目次
適用拡大は2022年10月から2段階で行われる
短時間労働者への厚生年金の適用拡大をめぐる調整や議論が本格化してきました。
政府は、2019年11月21日に適用拡大に関する中小企業団体などから聞き取りを行い、同23日に次のようなスケジュール構想を掲げています。
厚生年金の短時間労働者への適用拡大を巡り、政府内で現在「従業員501人以上」とする企業規模要件の引き下げを、2022年10月に「100人超」、24年10月に「50人超」と2段階で拡大する案が浮上していることが22日、判明した。

現状では具体案は定まっていないものの、今後、適用拡大の対象となる企業が拡大していく予定です。
厚生年金への加入については2016年10月に社会保険の適用拡大が行われ、次のように短時間労働者の対象が拡大しました。
(2) 収入が月8万8,000円を超える人
(3) 所定労働時間が週20時間以上の人
(4) 雇用期間が1年以上の人
(5) 学生ではないこと
現在では、これら5つの項目にすべて当てはまる人は厚生年金に加入しなければなりません。
いま行われている適用拡大の議論は、上記(1)の「従業員501人以上の会社で働く人」の要件を引き下げようとするもので、当然ですが、それだけ新たに厚生年金が適用となる人の数も増えてきます。
仮に、企業規模の要件が「従業員50人超」、「20人超」、「要件を完全に撤廃」となったとき、以下の人数が適用拡大の対象となります。

このように、厚生年金の適用拡大によって影響を受ける人は多いです。
では、なぜ厚生年金の適用拡大が行われようとしているのでしょうか。
次の項目でその理由を探っていきます。
厚生年金の適用拡大はなぜ行われる「拡大の2つの理由」
理由1. 年金保険料の負担軽減と受給額の上昇
厚生年金に加入しない人は、第1号被保険者として国民年金に加入する義務があります(または配偶者の被扶養者となる第3号被保険者となる)。
第1号被保険者となった場合、自分自身で毎月1万6,410円(令和元年度)の年金保険料を支払わなければなりません。
一方、厚生年金の場合は、給与に対して18.3%の保険料が徴収されますが、労働者側は半分の9.15%の負担で済み、国民年金に比べて保険料の負担割合が少なくなります。
また、厚生年金に加入すると、国民年金の基礎年金部分に加え、さらに報酬比例分の年金額まで受け取れるため、将来に受け取れる受給額が増えます。
このように、厚生年金の加入者が増えることで将来の所得保障に対する不安を払拭ができるということが、適用拡大が進められている理由の一つです。

理由2. 働き方の多様化に合わせた年金制度への変革
現在の年金制度は、正規雇用や非正規雇用、短時間労働などの働き方によって取り扱いが異なります。
参考元:総務省統計局
※非正規雇用者の割合(%)=非正規雇用者数 ÷ 正規と非正規雇用者の合計数 × 100
上図のように非正規雇用者の割合は年々増加しており、伝統的な正社員を対象とした年金制度を踏襲するだけでは、制度の中立性が保てなくなっています。
政府は、短時間労働だけではなく、兼業や副業、テレワークなど働き方の多様化に対応し、より多くの雇用者が社会保険の恩恵を受けられるよう適用拡大を進めています。
これからは106万円の壁を意識しなければならない
冒頭でお伝えした5つの条件にすべて該当する人は、年収106万円を超えると社会保険に加入しなければなりません。
社会保険に加入すると厚生年金の保険料を負担しなければならないため、これを避けるために、あえて働く時間を調整して年収106万円以内の収入に抑えている方も少なくありません(106万円の壁)。
しかし、仮に条件(1)の「従業員501人以上の会社で働く人」が引き下げられると対象となる企業が増えます。
そのため、今まで106万円の壁を意識せずに働いていた人でも、これからは「自分が社会保険の対象か」を考える必要が出てくるでしょう。(執筆者:柳本 幸大)