今回は新型コロナウイルスの影響を受け急落している原油相場について、現状と今後の見通しを解説します。
目次
WTI先物の年初までの動き

米国の原油先物相場の指数であるWTI(ウェスト・テキサス・インターミディエイト)先物は、昨年12月の米中追加関税の見送りや米中の通商協議第1段階が合意されるとの見通しを受け、2020年の年初にかけて堅調な動きを見せていました。
また、その間には、米国によるイラン革命防衛隊のコッズ部隊の司令官ソレイマニ氏の殺害があり、一時的に原油相場は大きな上昇を見せました。
新型コロナウイルス拡大の影響を受け急落する原油相場
しかし、原油相場が堅調だったのも2020年の年初まででした。
中国の湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスによる肺炎が世界的に猛威を振るいだした年明け以降、原油相場は急落しています。
当初、新型コロナウィルスの影響は軽微と見られていたものの、感染者が拡大するにつれ経済に及ぼす影響が意識されてきました。
武漢市が閉鎖され、中国国内での人の往来が減少するとともに、中国政府による中国人の団体旅行の禁止、諸外国による中国への渡航自粛要請、中国人の受け入れ停止(国によって程度に差はある)など、経済活動の停滞につながる措置が取られるようになっています。
このようになることで、
・ 資源や部品・製品の輸送に使用する艦船の燃料の需要減退
が見込まれ、原油相場も急激に弱含むこととなりました。
原油相場は下値は限られるが上値も重い

2月に入り、WTI先物相場は一時1バレル50ドルを下回る水準まで低下しています。
しかし、よほどの状況にならない限り、これ以上の下値はないと考えています。
原油をめぐる3つの環境
原油をめぐる世界の環境は、大きく3つに分けてみることができます。
1. 中東リスク
1つは、昨年サウジアラビアがイラン系の武装組織に油田を攻撃されるなど、混迷が懸念される中東リスクです。
油田が偏在している中東では、イランやイスラエル、トルコなど利害が複雑に絡み合っており、いつ紛争が勃発してもおかしくない状況にあります。
2. 産油国の財政問題
2つ目は、産油国の財政問題です。
サウジアラビアやロシアといった産油国は、財政収入を原油に大きく頼っています。
そのため、原油相場が大きく崩れると財政不安に直結します。
仮に相場が下落した際には、OPECとOPEC非加盟国で連携して原油の減産を進めることになるでしょう。
一方、原油相場が高騰すると、原油の使用を減らすまたは原油の代替物を見いだす技術開発が進み、長期的な原油の需要が減退するリスクが生じます。
そのため、産油国は原油相場がある一定程度のレンジ内に収まることを望んでいます。
3. 米国トランプ大統領の動き
3つめは、米国のトランプ大統領の動きです。
トランプ大統領は、自国経済優先の姿勢をとっており、原油相場の高騰は経済活動の停滞につながりかねないため許容できません。
また、米国のシェールオイル企業の採掘コストは下がりつつあるとはいえ、従来の油田の採掘コストに比べ高止まりしています。
そのため、米国においては原油相場の上昇は容認できないでしょう。
原油相場はレンジ往来の動きになる
原油をめぐる3つの環境要因が絡み合い、原油相場はレンジ往来の動きとなると思われます。
WTI先物は、一時的にオーバーシュートすることはあっても、2020年は1バレル50ドル~70ドル程度で動くものと思われます。(執筆者:土井 良宣)