親が残してくれた預金や不動産などは、相続財産として相続税の課税対象ですが、「香典や準確定申告の還付金は?」どうなるのでしょう。
相続した財産や相続発生後に受け取った金銭などの中には、一見すると相続税がかかりそうだけど実はかからないものや、逆に、相続税がかからなさそうだけどかかるものもあります。
ここでは、相続財産になるのかどうかの判断のしにくい財産について紹介していきます。
なお、相続税法第12条や租税特別措置法第70条で非課税財産(相続税がかからない財産)について規定されていますが、あまり見かけないものも含まれているので、今回の記事では条文にこだわらず相談の多いものを選びました。
目次
1. 未支給年金

相続税はかかりません。
年金を受けている人が亡くなると、その時点で年金を受ける権利がなくなります。
ただし、亡くなった日以後に振り込まれた年金のうち、亡くなった月分までの年金は、未支給年金として、生計が同一の遺族は受け取る事が可能です(国民年金法19条第1項)。
この未支給年金は、遺族が自分の権利として請求するものであって、被相続人(=亡くなった人)の相続税の課税対象にはなりません(平成7年11月7日最高裁判所判決)。
ただし、未支給年金を受け取った場合、受け取った方の一時所得として所得税・住民税が課税されます。
2. 死亡保険金・死亡退職金
一定の金額までは相続税がかかりません。
相続税は、被相続人が亡くなった日時点で持っている財産に対して課税されるのが原則です。
そう考えると、「死亡後に受け取る生命保険金や勤務先から支給される死亡退職金は相続税がかからないのでは?」と考えますが、これらは「みなし相続財産」として相続税が課税されます。
ただし、受け取った全額に対して相続税が課税されるのではなく、以下のように一定の非課税枠が設けられています。
そして、この非課税枠を超えて受け取った分に対して相続税が課税されるのです。
非課税枠以下の金額であれば、受け取っても相続税は課税されません。
例えば、法定相続人が3人で死亡保険金の額が2,000万円の場合、
相続税が課税される額 = 2,000万円 – 1,500万円 = 500万円
となり、差額の500万円に対して相続税が課税されます。
3. 介護保険・後期高齢者医療保険等の過誤納還付金
相続税がかかります。
生前に納付していた介護保険等は、死亡時に精算され過誤納金として還付されることがあります。
この還付金は払った保険料が還ってきただけなので、被相続人の財産です。
従って、相続税の課税対象です。
4. 準確定申告による還付金

相続税がかかります。
1月1日から被相続人の死亡日までの間に課税所得がある場合、相続発生後4か月以内に相続人が代わりに所得税の申告をしなければなりません。
これを準確定申告といいます。
準確定申告をした結果、所得税が発生するのであれば納税が必要ですし、(源泉)所得税の払いすぎになっていた場合は逆に所得税の還付を受ける事が可能です。
この準確定申告によって受け取った還付金(還付金請求権)は、相続税の課税対象です。
なぜなら、還付自体は相続後に発生していますが、請求権自体は被相続人の生存中に潜在的に発生しており、相続人よって顕在化したに過ぎないからです。
還付加算金の取り扱い
相続人の所得税(雑所得)の課税対象になる
還付を受ける際に受け取る還付加算金(利息のようなもの)は、申告書の提出によって初めて発生するものなので、相続財産ではありません。
受け取った相続人の所得税(雑所得)の課税対象です。
確定申告後に亡くなった場合は一部が相続財産に該当する
被相続人が所得税の確定申告をしてから還付を受けるまでの間に亡くなり、後に相続人が受け取った還付加算金については、死亡日までの期間相当分が相続財産に該当します。
5. 墓地や仏壇・仏具
相続税はかかりません。
墓地や仏壇仏具は、祭祀財産(さいしざいさん)のため相続税がかかりません(相続税法第12条)。
ただし、純金製のものなど高価なものや投資用のものである場合は、相続税が課税されることがあります。
なお、お墓の購入代金が未払いとなっていたとしても、債務控除として相続財産から控除はできません。
6. 葬祭費や埋葬料
相続税はかかりません。
お葬式をすると、
・ 国民健康保険以外の健康保険の被保険者だった場合: 埋葬料
をそれぞれ市区町村や健康保険組合等からもらうことができます。いずれも5万円ほどです。
この葬祭費や埋葬料は相続人が受け取るべきものであって相続財産ではありません。
従って、相続税は課税されないです(国民健康保険法第68条・健康保険法第62条)。
7. 弔慰金
一定の金額までは相続税がかかりません。
相続発生後に、被相続人の勤務先から弔慰金を贈られることがあります。
基本的に弔慰金は相続税の課税対象ではないですが、大会社の役員等になるとそれ相応の弔慰金が贈られることが多いです。
そこで、無条件に非課税とするのではなく以下のように非課税枠の上限を設定しています(相続税法基本通達3-20)。
被相続人の死亡が業務上の死亡以外: 普通給与の半年分に相当する金額
例えば、被相続人が業務中に亡くなり、普通給与が50万円・弔慰金の額が2,500万円だった場合、
が退職金等として相続税の課税対象となりますよ。
8. 香典

相続税はかかりません。
お通夜や葬式時に参列者から香典をもらいますが、これは被相続人ではなく遺族(喪主)がもらいます。
従って、相続財産には該当せず、相続税は課税されません。
なお、常識の範囲内であれば、贈与税や所得税もかかりません(相続税法基本通達21の3-9、所得税法基本通達9-23)。
9. 事故などによる損害賠償金
相続税はかかりません。
交通事故の被害者遺族が加害者から受け取った損害賠償金は、相続税が課税されません。
ただし、被相続人が生存中に損害賠償金を受け取ることが決まっていたものの、受け取る前に死亡したような場合は、賠償金を受け取る権利が相続財産となり、相続税が課税されます。
10. 国等へ寄付した財産
相続税はかかりません。
相続した財産を、国や地方公共団体等に寄付をした場合、寄付をした財産については相続税の課税対象となりません(租税特別措置法第70条)。
公共の利益のために寄付をしたのに、「死亡日時点でその財産はあったのだから相続税を払え!」とは言えません。
ただし、どんな財産でも寄付ができるという訳ではありません。
誰も要らない維持費だけがかかるような土地などは、もらった方も負担がかかるだけなので、寄付しようとしても受け取ってくれません。
相続財産になるものを把握しておこう
今回は、相続発生時に相続税の課税対象となるのかならないのかの判断が難しいものについて紹介しました。
相続税の申告時に、計上漏れがあると後で追徴課税となりますし、必要のないものまで相続財産に含めて申告をしてしまうと、相続税の払い過ぎになってしまいます。
払い漏れや払い過ぎとならないように、事前に何が相続財産になるのかを把握しておくようにするといいでしょう。(執筆者:山中 雄太)