公的年金の保険料の納付済期間や、国民年金の保険料の免除期間などを合算した期間が、原則10年に達しており、受給資格期間を満たしている方には、65歳になると国民年金から「老齢基礎年金」が支給されます。
また原則10年の受給資格期間を満たした上で、厚生年金保険の加入期間が1か月以上ある方には、65歳になると厚生年金保険から、「老齢厚生年金」が支給されます。
これらの支給開始を1か月遅くすると「繰下げ受給」の仕組みにより、65歳から受給できる金額に対して、0.7%の割合で増えていきます。
遅くできる年齢の上限は、現在は70歳になっているため、最大で42%(5年 × 12か月 × 0.7%)増額します。
また2020年に実施された改正で、遅くできる年齢の上限は2022年4月から、75歳に引き上げされるため、最大で84%(10年 × 12か月 × 0.7%)増額します。
この改正の実施によって、年金の支給開始を遅くする方は、以前より有利になりました。
ただ有利になったといっても、年金制度の持続可能性に疑問を感じる、または定年退職後にやりたい事があるなどの理由により、年金を早く受給したい方がいると思います。
2020年の改正点について調べてみると、こういった方が以前より有利になる、次のような3つの改正も実施されています。
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目次
【改正点1】繰上げ受給の減額率の引き下げ
老齢基礎年金や老齢厚生年金の支給開始は、上記のように本来であれば、65歳からになります。
これらの支給開始を1か月早くすると「繰上げ受給」の仕組みにより、65歳から受給できる金額に対して、0.5%の割合で減っていきます。
早くできる年齢の上限は、現在は60歳になっているため、最大で30%(5年 × 12か月 × 0.5%)減額します。
この減額は生涯に渡って続くため、一般的には77歳くらいになると、65歳から受給した方と受給総額が同じになります。
ですからこの年齢より長生きした場合には、繰上げ受給を選択しないで、65歳から受給した方がお得になりますが、将来的には逆転する年齢が変わります。
この理由として2020年に実施された改正により、繰上げ受給の減額率が2022年4月から、0.4%に引き下げられるからです。
そうなると60歳から受給した場合の減額は、24%(5年 ×12か月 × 0.4%)まで低下します。
また65歳から受給した方と受給総額が同じになる年齢は、81歳くらいに引き上げされます。
厚生労働省の発表によると、2018年の日本人の平均寿命は、男性が81.25歳、女性が87.32歳になるため、特に男性は繰上げ受給を、以前より利用しやすくなったと思います。
【改正点2】年金の支給停止が始まる基準額の引き上げ
現在は60歳だった老齢厚生年金の支給開始を段階的に、65歳に引き上げしている最中です。
そのため原則10年の受給資格期間を満たした上で、厚生年金保険の加入期間が1年以上ある方には、60~64歳(生年月日によって変わる)から、「特別支給の老齢厚生年金」が支給される可能性があります。
ただ60歳から65歳になるまでの間に、厚生年金保険に加入しており、かつ「月給+直近1年間の賞与 ÷ 12」と、「特別支給の老齢厚生年金÷12」の合計が、28万円を超えている時は、特別支給の老齢厚生年金を受給できない場合があります。
この理由として「在職老齢年金」という仕組みにより、特別支給の老齢厚生年金の全部または一部が支給停止になるからです。
なお65歳以降については、「月給+直近1年間の賞与 ÷ 12」と「老齢厚生年金 ÷ 12」の合計が、47万円を超えると、老齢厚生年金の全部または一部が支給停止になります。
つまり現在は65歳を境にして、支給停止の基準が変わりますが、2020年に実施された改正により、2022年4月からは60~64歳も、47万円に変わります。
このように基準が統一され、わかりやすくなるだけでなく、60~64歳の方は特別支給の老齢厚生年金を、以前より受給しやすくなります。
特別支給の老齢厚生年金を受給できるのは、1961年4月1日以前生まれの男性、1966年4月1日以前生まれの女性です。
改正の恩恵を受けられる方は限られますが、該当する方には十分なメリットがあると思います。
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【改正点3】在職定時改定の導入
65歳以降も厚生年金保険に加入すると、この加入期間が1か月長くなるごとに、受給できる老齢厚生年金が増えていきます。
ただ老齢厚生年金の金額が改定されるのは、退職して1か月が経過してから、または70歳に到達してからになります。
ですから65歳から70歳までの間に退職しなかった場合、老齢厚生年金の金額が改定されるまでに、5年も待つ必要があるため、厚生年金保険に加入するメリットを感じにくいです。
そこで2020年に実施された改正により「在職定時改定」という仕組みが導入されたため、2022年4月からは1年が経過するごとに、老齢厚生年金の金額が改定されます。
これにより最長で5年の待機期間が、1年に短縮されるので、かなりお得な改正だと思います。
なお老齢厚生年金を繰上げ受給した場合、上記のように生涯に渡って、減額が続いていきます。
ただ在職定時改定が実施された後は、65歳以降に厚生年金保険に加入していると、老齢厚生年金が1年ごとに増えていくため、減額した分を取り戻すチャンスが、以前より早めにやってきます。
こういった意味で在職定時改定は、年金を早く受給する方が有利になる改正のひとつです。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)