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期待だけで上がる株式相場
新型コロナウィルス拡大により急落した世界各国の株式相場は、3月に底をつけ足許まで一本調子で上昇してきています。
記事執筆段階(6月10日終値ベース)で、日経225平均株価は2万3,124円、ニューヨークダウ30種平均株価は2万6,989ドル、S&P500は3,190ポイントとコロナ拡大前の水準に近付いてきており、NASDAQ総合指数にいたっては1万20ポイントとコロナ前を回復するどころか過去最高値を更新してきています。

しかし、株価は、通常企業業績という裏付けをともなって変動します。
足許の経済状況は、外出自粛やロックダウンは解除されたものの、コロナ前の状況にはほど遠い低成長が続いており、決して企業業績が大きく回復している訳ではありません。
にもかかわらず株価が大きく上昇しているのはどうしてでしょう。
株高を陰で支える財政・金融政策
欧州中央銀行(ECB)の前総裁マリオ・ドラギ氏は、2012年の欧州債務危機時に「できることは何でもやる」と言って有名になりましたが、現在の各国政府、中央銀行はドラギ前総裁の言葉を踏襲するかのように経済下支え策を矢継ぎ早に出しています。
日本政府は、第一次補正予算で117兆円という巨額の財政政策を打ち出したかと思うと、雇用の維持や企業の資金繰り支援のために第一次補正予算と同額の二次補正予算の成立を目指しているところです。
また米国では、既に3兆ドルに上る財政出動を実施しているうえ、追加で減税等の経済対策を練っているところです。
一方の中央銀行においても、日銀はETFの買入れ上限額を年6兆円から12兆円に引き上げています。
1年間に12兆円のETFを買うということは、
ということです。
日本の投資信託市場では、超大型の投資信託と言われるもので純資産額が1兆円程度です。
つまり、日銀によって、超巨大株式投資信託が毎月1本設定されているのと同じ効果があります。
またFRBにおいては、資産買入れ額を無制限にしたうえ、投資適格から投機適格に格下げされたデフォルトリスクの高い債権の買取りを開始したり、実質的に企業に直接融資するといった前代未聞の対応まで決めています。
ウィルスが急速に拡大し、経済活動が一瞬のうちに止まってしまうような状況では、政府・中央銀行が政策を出し惜しみすることなく即座に対応するのは非常に大切になってきます。
しかし、その弊害として、株式等の資産価格が実力以上に上昇してしまうこともあります。
足許は、「コロナショック」から「コロナバブル」に移行した段階といえるでしょう。
それでは、直近の株式相場の上昇は今後も続くのでしょうか。

バブルはいずれ弾ける
現在の株価水準は、2020年の企業業績予測では説明がつかないレベルまで高まっています。
従って、株式市場が将来予測を織り込んだ適正な価格を形成しているとすれば、現在の株価は2021年の企業業績に基づいていると考えられます。
もっとも、現段階で2021年を占うには不確実性が高く、リスク要因は山積みです。
リスク要因で真っ先に挙げられるのが、2021年に向けて企業業績が本当にV字回復するのかということです。
例えば、自動車メーカーはようやく工場を再稼働し始めた段階で、フル操業にはほど遠い状態です。
また、部品や工員を確保でき、通常操業が可能となったとしても、その段階で果たして需要が存在するのかという問題もあります。
他にも、航空会社は未だ海外便はほとんど運行できおらず、飲食店も再開したものの客入りはコロナ前の半分に満たない店舗が大半でしょう。
リスクは山積み
その他にもリスク要因は多数あります。
香港における「一国二制度」問題
秋に実施される米国の大統領選挙(直近の支持率では民主党のバイデン氏が現職のトランプ大統領を上回っています)
年末に控える英国のEU離脱等
枚挙にいとまがありません。
一方で、現在の株式相場はこれらのリスクには目をつむり、経済回復期待のみで上昇しています。
実際の経済状態と株価がかい離している時には、どこかの段階で調整が入ることは間違いありません。
そのため、現状は、利益を確定し、調整した際に再度相場に参加できるように現金比率を高めておく時期だといえるでしょう。(執筆者:土井 良宣)