平成30年に行われた、民法の実に40年ぶりの改正により、相続法もいくつか大きな変更がなされました。
特に、遺言制度については方式の緩和などの見直しがされています。
「自筆証書遺言」をお考えの方は、変更点をぜひ覚えておきましょう。

目次
財産目録は手書きでなくてもよい
これまで、「自筆証書遺言」は遺言者がその全文を自筆しなければなりませんでした(民法第968条1項)。
(自筆証書遺言)
第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
これは偽造を防ぐための当然の手段なのですが、一方で不動産などの財産の種類が多岐に渡る場合、作成者に相当な負担を強いるものでした。
改正後の方式では、遺言書の財産目録に関して、必ずしも自書によるものではなくてもよくなりました(同第968条2項)。
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
すなわち、
となったのです。
また、預貯金に関しては通帳のコピーを、不動産に関しては登記事項証明書を目録として添付もできます。
ただし、財産目録を遺言者が確実に作成したことを証明するために、
をしなければなりません。
そしてもちろん、それらの財産を誰に相続させるかといった意思表示などについてはこれまで通り自筆で作成することが必要です。
自筆証書遺言を法務局で保管してもらえる

「公正証書遺言」は原本が公証役場に保管されていますが、「自筆証書遺言」については自宅を保管場所とするケースが多く見受けられました。
しかし、自宅保管では
・その内容を知った相続人が自分に有利に改ざんしてしまう
・廃棄してしまったりする
などの恐れがあるという問題点がありました。
そこで、公的機関である法務局で「自筆証書遺言書」を保管してもらえる制度が新設されました(正式には「法務局における遺言書の保管等に関する法律」)。
そして遺言者が死亡後、相続人のうち1人が遺言書の写しの交付を受けたり閲覧をしたりした場合、法務局は他の相続人に遺言書が保管されていることを通知します。
紛失や改ざんの予防だけでなく、遺言書の存在を全相続人に周知できるという効果もあります。
なお、遺言書の保管制度は令和2年の7月10日に施行される予定です。
費用などの詳細については、今後法令で定められますのでご注意ください。
遺言書作成・保管のハードルが下がる
遺言書の作成には公正証書が推奨されてきましたが、今回の法改正で「自筆証書遺言」もやや手軽に作成できるようになり、そして安全な保管が可能となりました。
このことで、遺言作成という行為へのハードルが多少下がったと思われます。
これを機会に、遺言を残すことを真剣にお考えになってはいかがでしょう。(執筆者:橋本 玲子)