民間の生命保険会社が販売している個人年金保険は、現役時代に自分が積み立てた保険料を、老後になってから受け取るという、「積立方式」で運営されております。
それに対して公的年金は基本的に、年金給付に必要な財源を、その時々の現役世代から徴収した保険料で賄う、「賦課方式」で運営されています。
つまり
ような感じです。
賦課方式で運営する理由について厚生労働省は、積立方式だと将来的な物価上昇に、対応できないと説明しております。
また公的年金の財源には、現役世代から徴収した保険料だけでなく、税金も活用されています。
例えば原則65歳になると、国民年金から支給される老齢基礎年金の財源は、2分の1が税金になります。
そのため20歳から60歳になるまで全額免除を受け、1円も保険料を納付しなかった場合でも、満額の2分の1の老齢基礎年金を受給できます。
ただ学生納付特例や納付猶予を受けた期間には、税金の投入がないため、その期間は未納期間と同じように、年金額には反映されません。
ですから金銭的な余裕ができた時に保険料を追納する、または税金の投入がある全額免除、4分の3免除、半額免除、4分の1免除を、受けておいた方が良いと思います。
今回はそんな年金に関して、多くの人が誤解している3つの真実を解説します。
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目次
1. 年金積立金の運用は国内債券の割合が減り、株式の割合が増えている
公的年金の財源は上記のように、現役世代から徴収した保険料と、税金です。
ただ現在は年金積立金を取り崩し、財源として活用しているため、公的年金の財源は3種類になります。
この年金積立金の原資は、「現役世代から徴収した保険料>年金給付」という状態だった時に、両者の差額を積み立てたものです。
また年金積立金はただ保管しておくのではなく、「年金積立金管理運用独立行政法人(以下では「GPIF」で記述)」によって、国内債券、国内株式、外国債券、外国株式などで運用されております。
従来は国内債券の割合を多くした、安全性の高い運用を目指していたため、その資産配分は
国内株式:12%
外国債券:11%
外国株式:12%
短期資産(現金):5%
でした。
しかし2014年10月から、国内債券の割合が引き下げられるとともに、国内株式と外国株式の割合が引き上げされたため、
国内株式:25%
外国債券:15%
外国株式:25%
になりました。
このような資産配分の変更が実施されたのは、株価を押し上げたいという、安倍総理の意向を踏まえたものだと言われております。
そのため2015年7~9月期に、四半期ベースで過去最大の運用損を記録した時、または2018年10~12月期に、この記録が更新された時には、安倍総理はマスコミから批判を受けました。
2. 株式の割合を増やした後でも、運用益を記録した四半期の方が多い
安倍総理を批判したり、不安をあおったりするマスコミの影響により、年金積立金の運用はうまくいっていないと思っている方が、かなり多いように感じます。
しかし実際のところは、国内株式と外国株式の割合が引き上げされた後も、運用損を記録した四半期より、運用益を記録した四半期の方が多かったのです。
また2016年10~12月期には、四半期ベースで過去最大の運用益を記録しました。
そのため市場運用を開始した2001年度から、2019年度第3四半期までの通算で、+3.23%(年率)という収益率になっています。
リーマンショック(2008年)、ギリシャショック(2010年)、チャイナショック(2015年)、英国のEU離脱ショック(2016年)などの、数々のショックに遭っても、これだけの数字を残していますから、もっと評価されても良いと思います。
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3. 年金積立金が枯渇しても、公的年金が破綻するほどのダメージではない
GPIFによる年金積立金の運用は、このように誤解されている点がありますが、年金積立金に関して、もっと誤解されている点があります。
それは
というものです。
これが誤解だと思うのは、現役世代から徴収した保険料、税金、年金積立金の取り崩しという、公的年金の3つの財源の中で、年金積立金の取り崩しが占める割合は、それほど高くないからです。
国が作成した資料によると、公的年金の財源の内訳は、
・ 現役世代から徴収した保険料が約7割
・ 税金が約2割
・ 年金積立金の取り崩しが約1割
のようです。
ですから年金積立金が枯渇すると、年金額が減ってしまうかもしれませんが、公的年金が破綻するほどのダメージは、受けないと考えられます。
また年金財政を健全化したいのなら、年金給付の約1割を賄う年金積立金より、約7割を賄う保険料をターゲットにした方が、大きな効果があると思います。
それは例えばパートやアルバイトなどに対する、厚生年金保険の適用を拡大したり、公的年金に加入する年齢の上限を引き上げたりして、保険料収入を増やすというものです。
なお厚生年金保険に加入する年齢の上限は、現在は70歳になっておりますが、75歳まで引き上げするという案があります。
家計の節約は大きいものをターゲットにすると、効果が出やすくなる
教育資金や老後資金などを貯めるため、家計の節約に取り組んでいる方がおります。
この家計の節約を実施する際には、年金財政の健全化と同じように、支出の割合が大きいものをターゲットにした方が、効果が出やすいと思います。
それはどの家庭においても、住居費(家賃、住宅ローン)、通信費(携帯電話、インターネットなど)の基本料金部分、生命保険の保険料などの、「固定費」になる場合が多いと考えられます。
こういった固定費は1度見直しすれば、その後は何もしなくても、節約効果が続いていくため、節約疲れになりにくいというメリットもあります。
特に老後資金を貯める場合には、かなりの長期間に渡って、節約を続けていく必要があるため、節約疲れになりにくいという点は、とても大切だと思います。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)