上場株式や投資信託の取引ができる証券口座である特定口座で、所得税などの源泉徴収がされる口座(源泉徴収口座)は、確定申告手続き不要の特典もあり源泉徴収なしの口座(簡易申告口座)に比べても開設者が多いです。
ただ簡易申告口座に比べてのデメリットも当然あり、社会保険の加入形態によってそのデメリットの大小もわかれてきます。
デメリットを強く感じるようであれば、口座種類の変更も可能ですが、タイミング的には年末頃でないと最悪1年待ちとなる危険性が高いです。

目次
源泉徴収あり特定口座のメリット
大きなメリットは、所得税や住民税が売却段階で徴収されるため、確定申告や住民税申告を必ずしも要しないということです。
複数口座を持っていて、他に損失の発生した口座があれば、確定申告により徴収された税金の還付してもらえる楽しみもあります。
申告しない場合は、各個人の所得合計額に算入されないというのもメリットです。
配偶者控除や基礎控除など、合計所得金額による所得制限が徐々に増えているので、この点を意識しておくとよいです。
源泉徴収あり特定口座のデメリット
更正の請求不可
まず簡易申告口座で発生した損失を申告し忘れた場合、5年間という期限付きで「更正の請求」という手続きにより損失の申告が可能です。
しかし源泉徴収口座で発生した損失を申告し忘れると、申告不要を選択したという扱いがされるため、更正の請求はできなくなる点には注意が必要です。
20万円以下申告不要による節税メリットなし
その他、年収2,000万円以下のサラリーマンの場合は給与所得・退職所得以外、もしくは年金額年400万円以下の年金受給者の場合は公的年金等に係る雑所得以外が20万円以下の場合は、確定申告不要制度が利用できます。
株式等譲渡所得に関しては所得税率が15.315%と一定ですので、節税できるのは最大で3万円強となります。
なお税率5%の住民税は申告義務があるので、最大1万円は納税義務があります。
簡易申告口座で発生した譲渡所得はこの申告不要制度を使って節税できますが、源泉徴収口座ですと売却段階で徴収されるので、節税にはなりません。
20万円以下申告不要は本当に得なのか?

この説明で譲渡所得20万円以下の場合は、源泉徴収口座のほうが税金は高くつくように見えますが、社会保険料まで考えるとサラリーマンと年金受給者では状況が異なります。
サラリーマンの場合はメリット大きい
年収2,000万円以下のサラリーマンの場合ですが、5人以下の個人事業所に勤めている場合は国民健康保険や国民年金加入になる場合もありますが、社会保険は通常職場で加入します。
国民健康保険は譲渡所得の大きさも影響しますが、職場の社会保険料は給与額や賞与額に左右されるので、単純に所得税の節税メリットを考えればいいことになります。
なお児童手当の所得制限に関しては、簡易申告口座・源泉徴収口座いずれも上場株式等の譲渡所得に関しては対象外です。
年金受給者は医療保険・介護保険料にも注意
これが年金受給者の場合は、状況が変わります。
20万円以下確定申告不要制度が使える年金受給者の場合、職場の社会保険に加入せず、自治体運営の医療保険(国民健康保険や後期高齢者医療保険)・介護保険に加入することが一般的です。
こういった社会保険料は、住民税の所得情報が算定基準となります。
簡易申告口座は住民税の申告義務あり、逆に源泉徴収口座は申告義務なしですので、簡易申告口座のほうが社会保険料の対象になってしまいます。
医療保険料の所得割料率+介護保険料の所得に対する割合が15%を超えるようですと、簡易申告口座のほうがデメリットになる危険性はあります。
また源泉徴収口座の申告不要制度は必ず使えるのに対し、簡易申告口座の確定申告不要制度は20万円以下限定であることを考えると、年金受給者は簡易申告口座がかえって負担増を招く危険性もあります。
口座種類を変更したい場合は12月がチャンス
特定口座を源泉徴収ありから無しに変えたい場合、逆に無しから有りに変えたい場合、手続きのタイミングに気を付ける必要があります。
制度上は、各年の最初の取引が始まる前であれば、こういった変更が可能になっています。
株式市場は例年12月30日に大納会を迎え1月4日に大発会を行いますが、特定口座においては少し異なります。
1月4日(土日などで休場の場合は明けの営業日)に決済が行われるのが年最初の取引となりますが、この取引が行われるためには、2営業日前の12月下旬に売買注文を成立させる必要があります。
例えば2020年度の最初の売買注文は、1月6日(月)の2営業日前、12月27日(金)約定分となります。
口座種類を変更する場合は、12月27日から変更日まで取引を行わないよう注意する必要があります。
早いところでは、12月中旬を変更受付の期限としている金融機関もあります。その意味では、12月は口座種類変更を実行できる時期であるといえます。(執筆者:AFP、2級FP技能士 石谷 彰彦)