子どもの養育費を不払いにしている元配偶者から回収しやすくなる改正民事執行法が2020年4月1日から施行されます。
この改正法には多くの方が関心を寄せているようですが、内容を誤解している方も少なくないようです。
養育費を不払いにした人は、本当に懲役などの刑事罰に処せられるのでしょうか。
この記事では、養育費の不払いでお困りの方を対象に改正民事執行法の内容をご紹介します。
内容を正確に理解して、適切な対処ができるように準備を進めてください。

目次
養育費を払わなかった結果、刑事罰に処せられる場合もある
改正民事執行法が施行されても、養育費を払わない人がただちに処罰されるわけではありません。
処罰されるのは、養育費を請求する側が裁判所に申し立てることによって実施される「財産開示手続」に応じなかったり、嘘の回答をした人です。
今回の法改正では、養育費に限らず金銭債務を支払わない人の財産を強制的に差し押さえる手続きの前提となる「財産開示手続」が大きく変わります。
養育費を払ってもらいたい人は、相手の財産を差し押さえようにもどのような財産があるのかが分からなければ差押え手続きに進めません。
そのため、裁判所に申し立てることによって債務者に財産を開示させる手続きは従来からありました。
しかし、債務者が適切に応じない場合の罰則が軽かったため、「財産開示手続」は有効に機能しているとは言いがたい状況だったのです。
法改正によって刑事罰が新設された
従来から、「財産開示手続」に応じなかったり嘘の回答をした場合の罰則はありましたが、30万円以下の過料に過ぎませんでした。
過料というのは行政罰の一種で、刑事罰ではないので罰せられても前科はつきません。
金額も30万円にとどまるので、差押えを受けるくらいなら30万円を支払って財産開示を拒むことも可能な状況でした。
今回の法改正ではこの罰則が強化され、6か月以上の懲役または50万円以下の罰金という刑事罰に変更されます。
財産開示に適切に応じないと前科がついてしまうので、「財産開示手続」の実効性が高まることが期待されているのです。
裁判所の調査権限も拡大される
ただ、財産開示は債務者の自己申告です。
「財産開示手続」を行う裁判所には警察のように家宅捜索を行う権限はないので、債務者が嘘の回答をしても見破ることは困難です。
そこで、今回の法改正では以下のように裁判所の調査権限も拡大されます。
これにより、不動産や給与、預貯金口座、株式や社債などの有価証券については債務者が嘘の回答をしても見破ることが可能になります。
所有不動産に関する調査権限
裁判所は、債務者の所有名義登記されている不動産について、登記所(法務局など)に対して情報を提供するよう命じることができるようになります。
給与債権に関する調査権限
裁判所は、市町村や日本年金機構などに対して、債務者の給与債権や賞与債権に関する情報を提供するよう命じることができるようになります。
預貯金口座に関する調査権限
裁判所は、銀行等の金融機関に対して、債務者の預貯金債権や有価証券に関する情報を提供するように命じることができるようになります。
「財産開示手続」を申し立てるためには裁判か公正証書が必要

「財産開示手続」は、強制執行の前提として行われる手続きです。
強制執行とは、確定した債権に基づいて裁判所に申し立てることによって、債務者の財産を差し押さえるなどして強制的に債権を実現する手続きのことです。
これを申し立てるためには「債務名義」という、確定判決と同一の効力を有する文書が必要です。
つまり、養育費の金額や支払時期が明確に記載された調停調書、審判書、判決書、公正証書(執行文が付されたもの)がなければ「財産開示手続」を申し立てられません。
したがって、離婚した元配偶者と口約束でのみ養育費を取り決めている場合は、相手が養育費を支払わなくても刑事罰に処せられることはありません。
養育費支払いの口約束しかしていない方や、全く取り決めをしていない方は、まずは調停を申し立てるか公正証書を作成すべきです。
養育費の調停は離婚後いつでも申し立てることができるので、相手が公正証書の作成に応じてくれない場合は早めに調停を申し立てましょう。
今回の法改正は養育費を請求する側にとって大きな前進
アメリカのほとんどの州では養育費の不払いそのものが犯罪になりますが、日本では今回の法改正でもまだそこまで厳しい法律にはなりません。
裁判所による財産調査権限が拡大されたものの、タンス預金や自動車などの動産、自営業者の売掛金など債務者が隠そうと思えば隠せる財産もまだあります。
法の不備をあげつらうときりがありませんが、今回の法改正は養育費を請求する側にとって大きな前進といえるでしょう。
ただ、繰り返しますが債務名義がなければ「財産開示手続」は使えません。
債務名義がない方は調停を申し立てるなどして養育費の債務名義を取得することが先決です。(執筆者:川端 克成)