妊娠中の女性は、さまざまな不安や悩みを抱えています。
・ 仕事を続けられるのか
・ 出産に関する費用をどうしよう
これらの不安や悩みを抱える女性が多いというのは、社会問題です。
国や企業には、妊産婦が働きやすく、仕事を続けられる環境を作る義務があります。
本記事では、企業に義務付けられている産休についてや産休中の給与・手当、保険料徴収について詳しく解説していきます。

目次
産前産後休暇
産休とは産前産後休暇のことで、労働基準法第65条(産前産後)で規定されています。
条文は次の通りです。
第六十五条 使用者は、六週間(多胎妊娠の場合にあつては、十四週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
○2 使用者は、産後八週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後六週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。
○3 使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。e-Gov
事業主は出産予定日以前6週間(多胎妊娠は14週)から出産後8週間は、原則、妊産婦から請求があれば労働させてはいけません。
その間は産休となります。
これは正社員や有期社員、派遣社員など雇用形態に関わらず、取得できます。
新型コロナウィルス感染症に関する措置
令和2年5月7日~令和3年1月31日の期間中は、新型コロナウィルス感染症における特例措置として、事業主は、妊娠中の女性労働者が主治医などから指導を受け、申出があった場合は、その指導に基づいた措置を取らなければなりません。
例えば次のような措置があります。
・ 感染のおそれの低い作業への転換
・ 在宅勤務
・ 休業
・ 時差出勤
・ 勤務時間の短縮
また、次の事項は、妊娠中の女性が請求をすれば、医師の指導がなくても制限されます。
・ 時間外労働
・ 休日労働
・ 深夜労働
これらの措置を取ることは企業側の義務になります。
詳しくは、厚生労働省の新型コロナウィルス感染症に関する母性健康管理措置についてのチラシを参照してください。

産休中の収入
続いて、産休中の給与や手当がどうなっているのか見ていきましょう。
会社からの給与
産前産後休業中は、会社側が給与を支払う義務はなく、有給・無給の判断は会社側に委ねられています。
産前産後休業中で会社から給与が支払われない日について、健康保険から出産手当金を支給されます。
出産手当金
【支給日】
休業したことによって会社から報酬を受けていない日で、次の期間に支払われます。
・ 出産予定日以前42日(多胎妊娠の場合は98日)
・ 出産の日の翌日以後56日まで
押さえるべきポイント
・ 出産予定日が前後しても上記の範囲の金額が支給される
・ 産前産後休業を開始した最初の3日間(待機期間)は支給されない
・ 妊娠4か月の分娩を出産といい、流産や死産の場合も含まれる
計算方法
では出産手当金がどのように計算されるか見ていきましょう。
まず計算式は以下の通りです。
例題を見ていきましょう。
・ 出産予定日:9/15
・ 申し出があり:8/5(予定日の42日以前)から産休に入り、出産予定日に出生した
・ 標準報酬月額20万円 × 11か月(7月から前年9月まで)
・ 標準報酬月額22万円 × 1か月(前年8月)
・ 産休中に受けた報酬はなし
12か月間の標準報酬月額の平均の日割り=(20万円 × 11か月+22万円 × 1か月)÷12か月 × 1/30 = 6,720円
(5円未満切り捨て、5円以上は10円に切り上げ)
支給期間:8/5~11/10の95日間(待機期間3日間除く)
・ 公休日も支給される
・ 労務に服さなかった日に報酬を受けた場合は、支給されない
ただし、出産手当金の日額より少ない場合は、その差額が支給される
つまり、最大 4,480円 × 95日=42万5,600円支給されます。
産前産後休業中の保険料免除

事業主が保険者等に申し出た場合は、妊産婦の健康保険・厚生年金の保険料は免除されます。
免除される期間は、産前産後休業を開始した日が属する月から終了した日の翌日が属する月の前月までです。
出産育児一時金
出産には、高額の費用がかかります。
出産手当金は、生活費の補償という意味合いであり、出産費用に充てることを想定していません。
そのため出産の費用負担の軽減を目的として、出産育児一時金が支給されます。
出産育児一時金は、原則1児につき42万円です。
※産科医療補償制度に加入されていない医療機関等で出産された場合は、40.4万円となります。
ただ出産育児一時金が支給されると言っても、一時的に負担がかかることは否めません。
そのため保険者等から医療機関へ直接出産育児一時金を支払うことで、事前に出産費用としてまとまったお金を用意する必要がなくなります。
これは、直接支払制度と受取代理制度というものです。
詳しくは、全国健康保険協会のHPをご覧ください。
参照:全国健康保険協会
また出産費貸付制度を利用すれば、出産育児一時金の支給見込額の8割相当を限度に、無利子の貸付を受られます。
そちらも全国健康保険協会のHPで詳細をご確認ください。
またもし、妊娠中に被保険者資格を喪失してしまった場合、今受けている手当などの取扱いが、喪失後どうなるのか不安になるかと思います。
続いては、資格喪失後の取扱いについて解説していきます。
喪失後はどうなる
妊娠中に退職することになり、被保険者資格を喪失した場合でも「出産手当金」および「出産育児一時金」は喪失後に受給できる可能性があります。
喪失後でも受給できる要件をそれぞれ見ていきましょう。

出産手当金
次の(1) と(2) の要件を満たす必要があります。
(1) 被保険者の資格を喪失した日の前日(退職日)まで引き続き1年以上被保険者であったこと※1
(2) 資格喪失した際に出産手当金を受けていること※2
※1 転職しても1日の空白期間がなければ通算可能
※2 待期期間中に退職したら不可
支給停止期間中でも要件を満たしていれば支給対象です。
出産育児一時金
次の(1) と(2) の要件を満たす必要があります。
(1) 被保険者の資格を喪失した日の前日(退職日)まで引き続き1年以上被保険者であったこと
(2) 資格喪失日後6か月以内に出産したこと※
※出産日が遅れ、資格喪失後6か月を経過したら支給されないので注意
妊娠中は手続き1つでも何かと手間やストレスがかかるので、要件を満たすのであれば喪失後も同じ保険組合から給付されることが望ましいでしょう。
早めに会社へ相談しましょう
・ 産休は雇用形態に関わらず取得可能
・ 産休中の給与補償や出産費用は、健康保険からの給付金を活用
・ コロナ期間中は、企業に妊娠中の女性への特例措置を取ることを義務付けている
・ 出産育児一時金の給付制度によっては、一時的な費用負担も軽減可能
・ 出産費用の無利子の貸付制度もある
・ 条件を満たせば、資格喪失後の受給も可能
「出産手当金」、「出産育児一時金」とも基本的には、事業主が手続きをしてくれるので、早めに会社へ相談しましょう。
産前産後期間中は、日常生活や仕事に関するストレスに敏感になりやすいので、何事も気持ちに余裕を持って行動することが大切です。
特にお金に関してが1番の悩みどころになるかと思うので、手当に関して事前に知識をつけておくようにしましょう。(執筆者:社会保険労務士 須藤 直也)