現在、新型コロナウイルス感染症が世界中にまん延しており、金融相場は大暴落し現在も乱高下が世界的に続いている状況です。
今も感染の終息も見通せず、感染規模の拡大によってはさらなる下落も予想され、経済状況の回復時期については、まったく先が読めません。
この状況に際しては、老後の資産形成にも影響が及んでいることから、多くの人が資産の減少に不安を感じているはずです。
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目次
資産形成の代表的なツール「個人型確定拠出年金」
資産形成の代表的なツールといえば、個人型確定拠出年金(以下iDeCo)ですが、iDeCoで運用する商品には、投資信託、保険、定期預金などがあります。
投資信託は、金融相場の変動により元本は保証されないリスク商品ですが、このファンドのタイプに、国債や社債などの債券、株式、リートと呼ばれる不動産投資信託、金に代表されるコモディティ(商品)などがあります。
投資信託は、株式を組み入れた「株式投資信託」が多くを占めるため、世界の株式相場の騰落によって価格変動の影響を受けることになります。
iDeCoの運用で投資信託を選択している場合
iDeCoの運用において、投資信託を選択している場合は、積立てなので相場の変動により購入口数が異なります。
たとえば、相場の上昇は、購入できる口数は少なくなります。
相場の下落は多く購入できるため、逆に口数を増やすチャンスでもあります。
このしくみは、ドルコスト平均法と呼ばれ、一括購入よりも価格変動幅が平準化されリスク軽減が図られることになります。
したがって、投資信託のリスク度合いは、株式とくらべ低く、リスクを取りたくない人にとって適した金融商品とも言えます。
しかし、投資信託は元本の保証がないリスク商品なので、この未曽有の危機に対し、老後資金が目減りする不安に伴って、極力リスクを避けたいというのが本音ではないでしょうか。
そこで、
はアリなのでしょうか。
結論を先に言うと、その選択は一時金として受取ることで効果が十分期待できます。
その主な理由として、一時金に対して掛かる退職所得税額が年金の給付期間中に課税される所得税や住民税の税額と比較して少ないのが一般的だからです。
iDeCoを100%安全資産の定期預金で運用した場合に、節税効果を含めてどのくらい得するかモデルケースを使って具体的に試算してみましょう。
モデルケース
・ サラリーマンのAさんは現在40歳
・ 家族構成はパートで働く妻35歳、小学生の長男10歳の3人家族
・ 夫の年収600万円、ただし60歳から5年間は年収300万円(65歳で退職予定)
・ 妻の年収は100万円(65歳の誕生日の前日まで働く予定)
・ 運用商品は100%定期預金を選択、利息は年率0.02%で設定
・ 拠出について、Aさんの勤務先は、厚生年金基金や確定給付企業年金などの確定給付型の年金を実施していない企業で、個人型への同時加入を認めている、拠出の内訳は、企業の拠出:3万5,000円/月、個人の拠出:2万円/月で仮定している
・ 加入期間は、40歳から20年間、給付開始時期は65歳時、給付形態は一時給付と年金給付(65歳から10年間)の2通りで試算
・ 夫は65歳から老齢厚生年金、老齢基礎年金(満額)、加給年金(5年間)、妻は65歳から老齢基礎年金(満額)を受給
・ 所得控除の内訳は、基礎控除、配偶者控除、扶養控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除(一定額)等を含んでいる
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まず、上のモデルケースを基に、iDeCoを利用する場合と利用しない場合との比較、さらにiDeCoを利用する場合の受取方法(年金・一時金)の比較をしてみます。
拠出・運用期間についての比較
拠出期間についての節税効果については、個人で運用する全額が所得控除の対象になります。
具体的には、個人の拠出分が月額2万円なので年額24万円の所得控除額となり、税の軽減額は所得税だけでなく住民税もプラスに影響します。
節税額は、年間拠出額に税率を掛けても簡便的に計算できますが、この試算では20年間で約87万円となります。
一方、iDeCoを利用しない場合の節税効果は当然ですがゼロです。
受給期間・方法についての比較
次に、受給については、「年金」、「一時金」または「年金と一時金」の組合せの3つから選べます。
受給金額は個人と勤め先が拠出した総額が原資となるため、年金を選択した場合は、10年の受給期間中に所得税と住民税が掛かってきます。
その負担額は総額で約120万円になります。
一方、一時金の場合は、受取総額に対して1度に課税されますが、分離課税であることと、退職所得控除の特典があるため、所得税と住民税の負担額は約43万円と年金での受取の約3分の1の負担で済む計算となります。
手数料についての比較
iDeCoを利用する際に掛かる主な手数料には、
運営管理手数料(通常無料)
拠出時手数料(171円/月)
給付時手数料(440円/1回)
などがあります。
これらのコストは大きな負担ではありませんが、拠出や給付の度に掛かってくる費用なので可能ならば回数を減らすことです。
社会保険料についての比較
たとえば、国民健康保険(介護保険含む)に加入の場合、保険料は一般的に所得額や加入人数などを基に掛金が計算されます。
したがって、保険料は受取る年金額(所得)が多ければそれに比例して増加します。
上の条件で試算すると、一時金と年金では毎年約8万3,000円の差となり、年金での受取の方が10年間で約百万円の大幅な費用負担増となります。
この社会保険料については、運用商品、受取方法、受取期間等の選択において考慮することが必要でしょう。
老後資金の増額に期待
上述のとおり、老後の資産を全額定期預金で運用する場合は、iDeCoを利用し、受取は一時金として一括受給する方法がお得な選択と言えます。
なお、上述の数値については、モデルケースに記載の条件に基づいて試算しているので、すべてのケースに該当するものではありません。
法改正が検討
iDeCoは、昨年12月この制度の利用に関する法改正が検討されています。
法案は現在国会で審議中ですが、主な改正内容について少し触れておきます。
拠出(運用)期間については、原則60歳までが65歳まで、また受給開始については、現在の60歳~70歳までが60歳~75歳まで、それぞれ5年延長されます。
これ以外の項目で少し複雑な要件もあるようですが、いずれにしても、利用できる期間が拡大されるので、老後資金の増額は期待できそうです。(執筆者:小林 仁志)