で議論されてきた
例えば、「〇万万円の壁」に関わるもののうち、「130万円の壁」、「106万円の壁」、「82万円の壁」など社会保険に関わるものは厚労省の社保審年金部会で、「103万円の壁」、「150万円の壁」など税制に関わるものは政府税調で議論されてきました。
社会保険に関する壁については、保険料を負担せずに老齢基礎年金の受給権が得られる第3号被保険者(130万円の壁に関わるもの)を廃止すべきという意見はずっとあります。
審議の一例
ちなみに私が聞いた年金部会の審議では、厚労省のいわゆる官僚の方からの論点説明があった後、民間人の委員が意見を述べるという形で進んでいました。
意見について、第3号被保険者の廃止・82万円の壁設定については概ね賛成の意見が多かったと記憶しておりますが、国民の意識との乖離はあるように思えます。
慎重論もあったのですが、事業者の過重な社会保険料負担を懸念するという理由であり、専業主婦や低所得者の負担を避けるべきという観点とは違っておりました。
関心を持っておくことが重要

難しい話もあるので、傍聴する(もしくは参加しなくても議事録を見る)ことで理解しきれるとは限らないでしょう。ただ常日頃関心を持っておくことで、突然話が降ってわいてくるようなことは避けられます。
2019年参院選がそうでしたが、82万円の壁のような話が与党の選挙公約に盛り込まれる頃にはすでに話が進んでいることも多々あります。
老後2,000万円報告書のように審議が終わる頃に世論が反応すれば、実際の制度改正に影響する可能性も考えられます。
ただ影響は良い方向にも悪い方向にも向かうと考えられ、老後2,000万円報告書の影響に関して筆者はあまりよくは思っていません。
なお傍聴席から意見することは禁止されているので、この点は気を付けてください。(執筆者:AFP、2級FP技能士 石谷 彰彦)