私たちの生活におけるルールである「民法」が改正されています。
債権や契約に関わる部分が一昨年に、相続に関わる部分の改正が昨年に国会で成立し、逐次施行されています。
今回は、身近な事柄として民法改正が及ぼす自動車保険の補償内容への影響をお話したいと思います。

目次
法定利率とは何か
現行民法では、法定利率を次のように定めています。
(法定利率)
第四百四条 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年五分とする。
上記の利率を生ずべき債権とは、知人間での金銭貸借や損害賠償請求権などのことです。
そして、この利息や損害賠償額の算定に利用されるのがこの法定利率です。
法定利率はどのように決まるのか
改正債権法により、法定利率は3年ごとに見直されること(変動制)になりました。
2020年4月1日からの3年間が第1期となり、以降3年間ごとに第2期、第3期となっていきます。
各期の期初に「基準割合」を算定して、これを直近の法定利率改定が行われた期の期初の「基準割合」と比較して改定判断をします。
この「基準割合」とは、期初の前々年12月末で判定される過去5年間の短期金利の平均のことです。
この比較において、1%以上上昇(または下落)した場合に改定となり、現行の法定利率にその分(ただし1%未満は切り捨て)を加算(減算)します。
法定利率は損害賠償額算定に非常に影響を及ぼす
損害賠償額のなかには、事故により死亡・後遺障害等を被ったことで得られなくなる収入(逸失利益)や長期にわたる介護費用が含まれています。
この将来に渡って発生する損害(逸失利益)に対する全期間分の補償を一括して受け取った場合、その金額を運用することで毎年の利息収入が得られます。
従って、損害賠償額算定においてはその分を割り引いて計算します。
このことを中間利息控除といいます。
この中間利息を控除した現在価値算定にあたって、「ライプニッツ係数」というものを用います。
この「ライプニッツ係数」は法定利率をもとに算出しているため、法定利率が改定となる2020年4月1日以降に発生した事故において適用する「ライプニッツ係数」もあわせて改定されます。
ちなみに、ライプニッツ係数以外に新ホフマン係数というものもあります。
違いは、ライプニッツ係数は複利計算に対して、新ホフマン係数は単利計算です。
本記事においては、ライプニッツ係数を取り上げさせていただきました。
これは、これまでの損害賠償額では済まないことを意味しているのです。

法定利率が2%下がると損害賠償額にどの程度影響するのか
「ライプニッツ係数」が引き下げられると、先の中間利息控除額も下がりますので、損害賠償額等が高額化します。
例えば、35歳で年収600万円の夫が妻と子供2人を残して、自動車事故(無過失)で死亡したと仮定しますと、
改定後の逸失利益:約8,563万円
となり、約2,000万円も上がります。
今後の自動車保険更改では、補償内容を見直す
法定利率が下がることで悪影響を受けるのは、自動車保険の対人賠償と人身傷害補償です。
対人賠償はほとんどの場合は無制限にしていると思われますので悪影響はほとんどないでしょう。
しかし、人身傷害補償については、保険料を抑えるために補償上限額を5,000万円前後などに抑えて加入している場合が見受けられます。
先の例でもお話したようにライプニッツ係数が改定されることで
のが無難であると考えます。
補償上限額設定としては、8,000万円以上(理想は1億円)にされることをおすすめします。
傷害保険なども同様の対応を
今回は、自動車保険の補償を例にあげましたが、その他傷害保険などで逸失利益算定が関わってくるものも同様です。
今後、それらの保険の更改の際には、損害賠償額等が高額化することを念頭に補償額を設定するようにしてください。(執筆者:小木曽 浩司)