最近、空き家となっている「実家」をどう処分するのか悩まれる方が増えています。
親が施設に入所してしまい実家が空き家になってしまったり、親が遠方で子どもが実家の管理に行くことが難しかったりするケースです。
空き家のまま放置しておくと、固定資産税がかかり続けます。
また、家の管理をしっかりしていなかったら家が朽ちて他人に迷惑をかけたり、行政から改善指導を受けたり、場合によっては固定資産税が増額されるリスクも発生します。
今回は、親が元気なうちから話し合って取り決めておきたい「実家問題」と、対応するための「任意後見」や「家族信託」制度について弁護士が解説します。
目次
実家問題とは

親の実家問題とはどういったことなのでしょうか?
これは、親または実家を相続した子どもが、実家を利用しなくなったときに、誰も管理しなくなった実家が放置されたり、家の固定資産税や管理費用などの負担がかかったりする問題です。
具体的に見ていきましょう。
問題1:実家が適切に管理されず放置される
一昔前までは長男などの子どもが親と同居しており、親が死亡しても引き続いて子どもが実家に住み管理するケースが多数でした。
しかし最近では核家族化が進み、子どもは独立すると都会へ出たりして自分の家を建てて暮らしているケースが多くなっています。
親が施設に入所したり相続が発生したからといって実家に戻ることはありません。
そうなると誰も実家を継がず管理することもなく放置されます。
問題2:相続した子どもに負担がかかる
子どもが相続しても面倒なので名義変更をしなかったり、適切に管理せず放置して家が朽ち、周辺環境が大きく悪化したりする事例もあります。
スムーズに実家の売却や有効活用ができると良いですが、それができない場合は、子どもに固定資産税や家の管理費用などの経済的負担がかかりますし、自分で管理するとしても労力がかかります。
問題3:特定空き家に指定されるリスク
家を管理せずに放置しておくと「特定空き家」に指定されて行政から改善指導を受けたり、最悪の場合には土地にかかる固定資産税の軽減制度を適用されなくなって課税価格が6倍程度まで増額されたりする可能性もあります。
問題4:親が認知症になって家を管理できなくなる
また親が生きていても「認知症」になったら家をどうやって管理するかが問題です。
認知症になったら、親が自分一人で実家に住み続けることが不可能となり、施設などに入所しなければならないケースもあります。
そのようなとき、子どもに家の管理処分権がなかったら、家の売却も建て替えも賃貸もできず、まさに「放置」するしかなくなってしまいます。
このように子どもが将来親の住む家を継がない場合には、親が元気なうちから「将来親が弱ったとき、実家をどのように処分あるいは利用するのか」決めておかないと、大変なリスクが及ぶので注意が必要です。
実家問題に対応するための任意後見と家族信託
では実家問題に対応するには、どういった方法をとれば良いのでしょうか?
ここでは、実家問題に対処するための方法として「任意後見」と「家族信託」をご紹介させていただきます。

任意後見とは
任意後見とは、本人が元気なうちに信頼できる後見人を選んで契約し、財産管理や身上監護の方法を取り決めて将来に備える制度です。
将来、本人の判断能力が低下したら、任意後見人が家庭裁判所に申立をして任意後見業務を開始し、契約内容で定めたとおりに財産管理や身上監護の業務を進めます。
任意後見制度を利用すると、親が元気なうちに子どもや専門家と任意後見契約を締結し、将来認知症になったときの家の管理処分方法などを定めておくことができます。
任意後見契約の中に、しっかりと家の管理処分方法を定める必要があるため、契約書の作成は専門家にお任せした方が良いでしょう。
また、実際に任意後見人が、職務を遂行するためには、家庭裁判所に任意後見監督人(裁判所が選任する任意後見人が契約どおりに職務を遂行しているかチェックする人)を選任してもらうための申立てをする必要があります。
任意後見監督人のチェックがあるため、任意後見人による不適切な管理処分がなされない可能性が高い一方で、任意後見監督人の報酬(裁判所が決定する金額。月1~3万円程度が多い)を任意後見人が負担しなければなりません。
任意後見を用いた具体例
任意後見で実家問題に対応できる範囲は「親が生きている間の家の管理処分」に限られます。
死亡すると任意後見では対応できなくなるので、親が生きている間に実家を処分して後に問題を残さないようにする必要があります。
具体的には以下のように対応しましょう。
生前に家を売却して施設入所費用に充てる
親が子どもや専門家を任意後見人として選任し、将来認知症などになって家の管理ができなくなったときに家を売却処分できるとしておきます。
売却代金は、老人施設への入所費用などに充て、残りは本人の生活費などに使います。
最終的にあまったお金は遺産として子どもたちに相続されます。
このように生前に家を処分しておけば、死後に実家問題を残すことなく解決できます。
遺言を併用する
任意後見でも家を売らず、後見人に「管理」してもらうことも可能ですが、その場合、親が亡くなると同時に相続問題が発生します。
そうなると実家が放置される可能性があるので、死亡するまで家を売却しないのであれば、遺言書によって対応する必要があります。
たとえば事前に子どもに「死後には実家を売却処分するように」と話しをして合意を得た上で、遺言書で特定の相続人に実家を相続させるなどの対処をすれば、死後にその相続人がスムーズに家を売却するでしょう。
家族信託とは
家族信託とは、特定の目的に従って、財産をしないできる家族に託し、管理処分を任せる制度です。
・ 財産の管理処分を任せる人(委託者)
・ 財産の管理処分を託される人(受託者)
・ 信託による利益を受ける人(受益者)
が出てきます。
家族信託の制度は、まだ制度が普及してから時間があまりたっていないため、判例や解釈が確定していない部分もあります。
そのため、家族信託を検討される場合は、専門家にご相談されることをお勧めします。
家族信託を用いた具体例
家族信託は任意後見と異なり、委託者(本人=親)の死後にも効力を持続させられるので、任意後見よりも柔軟かつ長期的な対応を実現できます。
以下で家族信託を使った具体的な対処の例をご紹介します。
生前は親のために家を管理、死後は家を売却
親の生前は親のために家を管理してもらい、親が亡くなったら家を売却してもらう方法があります。
子どもに家を託し、生前は親を受益者(家族信託によって利益を受ける人)とします。
こうすることで、親が認知症になって家を管理できなくなったとき、子どもが代わりに家を管理できます。
親が亡くなったら家族信託を終了させて家の権利を子どもに帰属させることもできますし、引き続き妻や孫などを受益者として家の管理を任せることも可能です。
家を売却して得たお金を受益者のために使ってもらう方法もあります。
家を建て替え、賃貸に出して活用
家族信託を利用すると、家の建て替えや賃貸などの活用も容易です。
親が子どもに家を託し、親が施設に入所した後は実家を立て替えたり改修したりして賃貸活用するように定めます。
親を受益者としておけば賃料は親のために使うこととなりますし、妻や孫、他の子どもなどを受益者としておけば賃料はそれらの人の生活費に使われます。
親が亡くなっても信託契約の効果を持続させられるので、死亡後も引き続いて受託者に家の管理をさせることが可能となります。
家族信託の場合、生前から死後にかけて長期にわたって実家問題に対応できますし、バリエーションも豊かなのでさまざまなケースに対応できるでしょう。
任意後見も家族信託も、早めの話し合いが大切
任意後見も家族信託も、本人が元気なうちに対処する必要があります。
認知症などが悪化して判断能力を失ったらどちらも利用できません。
離れて暮らす親がいる場合、実家問題は他人事ではありません。
今からしっかり親と話し合って対応を進めていきましょう。(執筆者:松村 茉里)