コロナウイルスの感染拡大で住宅ローンの返済に困った際に、銀行員として私がおすすめするのは「リスケ」です。
リスケとは「リスケジュール(Reschedule)」の略で、住宅ローンの返済を一時的に減らして、無理なく返済できる金額に組み直すことです。
では、リスケをすると何が起きるのでしょうか。
「もとの返済に戻ったとき、返済額はどうなるの?」
「収入が回復しないときなど、いつまでリスケしてくれるの?」
今回は、リスケをすると実際にどういった変化が起きるのか、具体例をもとに解説します。
ぜひ参考にしてください。

目次
リスケに交換条件はあるのか
まず、リスケの基本事項をいくつかあげます。
【リスケの基本事項】
・ リスケする際に金利は引上げも引き下げもしない
・ 延滞していた場合に「延滞を払ってからリスケ」か「延滞もひっくるめてリスケ」かはケースバイケース
・ 元金は「猶予」であって免除されるわけではない。利息は一切免除されない
・ 手数料は免除してくれない場合が多い
・ リスケをする際に交換条件を求められることはない(はず)
リスケは困っている人の救済として行うもので、金利が引き上げられることはまずあり得ません。
「債務者の支援を優先」と金融庁など監督官庁から厳しく監視されているので、弱みにつけ込んで金利を引き上げられるなどということはありません。
また、「クレジットカードを作ってくれたらリスケしますよ」などと交換条件を求めることも同じ理由で禁じられています。
(はず)と書いたのは、そうは言っても、銀行員から負担の少ないお願い事をされることはあるかも知れないからです。
もちろん、このお願いに付き合うかはあなた次第です。
支援・救済が目的なので金利引き上げや交換条件は求めませんが、普通に返済している人からすれば「リスケして返済を減らすのは特別待遇している」とも言われかねません。
したがって、条件をさらに良くする金利引き下げや、手数料の免除もしてもらえないのが一般的です。
リスケするとローン残額はどうなるのか
リスケは毎月の返済に占める「元金返済」と「利息」を組み替えて無理なく返済できる水準まで少なくするのですが、あくまで一時的な猶予(先送り)で免除するわけではありません。
分かりやすく説明すると「硬くなったお餅を焼くなどして柔らかくして手でグニューと伸ばす」イメージです。
伸ばせばお餅は細く長くなりますが、もとのお餅が減ったわけではありません。
これを踏まえて具体例で説明していきます。
リスケ前とリスケ後の比較:具体例
リスケ前とリスケ後の比較を具体例で説明していきます。
【前提】
借入額:3,000万円
金利:4.1%
期間:30年
残年数:25年
残額:2713万4,253円
この状態で、リスケ前に毎月14万3,224円の返済を、リスケ後は半年(6回)だけ毎月10万円に減らす
この前提で、半年リスケするとどうなるのかをリスケしなかった場合と比較します。
数値はあくまで理論的な数値です。実際には金融機関によってもケースによっても異なります。
計算はExcel表のローン計算シートを使用し、シンプルにするため延滞なし、手数料なども考慮していません。
【毎月返済額】
リスケ前:14万3,224円
リスケ後:10万円
差額:4万3,224円
ここで言う返済額とは、口座から引き落とされる金額です。リスケすると毎月返済が少なくなることがわかります。
【返済額に占める元金と利息の割合】
リスケ前:
元金5万2,601円 + 利息9万622円 = 14万3,224円(円未満は端数調整)
リスケ後:
元金9,378円 + 利息9万622円円 = 10万円
差額:
元金4万3,223円
利息0円
リスケ後は、前と比較して元金が少なくなりました。
これは言い換えると、
「毎月返済が免除されたのではなく、元金返済を先送りしただけ」
となります。
この例ではリスケしなかった場合と比べると、毎月返済額で20万円以上の元金返済を先送りしたということになります。
【計算過程】
A:リスケしなければ払う筈だった6か月分の元金26万4,766円
B:リスケした場合の6か月分の元金4万6,890円(リスケ中は元金利息の組み合わせは変わらないので9,378円 × 6か月で計算)
A – B = 21万7,876円の元金返済を先送り

リスケは元金返済を先送りすること
リスケは、無理なく返済できるように毎月の返済額を減らすべく再構築することです。
「利息は動かせないので、毎月返済の元金部分を先送りしているだけ」だということがわかって頂けたと思います。
ローンの返済額は「元金 + 利息」の組み合わせになっています。
返済が進むと徐々にではありますが、返済に占める元金が増えて利息が減っていく形式が、住宅ローン返済で主流の「元利均等返済」です。
よく「最初のうち、ローン返済額はほとんどが利息」というのはここから来ています。
リスケをやめて、もとの返済に戻すとどうなるのか
収入が回復したので返済をもとに戻す(銀行では、これをリスケの卒業と呼びます)とどうなるのでしょうか。
理屈としては、6か月のあいだ先送りしていた元金を含め、残りの返済期間で再計算した返済額になるわけで、元金を先送りした分、返済額はリスケする前よりも多くなります。
リスケが半年で終わらずに何年も続いたとしたら、返済を先送りしたツケはもっと大きくなってしまうので注意が必要です。
銀行はいつまでリスケしてくれるのか
「収入が回復しないときなど、いつまでリスケしてくれるの?」というご質問をいただくことがありますが、銀行から断わられない限りは何年でもリスケは続けられます。
一般的にはリスケは6か月単位で考えます。
これは収入が急変したり、自然災害や突発的なできごと(今回のコロナ禍)が起きたりした場合の緊急的な措置だからです。
「とりあえずは6か月先送りして様子を見て、早く立ち直ってもらおう」ということです。
しかし、すべての人が半年で立ち直れるとは限らず、頼めばもう一度リスケをしてもらえますし、リスケの期間も半年から1年にしてもらえるかもしれません。
一方で、リスケが長くなればなるほど元金はどんどん先送りされます。また、途中で返済が延滞するなど再度のリスケをしてもらえなくなる場合もあります。
元に戻さなければツケは大きくなる
リスケを続けてもいつかは元に戻さなければツケは大きくなるばかりで、最悪の場合には元に戻せなくなるかも知れません。
「どこで元に戻るか」を慎重に考えるべきでしょう。(執筆者:銀行員一筋30年 加藤 隆二)