新型コロナ感染による金融市場の動揺で一般投資家のみならず、年金積立金を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)にも大きな損失が発生しています。
人口の1/3に当たる4,000万人以上の方が給付を受けている年金ですが、この相場下落が影響して給付額が減額されることはないのでしょうか。
気になる年金積立金の運用状況に加え、100年安心と言われる年金制度を検証します。

目次
株価急落で年金給付の減額はありうるか
財政投融資制度改革に伴い2001年に年金資金運用基金、さらに2006年にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が設立され、年金積立金の管理・運用を担う現在の年金制度体制がスタートしました。
そのGPIFの運用実績は3か月毎に公表されており、新型コロナショックが発生した時期の2020年1~3月期実績が公表されるのは7月ごろの予定です。
今年度に入りGPIFの運用は、4~12月は9兆円を越える運用益(収益率+5.9%)が発生していました。
それが一転、1~3月期だけで約10%のマイナス運用が見込まれており、運用損失額は17兆円、通年ではマイナス8兆円の損失になると予想されています。
大切な年金給付に備えるための積立金が相場下落により目減りしたら、将来に渡って年金給付額は維持されるのでしょうか。
年金給付の全体像
公的年金の給付総額は、約55兆円。
人口の1/3に当たる4,000万人以上の方に、給付されています。
年金は高齢者世帯の収入の約6割を占め、うち5割の世帯は年金だけで生活しているというデータが示すように、高齢者世帯には欠かせない収入源となっています。
その年金積立金の運用成果が大きなマイナスになると、給付額に影響はあるのでしょうか。
給付額の財源内訳。積立金は5.8%で影響は少ない
以下の表は、2019年度の年金給付財源の想定額です。

画像参照元:厚生労働省「公的年金の規模と役割 2019年度予算ベース(pdf)」
※積立金は、年金給付額から保険料と国庫負担額を差し引いた金額
ここで見て欲しいのは、積立金の割合です。
給付額全体から見て、5.8%の3.2兆円となっています。
今回の新型コロナショックで積立金運用がマイナスになっているのは全体の5.8%部分であり、GPIF運用資産約169兆円のうちの3.2兆円であるため、年金給付を心配することはありません。
もちろん昨年度のように8兆円(積立金給付の約2年6か月分)を越えるマイナス運用が数年続いたら、大変なことになるかも知れません。
しかし年金は積立金だけで給付されているのではないため、一過性の相場下落をもって給付額が減額されるという心配は無用なのです。
また将来的には保険料が現役世代の人口減少により、財源として減少することが確実です。
その穴埋めは積立金が充てられるため、積立金の全体に対する割合は10%程度まで上昇すると予想されています。

つまり毎年度3~5兆円が積立金から拠出される訳ですが、GPIF運用資産約169兆円をどう運用すれば100年安心な年金制度を維持できるでしょうか。
年金積立金の運用状況を、もう少し詳しく見てみましょう。
年金積立金の運用状況


画像参照元:GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)
※2019年度は4~12月期
※運用資産額の前年度比差額と収益額が一致しないのは、寄託金等の受入れや償還・運用手数料等の費用が控除されているため
これは年金資金運用基金が運用を開始した、2001年からの運用成果です。
GPIFの運用目標
なおGPIFが目指している運用目標は、収益率で「賃金上昇率+1.7%」としています。
参考:GPIFの運用目標
これは年金支給額にマクロ経済スライドが採用されているからですが、先ずは+1.7%以上の運用成果を目指していることが分かります。
が年間収益額となり、3~5兆円を毎年度取り崩しても、100年維持が可能なのです。
GPIFのポートフォリオ
昨年度2019年度は2008年リーマンショックのマイナス運用に匹敵する結果となりそうですが、国内株式だけで運用している訳ではなく、分散投資により早晩取り戻せることが期待されています。

画像参照元:GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)
※外国債券は為替ヘッジ付・なしの合計割合
相場下落による給付額減額は「心配ご無用」
GPIFの運用方法については、長期運用のお手本になることが多く、その構成比率および変更内容がニュースになります。
これまで国内債券を中心としていた構成から株式比率を高め、また外国への投資(為替リスクあり)にも広げるなど、運用目標+1.7%以上を確保するため機動的に運用されています。
現在年金給付を受けておられる方、現役世代で保険料を払っている方(イコールこれから受取る方)も、今回の相場下落による給付額減額は「心配ご無用」なのでご安心ください。(執筆者:中野 徹)