「離婚後に養育費の支払いが途絶えてしまった」
という人に朗報です。
2020年4月から改正民事執行法が施行され、「第三者からの情報取得手続」という制度で、今まであきらめていた養育費の差し押さえがしやすくなります。
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4人に3人は「逃げ得」している養育費
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厚生労働省の2016年度「全国ひとり親世帯等調査」によると、母子家庭で「現在養育費を受けている」割合は24.3%で、母子家庭全体の4人に1人以下です。
また、今まで一度も「養育費を受けていない」母子家庭が56.0%と半数以上にのぼります。
現在の日本では養育費を愛情や面会の対価のように考える父親も依然として多く、
「会えない子供に金は出さない」
という父親が養育費を払わず余裕のある暮らしをする一方、子供を養育する母親だけが貧困に落ちてしまう事例が多発し、養育費の不払いが社会問題となっています。
裁判所は「養育費」をどう考えているのか
父母は,子どもの生活(衣食住,教育,医療など)について,自分自身の生活と同じ水準を保障する義務を負っています(これを「生活保持義務」といいます)。この義務に基づいて父母が負担する費用が,養育費です。
(引用元:裁判所「養育費について」)
裁判所では、親が子供の「生活保持義務」のために負担する費用が養育費であるとしています。
しかし、親の義務を果たさず養育費を払わない別居親から、実際に子供を育てている側の親が未払いの養育費を取り立てるには、
・ 養育費請求審判
・ 財産開示申立
・ 預金差押申立
など非常に面倒な手続きが必要でした。
養育費未払い親が、元の職場を退職して引っ越したあと音信不通になる、銀行口座からお金をすべて引き出して「残高がないので払えません」と言い張るなど、未払い親の「逃げ得」となってしまうことも多々ありました。
勤務先の給与の差し押さえが可能に
この状況を変えるため、2020年4月から改正民事執行法が施行され、「第三者からの情報取得手続」という制度が始まります。
この制度では、裁判所から市町村や年金事務所に照会をして相手の現在の勤務先を調べることができます。
住民税や厚生年金のデータをもとにするので、未払い親が転職していても確実に現在の勤務先がわかります。
給与の差し押さえをすれば、会社に直接「今後は支払い給与の中から〇万円をこちらに回してください」と依頼できるので、未払い親の意思にかかわらず給与天引きで養育費を確保できるのです。
また、ボーナスや退職金も差し押さえの対象になります。
銀行の預金差し押さえでは支店名が不要に
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従来であれば銀行預金の差し押さえには、相手の銀行の支店名まで把握する必要がありました。
この場合、未払い親が銀行口座を解約して別支店で口座を作り直せば差し押さえが不可能になっていました。
しかし「第三者からの情報取得手続」により、裁判所から銀行の本店に情報照会をして、相手の銀行口座がどの支店にあるのか調べられるようになります。
銀行口座を裁判所に回答したことは未払い親本人へも通知が行きますが、本人通知の前に素早く差し押さえ手続きを取れば、未払い親の銀行預金から養育費を回収することが可能になります。
公正証書でも対応可能に
従来であれば、銀行に未払い親の口座情報を照会するには、裁判所の判決や調停調書をもとに弁護士に依頼して各銀行に全店照会をかける必要がありました。
しかし新設された「第三者からの情報取得手続」では、執行認諾文言付き公正証書であれば、すぐに銀行に未払い親の口座情報を照会することが可能になります。
銀行の支店名がわからず未払い養育費が数年分たまっているケースもよくありますので、これは画期的な改正といえます。
協議離婚では必ず「執行認諾文言付き公正証書」を
改正民事執行法は2020年4月から施行されますが、その日以前に離婚していた場合の養育費未払いにもこの制度は利用できます。
ただし、協議離婚の場合は「執行認諾文言付き公正証書」が必要です。
「執行認諾文言付き公正証書」とは、「もし不払いがあったら差し押さえされてもいい」という条件を盛り込んだ公正証書です。
「円満離婚だから」と、文章を残さず口約束で養育費を決めて不払いになったり、公正証書を作ったものの「執行認諾文言」を入れていなかったりすると、「第三者からの情報取得手続」は利用できません。
協議離婚では必ず「執行認諾文言付き公正証書」を作成しましょう。(執筆者:2級FP技能士 久慈 桃子)