「昇給で給与が上がった」または「引っ越しにより交通費が上がった」という場合、その後3か月間の働き方に注意しましょう。
しかし、その後3か月間の働きぶりによっては、手取りが少なくなってしまうことがあるのです。
せっかくの昇給や引っ越し(交通費が増加した場合)、なのに、その後の手取りが減ってしまっては残念です。
昇給後の働き方について、事業主の方も労働者の方も必見です。
目次
「手取り」について
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そもそも「手取りが減ってしまう」とは、どういうことでしょうか。
みなさんがもらっている給与は、基本給や各種手当、交通費、残業代などで構成されています。
そこから、源泉税、社会保険料(雇用保険料、健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料)が控除されます。(参考元:「国税庁/源泉所得税関係」・「日本年金機構/厚生年金保険の保険料」・
「厚生労働省/雇用保険料率について」)
つまり、額面上の給与が満額もらえることはなく、そこから必ず、税金や保険料が控除され、その残りが給与として支給されます。
控除される保険料の中でも、社会保険料のウエイトは大きく、総支給額の約15%を占めます。つまり、社会保険料によって、手取りが左右されやすくなります。
社会保険料の等級決定のしかた
ここでは、社会保険料がどのように決定されているのかをみていきましょう。
社会保険に加入することを「資格取得する」と言います。
この資格取得時の等級を決定するために、入社の際に締結する「雇用契約書(または労働条件通知書)」に記載されている賃金額(交通費、各種手当含む)の合計から、社会保険料等級表に当てはめて届け出をします。
毎年4・5・6月支給の給与が重要 「定時決定」のしくみとは
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実際の給与の額と、入社時に決定した等級との間に大きな差が生じないよう、下記のような決まりがあります。
「事業主は毎年7月1日現在で使用している全被保険者の3か月間(4~6月)の報酬月額を算定基礎届により届出し、厚生労働大臣は、この届出内容に基づき毎年1回、標準報酬月額を決定し直します。これを定時決定といいます。」(日本年金機構/定時決定)
つまり、毎年4・5・6月支給の給与(実際は、3・5・6月労働分であることがほとんど)は、なるべく残業をせず、その時点での労働条件に沿った労働時間で働くことをお勧めします。 もし、この期間に長時間労働をしてしまうと、その分の残業代も含めた総支給額で、その後1年間の社会保険料の等級が決定されてしまうからです。 よく、「Aさんとは同条件の雇用契約なのに、自分の方が手取りが少ない」という相談を受けますが、社会保険料の等級差によることがほとんどです。 では、昇給をした場合や、交通費や資格手当などの各種手当がもらえるようになった場合、社会保険ではどのような手続きが必要でしょうか。 「被保険者の報酬が、昇(降)給等の固定的賃金の変動に伴って大幅に変わったときは、定時決定を待たずに標準報酬月額を改定します。これを随時改定といいます。」(日本年金機構/随時改定) もう少し細かく見ると、 ・ 変動した月から3か月間に支給された報酬(残業手当等の非固定的賃金を含む)の、平均月額に該当する標準報酬月額と、これまでの標準報酬月額との間に、2等級以上の差が生じる ・ 3か月とも、支払い基礎日数が17日以上である 以上のような条件があります。 表でまとめると以下のようになります。 たとえば、総支給額20万円の人が、1月に引っ越しにより、交通費が10,000円増え、総支給額が21万円になったとします。 年度末に向けてはりきって働いた結果、会社から評価され、特別な手当が支給されました。同時にいつもより多く残業も発生しました。 その結果、昇給から連続する3か月(給与の支払い月でいうと2、3、4月)は、交通費・残業代等を含む総支給額の平均が、30万円になったとします。 すると、従前の等級は20万円(厚年14等級、健保17等級)でしたが、昇給後の新等級は30万円(厚年19等級、健保22等級)となり、2等級以上の差が出るため「随時改定」の対象となります。 随時改定により等級が上がった結果、給与から控除される保険料の額が増えます。 その結果、もし、4月以降は残業をせず、特別な手当も支給されない場合、単純に手取りが減ってしまいます。 もちろん、昇給や交通費の変動のみで2等級以上の差が出る場合もありますので、その場合は、残業や別途支給される手当などを削っても随時改定は免れません(改定後の等級は異なります)。しかし、2等級未満の昇給や交通費の変動の場合、その後3か月の残業を配慮することで、随時改定を免れることができます。 2等級未満の昇給の場合であれば、その後3か月の残業を配慮することで、随時改定を免れることができます。 最後になりましたが、「社会保険の等級が上がる=納付する保険料が上がる」ということは、将来受給できる年金額も増えるということになります。 目先の手取りは減ってしまいますが、将来の年金に反映されることを励みに、今日もお仕事を頑張りましょう。(執筆者:特定社会保険労務士、AFP 浦辺 里香)
。昇給した そのときに必要な「随時改定」とは
昇給による「随時改定」があったとしても、将来のためになる