コロナ騒動が発生して以来、結婚式の中止によるキャンセル料をめぐるトラブルが多発しています。
既にキャンセル料を支払った方もいれば、式場と交渉を続けている方もいることでしょう。
また、キャンセルすべきかどうかを現在も悩み続けている方も多いと思います。
本記事では、「ジューン・ブライド」と呼ばれる6月を迎えて、コロナが理由で結婚式を中止した場合にキャンセル料を支払う義務があるかどうかを解説していきます。

目次
自己都合で中止するとキャンセル料がかかる
キャンセル料の支払い義務があるかどうかは、第1には式場との契約に基いて決まります。
多くの場合には契約書の中に「挙式予定日前の6か月を切ると、自己都合で中止する場合にはキャンセル料が発生する」という条項があるはずです。
キャンセルする時期が挙式予定日に近くなればなるほどキャンセル料が高くなるように定められていることが一般的です。
このようなキャンセル料の規定そのものは合理的なものであり、問題はありません。
問題は、
です。
不可抗力ならキャンセル料の支払い義務はない
民法では、債務不履行の原因が社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない場合は、債権者は損害賠償請求ができないと定められています(民法第415条1項)。
ここで「債務者」とは結婚式を予約した新郎新婦のことで、「債権者」とは結婚式場のことです。
「債務」とは新郎新婦が料金を支払って結婚式を行うことをいい、結婚式を中止することが「債務不履行」にあたります。
新郎新婦の責めに帰することができない原因で、つまり
ことになります。
不可抗力による中止であれば自己都合とはいえません。
不可抗力といえるかどうかは、社会通念で判断することになります。
社会通念上、予定していた結婚式を行うことが可能かどうかはケースバイケースでしょう。
そのため、キャンセル料の支払い義務があるかどうかもケースバイケースです。
そこで次に、いくつかのケースを挙げて説明します。
「ケース別」キャンセル料の支払い義務の有無
キャンセル料の支払い義務が発生するかどうかを社会通念で判断する以上は、さまざまな事情を考慮する必要があります。
しかし、今回のコロナ騒動との関係ではキャンセルした時期が重要です。
そこで、時期別に3つのケースで考えてみましょう。

ケース1:緊急事態宣言発出中のキャンセル
6月の結婚式の予約を緊急事態宣言発出後の4月中にキャンセルした方は多いと思いますが、この場合にキャンセル料の支払い義務は発生するのでしょうか。
政府による緊急事態宣言は2020年4月7日に7都府県を対象に発出され、4月16日には対象が全国に拡大されました。
緊急事態宣言発出中は、政府から外出自粛や都道府県をまたいだ移動の自粛が要請され、ゴールデンウィーク中の帰省さえも自粛が呼びかけられました。
このような状況下で遠方に住む人も含めて多人数を招き、密閉空間での会食を伴う結婚式を行うことは、社会通念上不可能といえるでしょう。
したがって、
といえます。
ただし、結婚式の内容や規模、招待客の居住地などによっては開催が不可能とまではいえない場合もあり得るため、あくまでもケースバイケースです。
ケース2:緊急事態宣言発出前のキャンセル
人によっては、6月の結婚式の予約を緊急事態宣言発出前の3月中にキャンセルした場合もあることでしょう。
キャンセルした時点で結婚式の開催が社会通念上不可能であったかどうかで考えれば、緊急事態宣言発出中のキャンセルよりは、キャンセル料の支払い義務が発生する可能性が高いといえます。
しかし、緊急事態宣言発出前から政府によって外出自粛や3密の回避が呼びかけられており、各種イベントの中止も要請されていました。
そう考えると、既に結婚式の開催が社会通念上不可能といえる状態であったと考えることもできます。
現時点では裁判例もないので確かなことは言えませんが、
と考えられます。
ケース3:緊急事態宣言解除後のキャンセル
緊急事態宣言は5月25日に全面的に解除されました。
解除後は社会経済活動の自粛も段階的に緩和されつつあります。
といえます。
しかし、解除後も新型コロナウイルスへの警戒が完全に解かれたわけではありません。
北海道、東京、神奈川、千葉、埼玉については6月18日まで県をまたいだ移動の自粛要請が続きます。
したがって、緊急事態宣言解除後のキャンセルでも、なお結婚式の開催が社会通念上不可能としてキャンセル料がかからないケースはあり得ると考えられます。
キャンセル料の金額にも要注意

キャンセル料の支払い義務が発生する場合でも、必ずしも式場が請求するとおりの金額を支払わなければならないわけではありません。
故意かどうかは別にして、式場が過大に請求してくるケースも少なくありません。
キャンセル料の金額は基本的に当事者間で自由に取り決めることができますが、平均的な損害額を超える部分の取り決めは無効です(消費者契約法第9条1項)。
したがって、
です。
例えば、挙式予定日の直前にキャンセルした場合に料理の食材費や納品済みの物品代金、司会などの外注費などがキャンセル料に含まれるのはやむを得ないことと言えます。
しかし、1か月以上も前にキャンセルしたのにこれらの費用がキャンセル料に含まれると、平均的な損害額を超えていることが明らかです。
また、自己都合によるキャンセルだと判断されたとしても、コロナの影響を否定できない以上はキャンセル料を満額負担させられるのは酷というものです。
この点も裁判例があるわけではないので確かなことは言えませんが、過失相殺のような考え方で減額が認められてもよいはずです。
式場との交渉がスムーズに進まない場合は、国民生活センターなど第3者に相談して介入してもらった方がよいと言えます。
双方にメリットのある解決を目指したい
結婚式を中止することは新郎新婦や関係者にとっても残念ですが、式場にとっても痛手です。
できればキャンセルよりも延期の形で双方にメリットのある解決を目指したいところです。
最近では、実費負担のみで延期に対応したり、キャンセル料を請求するものの延期した結婚式の費用に全額充当するという対応を実施している式場も増えています。
柔軟な解決を図るために弁護士に相談してみるのもよいことでしょう。(執筆者:川端 克成)