遺言執行者とは相続人に代わり、遺言書通りの内容を執行する権限を持つ者であるという説明を前回しました。
今回は実際に遺言執行者をあらかじめ遺言書で指定しておくべき(あるいはしておいた方が良い)ケースをご紹介します。

目次
1. 相続人がいない場合
一人っ子で結婚せず、子もいない、しかしある程度財産はあり、「どのように処分するかの希望もある」という場合、その希望をかなえるために遺言執行者の指定は欠かせません。
少なくとも公正証書遺言であれば、作成の際に公証人が執行者を指定するよう言ってくれるでしょう。
しかし自筆証書遺言の場合、誰も遺言書の存在に気づかぬまま家庭裁判所により相続財産管理人が選定され、最終的に財産すべてが国庫に帰属してしまう怖れもあります。
2. 遺言執行者しかできない事項を遺言書に入れる場合
さまざまな事情で生前はできなかったが、せめて遺言で昔の愛人の子を認知したい、となった場合、遺言による認知は可能です。(民法第781条2項)
この認知の届出ができるのは遺言執行者だけです(戸籍法第64条)。
例え他の法定相続人がその子の認知をしてやろうと思ってもできません。
同様に、特定の相続人を廃除(著しい虐待を受けたなどの理由で相続人としての権利を剥奪すること)することも、遺言執行者しかできません(民法第893条)。
3. 相続人以外に財産を遺贈する場合
例えば「全財産を〇〇に遺贈する」などという遺言を、いくら遺留分があるとはいえ嬉々として執行する相続人はいないでしょう。
また、遺贈される側も、不動産の所有権移転登記などの協力を相続人に頼むのはかなりのストレスでしょう。
こういう場合は遺言執行人さえいれば、お互い顔を合わせることなく淡々と手続きを済ませることができます。

4. 相続で揉めそうな場合
一部の相続人を優遇した遺言や、そうでなくとも相続人同士仲が悪く、協力し合っての相続手続きを期待できないときなどは、遺言執行人の指定が非常に有効といえるでしょう。
後者の場合、遺言内容に不満がないのであれば、相続人にとっても遺言執行者は有難い存在です。
それ以外にも相続人が高齢や病気などの理由で自身での手続きが難しい場合や、あまりに相続財産の種類が多く、専門家に手続きを委ねたい場合なども考えられます。
なお、遺言執行者の指定がされてなくとも、相続人が家庭裁判所に申し立てれば、遺言執行者を選定してもらえるので、2の場合であっても最終的には何とかなります。
しかし、相続人や受遺者に要らぬ苦労やストレスをかけないために、上記のようなケースにおいては遺言を作成する際に必ず遺言執行者を指定しておきましょう。(執筆者:橋本 玲子)