離婚訴訟や調停で養育費を取り決める際に目安として用いられている算定表が16年ぶりに改正されます。
詳細は2019年12月23日に最高裁から公表される予定ですが、近年の社会情勢の変化が反映されるため、改正されると養育費の支払額がアップすると見込まれています。
妻子と別れた父親のなかには現状でも養育費の支払いに苦しんでいる方も多いと思いますが、さらに増額される新算定表にどのように対処すればいいのでしょうか。

目次
現状で養育費の相場はどれくらいか
まずは、現行の養育費算定表で定められている養育費の金額を見てみましょう。(参考元:裁判所 養育費・婚姻費用算定表(pdf))
【子ども1人のケース】
養育費を支払う側の年収が300万円、受け取る側が専業主婦で年収0円、3歳の子どもが1人いるケースでの養育費は2~4万円とされています。
【子ども2人のケース】
支払う側の年収が450万円、受け取る側の年収が100万円、15歳と12歳の子どもが2人いるケースでの養育費は6~8万円とされています。
【子ども3人のケース】
支払う側の年収が600万円、受け取る側の年収が150万円、16歳、13歳、10歳の子どもが3人いるケースでの養育費は8~10万円とされています。
これらの金額が高いのか安いのかはひとまず置いておくとして、現在、養育費を支払っている方の多くはおおよそ以上の範囲内で支払っているのではないでしょうか。
現行の養育費算定表の水準
現行の養育費算定表には、子どもの年齢・人数、支払う側と受け取る側の年収に応じて、養育費の金額に数万円の幅を持たせた形で定められています。
受け取る側の年収が0円で0~14歳の子どもが1人いるケースでは、支払う側の年収のおおよそ10%前後が養育費の水準とされています。
子どもの年齢・人数が大きくなるにつれてこの水準は上がっていきますが、高くても支払う側の年収の20~25%です。
家庭裁判所の調停や訴訟で養育費が定められるときは、例外はありますが大半のケースでこの算定表の水準の範囲内で定められています。
算定表の水準はあくまでも目安であり、実際の養育費は諸事情に応じて適切な金額に定めるべきものです。
しかし、家庭裁判所はこの算定表を強行的・機械的に適用しているという批判が従来から上がっていました。
実際の養育費の相場は
厚生労働省の調査によると、現在養育費を受け取っている、または受け取ったことがある母子世帯の平均月額は4万3,707 円とのことです。(引用元:厚生労働省 平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果)
この調査では子どもの年齢や人数、支払う側と受け取る側の年収などは考慮されず、総合的な平均月額が4万3,707円とされています。
この金額を見ると、多くの方は「まあだいたい、そんなものか」と思うのではないでしょうか。
しかし、養育費を毎月支払う側にとっては小さい金額ではないとも言えます。
では、以上でご説明した養育費の相場が高いのか安いのかを考えていきましょう。
「適切な養育費」の金額は実は明確
養育費として適切な金額を決定するのは、たしかに大変な作業です。
現行の養育費の算定表も、東京と大阪の裁判官たちが研究に研究を重ねて作成したものです。
しかし、実は法律を見れば「適切な養育費」の金額は明確なのです。
とはいえ、六法全書のどこを見ても「養育費」という言葉は出てきません。
養育費の法的根拠は、民法第877条第1項の「扶養義務」にあります。

扶養義務とは、自分と同程度の生活を保障すること
民法第877条第1項には「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。」と定められています。
どの程度の扶養をする義務があるのかというと、判例上、自分と同程度の生活を保障する義務があると解釈されています。
子どもに対する生活保障としては、別居中の父母の一方は、子が父母と同居している場合と同程度の生活を保障する義務があるとされました(東京高決昭和52年9月30日家裁月報30-7-58)。
現状の養育費の相場は低いと言わざるを得ない
「扶養義務」の意味が上記のとおりだとすれば、養育費を支払う側は自分の生活を犠牲にしてまでも養育費を支払う必要はありません。
しかし、年収の10%や高くても20%強を上限としている現行の養育費算定表の水準は低いと言わざるを得ません。
養育費を支払いながらでも再婚はできる
現状よりも高額の養育費を支払わなければならないとすれば、再婚してあらたに子どもを授かるのは無理だと思ってしまうかもしれません。
しかし、そんなことはありません。
離婚して妻子と別れた方も、自由に再婚できますし、あらたに子どもを授かることもできます。
これは幸福追求権として憲法第13条で保障されている基本的人権です。
では養育費の負担はどうなるとのかというと、自分と同程度の生活を子どもに保障する程度に支払います。
つまり、再婚してあらたに子どもを授かったことによって自分の生活が経済的に厳しくなる場合は、養育費の減額を請求できます。
ただし、減額できるのは自分と同程度の生活を保障する程度までです。
離れた子どもの生活をないがしろにして自分が裕福な生活をすることは民法第877条第1項では許されていません。
そこは覚悟しておく必要があります。
養育費の水準が上がることは確実
養育費算定表が改正されると、養育費の水準がアップすることは間違いないと予想されています。
大幅にアップするのか、それほどまでは変わらないのかは、12月23日に詳細が公表されるまではわかりません。
ただ、算定表の内容とは関係なく、いったん誕生した我が子に対しては自分と同程度の生活を保障する義務があるということは覚えておきましょう。
その責任さえ果たせば、自由に自分の人生を創造ができます。(執筆者:川端 克成)