新型コロナウィルス感染症の影響により、「休業手当」という言葉をよく耳にするようになった方も多いのではないでしょうか。
休業手当を支払った場合、事業主は雇用調整助成金の支給対象となり得ます。
労働基準法では他にも「休業補償」という業務上の負傷などで療養する場合に、支払われる制度もあり、混同することが多いので注意が必要です。

目次
休業について
休業した際の賃金や補償制度について解説していきます。
ノーワーク・ノーペイの原則
使用者と労働者が締結する労働契約は、労働者が労務の提供をし、その対価として使用者は賃金を支払う義務が発生する「双務契約」です。
つまり、労働者が労務の提供をしなかった日は、使用者に賃金の支払いを請求する権利は発生しません。
このことから、労働者が欠勤した日や遅刻によって働かなかった時間などについては、使用者に賃金を支払う義務は生じないことになります。
これを「ノーワーク・ノーペイの原則」といい、給与計算の基本原則です。
この基本原則に基づき、次のような休業の場合は、使用者に賃金の支払い義務は発生しません。
休業の種類
休業の種類には3種類あります。
1. 産前産後の休業
従業員が妊娠をした場合の休業制度で、通称「産休」と言われるものです。
産前産後休業の期間は次のとおりです。
出産後:出産の翌日から8週間
産前は、6週間以内に出産予定の従業員が申請をすれば取得可能です。
産後は、原則8週間経過しないと就業できません。
上記の労務に服さなかった期間中は、健康保険法による出産手当金が支給されます。
育児休業
従業員が1歳に満たない子を養育するための休業をいいます。
休業を開始する前2年間に、12か月以上の雇用保険の被保険者期間があれば、雇用保険から育児休業給付金が支給されます。
介護休業
従業員が対象家族を介護する休業をいいます。
休業を開始する前2年間に、12か月以上の雇用保険の被保険者期間があれば、雇用保険から介護休業給付金が支給されます。
対象家族とは次のいずれかに該当する場合をいう
・ 配偶者の父母
以上の休業に関して、原則は使用者に賃金の支払い義務が発生しませんが、就業規則等で賃金を支払うなどの規定があれば、そちらが優先されることになります。
また「産前産後休業」と「育児休業」期間中は、事業主が申請することで、社会保険料が免除される制度があります。
しかし、介護休業にはそのような制度はありません。
休業期間中に賃金の支払いがなかったとしても、介護休業の場合は社会保険料が発生することを覚えておきましょう。
また休業の中でもノーワーク・ノーペイの原則が適用されないものもあります。
ノーワーク・ノーペイの原則の例外
次は2つの例外を見ていきましょう。

1. 使用者の責めに帰すべき事由による休業
「使用者の責めに帰すべき事由」つまり会社都合により、従業員を休ませないといけないときは、従業員に休業手当を支払う義務があります。
休業手当は労働基準法26条に定められた制度になります。

この際の休業手当は、平均賃金の100分の60以上を支払わないといけません。
詳しい計算方法については、「休業手当と休業補償の計算方法」で解説したいと思います。
2. 年次有給休暇
有給を取得した日は、100%の給与を支払わなければなりません。
有給休暇はもともと「労働義務があること」を前提に、それを免除するものです。
休業手当に関しては、会社から休業の指示があった時点で、労働の義務が免除されていると解されるので、基本的には有給を取る余地はありません。
もし、労働者から権利の行使があれば、会社側にはそれを拒否することが可能です。
当然、有給の取得を認めることも何ら問題はありません。
休業手当と休業補償の違い
次は、休業手当と間違いやすい「休業補償」について解説していきます。
休業補償とは
休業補償は労災に関係する制度で、こちらは労働基準法76条に定められています。
業務中に労働者がケガをし、休業を余儀なくされた場合は、事業主は無過失責任で休業した日の賃金を補償しなければなりません。
その際は、休業期間中の賃金を受けない日の4日目以降に労災保険から休業補償給付が支給されますが、最初の3日間は休業補償給付が支給されません。
これを待機期間といいます。
使用者は待期期間中、平均賃金の100分の60以上の賃金を休業補償として労働者に支払わないといけません。
また休業補償ついては、従業員が希望すれば、労務の提供ができない日に有給を取れます。
基本的にこれを事業主が拒否できません。
労災保険の休業補償給付は、およそ平均賃金の80%の給付が行われます。
休業手当と休業補償の比較

派遣労働者が休業した場合は、「派遣元企業」に支払い義務が発生します。
休業手当と休業補償の計算方法
いくらもらえるのか、それぞれ支払額の計算方法を見ていきましょう。

休業手当
【平均賃金の考え方】
平均賃金=休業の初日以前3か月間の賃金総額 ÷ 期間の歴日数
【注意点】
・ 休業の初日以前3か月間とは、直近の給料締め日から3か月間になる
・ 賃金総額には、基本給、各種手当(通勤手当も含む)、残業などによる割増賃金などすべて含む
【例題】
(1) 対象者:月給制(完全週休二日制)
(2) 休業日:4/15(水)~21(火)まで
(3) 休業手当対象日数:5日(土日などの休日は対象とならない)
(4) 賃金締め日:毎月末日(直近締め日は3/31)
(5) 1~3月の賃金総額:91万
(6) 期間の歴日数:91日
平均賃金=91万 ÷ 91日=1万円
休業手当=1万円 × 60% × 5日=3万円
休業補償
【給付基礎日額の考え方】
給付基礎日額(平均賃金)=負傷した日または疾病が確定した日以前3か月間の賃金総額 ÷ 期間の歴日数
【注意点】
賃金総額の「疾病が確定した日」とは、医師の診断結果が出た日などをいう
【例題】
上記の休業手当の例題と同じ条件で考えてみます。
(3) 休業手当対象日数:7日(土日などの休日も補償対象となる)
給付基礎日額=91万 ÷ 91日=1万円
4/15(水)~17(金)の3日間(待期期間):会社から休業補償
休業補償 = 1万円 × 60% × 3日=1万8,000円
4/18(土)~21(火)の4日間:労災から休業補償給付および休業特別支給金
休業補償給付=1万円 × 60% × 4日=2万4,000円
休業特別支給金=1万円 × 20% × 4日=8,000円
療養日の補償額の合計=5万円
本記事のおさらい
・ 「ノーワーク・ノーペイの原則」により休業した日は基本無給となるが「休業手当」、「年次有給休暇」という例外もある
・ 休業手当は所定休日の支払義務なし、休業補償は支払いあり
・ 休業手当は待期期間なし、休業補償は待期期間あり
・ 休業手当の対象日は有給を取得する余地なし、休業補償の対象日は有給取得可能
・ 休業手当は課税対象、休業補償は非課税
今後働く上で、予期せぬ事態により休業を余儀なくされることもあるかもしれません。
休業中の生活やケガのこと考えると、不安な日々を過ごすこともあるでしょう。
その際、休業の知識があると気持ち的に安心できるはずです。
特に休業手当と休業補償は、事業主側にとっても理解しづらい内容なので、自分の最低限の生活を守る意味でも、覚えておくべき知識と言えるでしょう。(執筆者:社会保険労務士 須藤 直也)