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先進各国・地域の消費者物価上昇率の現状

近年、先進各国・地域の中央銀行は、消費者物価上昇率を2%程度に誘導することを目的として金融政策を行っています。
世界各国・地域の直近の物価動向は、価格変動の大きなものを除いた消費者物価指数(コアCPI)ベースでみると、前年同月比で
・ 米国は2.3%上昇
・ ユーロ圏は1.3%上昇
となっています。
価格変動の大きなものの範囲は、各国・地域で異なります。
日本の消費者物価上昇率は、米欧に比べても低く、中央銀行である日本銀行は金融危機以来継続して金融緩和を行っています。
消費者物価のコントロールは可能か
日本銀行は、なかなか上昇してこない消費者物価を目標の2%程度まで引き上げようと、さまざまな政策をとってきました。
そして現在では、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」という政策を実行しています。
これは
というものです。
金融政策の詳細はともかくとして、日本銀行は物価が安定的に2%を超えて上昇するように、ありとあらゆる政策を総動員しています。
しかし、日本銀行のこの政策運営にはリスクはないのでしょうか。
「物価のコントロール」は単純作業ではない
日本銀行で働いていた私は、物価のコントロールは、水道の蛇口から出てくる水の量を調整するような単純な作業ではないと感じています。
水道の水量は、蛇口を緩めれば徐々に増加していき、締めれば減少し、自分の求めている水量で蛇口を固定しておけば安定的に同量の水量を保てます。
しかし、消費者物価は前年比で2%の上昇に至ったとしても、その水準を維持するのは至難の業です。
金融政策をその時の水準で維持すれば物価上昇率が維持されるとは限らないからです。
ひとたび政策を間違えれば、物価は2%を大きく超えて上昇してしまい、逆にその後の景気を冷え込ませてしまうといった状況になりかねます。
物価上昇率に金融政策の手足が縛られるのは良くない

現在の日本銀行は、消費者物価上昇率が2%に到達するように大規模な金融緩和政策をとっていますが、残念ながら目標には遠く及ばない状態が続いています。
目標が2%の物価上昇のみであるのであれば、2%に届かなければ追加の金融緩和が必要となり、市場からも緩和圧力を強く受けるのは当然です。
しかし、これ以上の緩和措置は、緩和がもたらす効果よりも副作用の方が大きくなる可能性があると言われています。
日本銀行が取り得る措置としては、米国の中央銀行であるFRBのように、
という方法です。
現在の日米欧の労働需給は非常にタイトになっており、雇用関連指標をみる限りでは大規模な金融緩和政策は不要といえます。
現在は、インターネットの普及(EC(電子商取引)など)により、構造的に物価が上がりにくくなっています。
社会構造が変化しているのであれば、中央銀行がとる政策も構造変化に合わせて臨機応変に変えていくべきでしょう。(執筆者:土井 良宣)