毎月の給与から控除される健康保険や厚生年金などの保険料は、決して少額ではありません。
健康保険も厚生年金保険も雇用保険も要件を満たせば、加入しなければなりません。
加入の有無は、労働者の自由意思では選べないのです。
だからこそ、これらの社会保険に関する知識を労働者が持っていなくても、会社側できちんと加入手続きをしてフォローしてくれているのだとも言えます。
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目次
健康保険・厚生年金保険の標準報酬月額はどうやって決まるのか
健康保険と厚生年金保険は、便宜上ひとまとめにして「社会保険」と呼ばれることもあります。
さらに、介護保険や雇用保険も含めて「社会保険」と呼ぶ場合があります。
この記事では、社会保険という通称は使わずに、各保険の名称を用いて説明します。
健康保険と厚生年金保険では共通する加入要件があり、標準報酬月額の算出方法も共通しています。
標準報酬月額の算出方法
まず、健康保険・厚生年金保険加入者の3か月分の給与平均額を計算します。
この平均額を「標準月額」と呼びます。
そして、この標準月額を「標準報酬月額表」にあてはめて該当する標準報酬月額、および等級を決定します。
毎月給与から控除される健康保険料や厚生年金保険料は、その等級に応じて金額が決まっているのです。
健康保険・厚生年金保険では標準報酬月額の限度額が違う
ただし、健康保険と厚生年金保険では、それぞれ別の標準報酬月額表が使われています。
そのため、設けられている等級の数も異なります。
令和2年8月時点で、健康保険は1等級から50等級までありますが、厚生年金保険には1等級から31等級までとなっています。
また、健康保険と厚生年金保険では、標準報酬月額の下限および上限も異なります。
協会けんぽの健康保険では、1等級(一番下の等級)の標準報酬月額は5万8,000円で、標準月額6万3,000円未満の人が該当します。
一方、厚生年金では、1等級の標準報酬月額は8万8,000円で、標準月額9万3,000円未満の人が該当します。
協会けんぽの健康保険では、1番上の等級は50等級で、標準報酬月額は139万円です。
標準月額135万5,000円以上の人が該当します。
一方、厚生年金では、1番上の等級は31等級で、標準報酬月額は62万円です。
標準月額60万5,000円以上の人が該当します。
2020年9月、厚生年金保険の標準報酬月額の上限が変わる
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しかし、令和2年9月分に厚生年金保険料の標準報酬月額が改定されました。
31等級の上にさらに「32等級」が設けられて上限が引き上げられたのです。
この32等級の標準報酬月額は65万円で、標準月額が63万5,000円以上の人が該当します。
31等級(標準報酬月額62万円)に該当するのは、標準月額が60万5,000円以上63万5,000円未満の人ということになりました。
つまり、標準月額が60万5,000円以上63万5,000円未満の人は31等級のままで変わりません。
この改定に伴い、厚生年金保険の等級が31等級から32等級になった場合には、当然のことながら給与から控除される厚生年金保険料も増えます。
具体的に言うと、32等級に該当する人の厚生年金保険料は5万9,475円です。
31等級の厚生年金保険料は5万6,730円ですから、1か月あたり2,745円増額されることになります。
ちなみに、厚生年金保険料は労使折半なので、労働者だけではなく会社側にも2,745円の負担が増えます。
納付した厚生年金保険料は老齢厚生年金に反映される
厚生年金保険に加入するかどうかが自由に選べないように、負担する厚生年金保険料の金額も自由に選ぶことはできません。
年金制度については不安視する声もありますが、ともあれ納付した厚生年金保険料は、老齢厚生年金の受給額に反映されます。
老齢厚生年金には「報酬比例部分」と呼ばれる標準報酬月額に基いて計算される金額があるのです。
健康なときや若いうちには、年金について意識することはあまりないかもしれません。
しかし、納めた保険料は、将来の給付に確実に結びついているのです。(執筆者:社会保険労務士 嵯峨 朝子)