新型コロナ感染拡大による景気の悪化に伴い、既に経営破綻に陥った企業についてメディアで報じられていますが、問題はそれだけではありません。
日本経済の原動力の大部分を占める中小企業では、コロナ不況の直接的な影響による倒産だけではなく、コロナによって先行きが不透明になったことを理由に事業継続を断念するケースが増えてきています。
今回は、そのような場合に利用できる「未払い賃金立替払制度」を紹介したいと思います。

目次
倒産したら賃金は請求できないのか
仮に会社が破産した場合に破産までに支払いを受けていない賃金があれば、残された会社財産からこれを優先的に支払うよう裁判所に届け出ることができます。
もっとも、法的な権利として未払い賃金請求が認められるとしても、実際に支払いを受けるまでには手続き上の相当な時間がかかります。
そもそも民事再生ではなく破産を申請するほどですから、会社自体にめぼしい財産が残っていることはなく、満足な支払いを受けることは現実的には難しいことでしょう。
未払い賃金の立替払は個人で手続きできる
では、このような場合に労働者は泣き寝入りするしかないのでしょうか。
実は、このような場合に備えて、未払い賃金等を立替払してもらえる制度があるのです。
具体的には「独立行政法人労働者健康福祉機構」に申請することにより、同機構が会社に代わって未払い賃金等の一部を従業員に立替払する仕組みです。
こちらは従業員が個人で手続き可能で、
します。
どのような時に立替払をしてもらえるのか
同機構の「未払い賃金立替払制度」を利用するには、一定の条件があります。
利用条件
(2) 事業活動再開の見込みがなく、賃金が支払われない中小企業に雇用されていたこと
(3) 退職日の6か月前から立替払申請の前日までに合計2万円以上の賃金や退職金が未払いとなっていること
(4)会社倒産後、2年以内の申請であること
倒産したのが、1年以上事業継続していた会社でなければ支払われません。
従って、
・ 未払い賃金や退職金が2万円未満の場合には立替払の対象にならない
などあきらめざるを得ないケースがあることには注意が必要です。

立替払でいくらもらえるのか
立替払は退職日の6か月前の支払いまでさかのぼることができます。
社会保険料などを差し引かれる前の総支給額で判断されますが、賞与は対象とはなりません。
また、その金額は未払い分の80%が上限ですが、その他に年齢によって限度額が定められており、年齢の若い人ほど金額が低くなる点にもご注意ください。
【(表1)未払い賃金立替払の上限額】

まずは立替金を除いたやりくりを考える
ここまで見てきたように、倒産によって賃金が未払いとなっても立替払を活用して賃金を取り戻すことができます。
ただし、実際に立替金が希望振込口座に入金されるまでの期間は、倒産のケースによって異なります。
特に、経営者が「夜逃げ」をしたような、会社の倒産手続きを公的に行っていない「事実上の倒産」の場合には、事実関係の確認と認定に相当な時間がかかることもあります。
すぐに生活資金にまわせるとは思わず、まずは立替金を除いたところで生活資金のやりくりを考えるようにしましょう。(執筆者:人事労務最前線のライター 今坂 啓)