日本の所得税は収入が増えるに従って税負担が大きくなる「累進課税制度」を採用しており、個人の所得税の税率は最大で55%にも達します。
このため、収入の多い富裕層を中心に、所得税を節約するさまざまな税金対策が利用されています。
2020年の税制大綱の改正によって、税金対策の1つである海外不動産を利用した所得税の節税が利用できなくなりました。
こうした節税対策の多くは「減価償却」と「損益通算」の2つの制度によって支えられています。
今回は、この2つの制度の概要と、節税対策の注意点を解説していきたいと思います。
目次
「減価償却」とは

「減価償却」とは、建物や車両など、高額な物品を購入した場合に利用する節税対策です。
その恩恵は一時的なものではなく、長期間に渡り収益をもたらしてくれます。
このため、高額な資産の取得を経費として計上する場合、一括で計上するのではなく、劣化による価値の減少に併せて経費を計上することになります。
価値の減少を算出するにあたり、
・ 最初は費用が多く計上できますが、年々計上できる金額が減少していく「定率法」
の2つの方法があり、住居用不動産は定額法で減価償却を行います。
減価償却が短時間で行えるほど、取得費用を多く計上できます。
不動産所得などで利益を得ていても、減価償却費を差し引くことによって税計算上は赤字となる場合もあります。
「損益通算」とは

「損益通算」とは、特定の所得において損失(赤字)と利益(黒字)を相殺できる制度です。
損益通算できる損失は、
・ 事業所得
・ 山林所得
・ 譲渡所得
に区分されるもののみです。
雑所得や一時所得などで損失が生じても、他の利益と相殺できません。
損益通算は、所得税の総所得金額を算出するための重要な制度です。
不動産投資による節税の仕組みは、不動産所得によって生じた赤字を給与所得や事業所得などの黒字と損益通算することで総所得金額を抑え、所得税の課税額を小さくすることなどで恩恵を得ていました。
そして、海外の不動産の場合、日本よりも中古不動産の価格は低下しにくい傾向があるので、減価償却完了後に売却しても損失を抑えられるとの目論見もありました。
しかし、今回の税制改正により、海外不動産の減価償却費は損益通算が行えなくなり、節税対策として利用することが不可能となりました。
「法改正に注意」して利益を減らさない

今回封じ込められた海外不動産投資による節税は、日本と海外の中古不動産の市場における減価速度の違いに着目したもので、盛んに利用されていました。
しかし、特定の税制度が維持されることを前提としてのスキームは、制度変更によって大きな影響を受けやすいといった問題点も浮き彫りにしました。
「減価償却」や「損益通算」は会社員などの給与所得者では馴染みの薄い制度です。
しかし、不動産投資を行っている場合や、事業所得や年金などの雑所得を主な収入源としている方にとっては重要な制度ですので、改正には注意を払っておくことをお奨めいたします。(執筆者:菊原 浩司)