ヨーロッパでは欧州委員会委員長だけでなく欧州中央銀行(ECB, European Central Bank)総裁も交代し、2019年11月にフランス人のクリスティーヌ・ラガルド氏が就任しました。
女性初のECB総裁です。
EUにおける極右勢力や反EU勢力の躍進による政情不安定の中、新しいECB総裁がどのような金融政策をとるのか注目されています。
今回は彼女の取りうる金融政策などについて検証します。
目次
クリスティーヌ・ラガルドECB総裁の経歴

クリスティーヌ・ラガルド氏は弁護士としてアメリカで活躍し、2005年に対外貿易担当相としてフランス政府に入閣しました。
その後、農業・漁業相を務め、2007年にG7で初の女性の経済・財政相に就任。
その間、EU加盟国の経済・財務省による経済・財務相理事会(ECOFIN)やG20の議長も務めました。
さらに2011年には、女性として初のIMF(国際通貨基金)総裁となり、約8年間の任務を全うしました。
このように、主に政治家としてキャリアを積みながら、女性初となる重要職を複数歴任しており、男女の不平等を無くして平等な社会を目指す国際社会の方向性に合致しているといえます。
前ECB総裁による金融緩和措置
2019年の9月、マリオ・ドラギ前ECB総裁は理事会後の会見で、ユーロ圏経済の脆弱性の長期化、下振れリスクの継続や物価圧力の抑制が見られることを理由に金融緩和を再開することを決定しました。
プライベートの銀行が、余剰資金をECBに預け入れる際の預金金利をマイナス0.4%からマイナス0.5%に引き下げたと同時に、月額200億ユーロの債券買い入れなどを決めたのです。
しかし、この政策について、ドイツ、オランダ、フランス、オーストリアの中央銀行総裁などから批判されました。
ラガルド新総裁が着手するEU経済の再生策

マリオ・ドラギ氏の後を継いだラガルド総裁は、基本的にその追加緩和策を引き続き行っていく考えです。
事実、ラガルド総裁は、就任後の演説で、
という認識を示しました。
ただし、追加緩和策はヨーロッパの銀行の経営に悪影響を与えるため、いつまで続けられるか疑問です。
財政出動の必要性も主張
一方で彼女は、
を指摘し、今後のEUの経済的発展には財政出動が必要であると述べました。
EUを活性化するための財政出動の必要性は以前からも指摘されており、特にEU圏内の黒字国にかかっているその圧力が増してきた模様です。
EU圏内の黒字国に該当するのはドイツとオランダですが、負債の割合を上げたくないため難色を示しています。
2008年のリーマンショック以降、EUは緊縮財政を行ってきていますが、リーマンショックからまだ完全に回復できていません。
適切な財政出動を行えばEU経済は再び上向き株式市場にもいい影響を与えるかもしれません。
また、28の国で構成されているEUでは経済政策などで意見が割れており、さらに近年は極右政党の台頭などを要因とする不安定さが増してきています。
このような状況では、政治家としての調整力を持ち合わせているラガルド総裁は適任なのかもしれません。(執筆者:小田 茂和)