コロナ禍により在宅勤務が始まった会社は多いことでしょう。
そしてこの流れは当面続くだけではなく、一般化していくものと考えられます。
旧来はオフィスでの始業時刻から逆算し、起床し身支度を済ませ、満員電車に揺られながらオフィスへ出社します。
オフィス内を中心に業務を行い、帰宅するという一種のルーティンワークがむしろ当たり前でした。
それが今回のコロナ禍によってオフィスワークは(一定の職種を除き)例外的な形態となってきています。
新常態(ニューノーマル)においてはBCP(事業継続計画)の観点からも「在宅勤務が選択できないとなると危険」だと判断されかねません。
多く寄せられたご相談のなかで
という切り口にフォーカスをあてて解説していきます。
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目次
テレワーク中に怪我をした場合には「労災保険」の対象なのか
結論から言うと、業務時間内に発生した怪我であり業務との因果関係があれば「労災保険」の対象です。
「労災保険」は、基本的には「業務災害」と「通勤災害」に分けられます。
「業務災害」に該当するかの判断基準
「業務災害」と認められる判断基準は次の2つです。
労働契約関係に基づき事業主の支配下にある状態
「業務起因性」:
業務と負傷との間に因果関係がある
因果関係とは「AがなければBもなかった」ということで「働いていなければ事故には遭わなかった」という考え方です。
しかし、いくら因果関係があったとしても次のようなケースは「業務災害」として認定されません。
・ 労働時間中に私的行為や業務を逸脱するような恣意的な行為を行いそれが原因で災害を被った場合
・ 故意に災害を発生させた場合
・ 怨恨関係(個人的な恨み)があり、第3者に喧嘩を仕掛けて被害を被ったような場合
・ 地震、台風などによる自然災害による被災(例外あり)
今回は、在宅勤務を始めとするテレワークであってもオフィスと同じように「労働基準法」、「労災保険法」は適用されます。
従って、
・ 業務関連書籍を自宅の本棚から取ろうとしたところ足を滑らせて転倒した
といったような場合には「業務災害」の対象であると言えます。
参考(コロナ関連)
厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症にかかる労災補償状況と認定事例(2020年7月15日時点)を発表しました。
労災請求件数は全体で667件のうち130件に対して支給決定がなされました。
職種別請求件数をみると、言うまでもなく医療従事者等(患者の診療・看護や病原体を取り扱う業務など)が558件と圧倒的に多く、支給決定は105件であったと発表されています。
テレワーク中に「労災保険」の対象にならないケース
たとえば「人混みを避けるために」という目的で、業務時間中に(中抜けのような形で)業務とは全く関係のない私的な買い物に行ったと仮定します。
その際に足を滑らせて転倒した場合は「業務災害」とは認められません。
在宅勤務明けに出張命令があり出張先での風邪
出張については、出張の全過程が事業主の支配下にあると考えられ、一応はその過程全般が業務行為と判断されます。
よく
とのご質問を頂きますが、このケースは前述のとおり業務災害です。
しかし、病気に関しては、業務遂行中に発生したからといって画一的に「業務起因性」が認められるとは断言できません。
私生活上で風邪などに既に罹患していたにも拘らずたまたま業務遂行中に症状が発生した場合もあり得る、つまり因果関係の立証が困難だからです。
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「労災保険」か「健康保険」か判断に迷う場合
「健康保険」の場合には窓口負担(一般的には3割)が発生します。
しかし、「労災保険」は被災労働者による窓口負担はありません。
従って、「健康保険」を使ったものの「業務災害」との指摘があり、遡って「労災保険」を使うとなると支払った窓口負担額などの煩雑な払戻し手続きが発生します。
判断に迷うのであれば、
であると考えます。
また、健康保険法では以下の通達があります。
業務場の疾病として労働基準局に認定を申請中の未決定期間は、一応業務上の取り扱いをし、最終的に業務上の疾病でないと認定され、さらに健康保険による業務災害意外と認定された場合はさかのぼって療養費、傷病手当金等の給付を行う。
労災保険法、健康保険法などの社会保険制度は、労働者に多大な不安や困惑を与えないようにまずは迅速な給付を行うことを目的としています。
テレワーク中の「業務災害」の認定は個別具体的な検証
「在宅勤務」の場合、事実上は業務行為と私的行為が混在していると言えます。
在宅勤務を始めとするテレワーク中の「業務災害」の認定には具体的な事例が積み上がっているとは言えず、「労災保険」の保護の対象か否かは個別具体的な検証がなされます。
反対に「健康保険」は、労災保険法に規定する業務災害以外の疾病等について保険給付を行うという考え方です。
また、「労災保険」から給付されない場合には「健康保険」の対象です。(執筆者:社会保険労務士 蓑田 真吾)