住宅ローンの金利は、銀行員に言えば下げてもらえます。
銀行も競争なので、あなたが高いよ、と言えば恐らくローン金利を下げてくれるでしょう。
「銀行住宅ローンの金利は、どのような仕組みで決まるのか」
今回は、この疑問を銀行員が解説します。
住宅ローンを検討している人や、住宅ローン利用中の人も、ぜひ参考にしてください。

住宅ローン金利は銀行によっていろいろ表現もありますが、突き詰めれば「変動金利」か「固定金利」しかありません。
「変動金利」と「固定金利」でそれぞれどのような仕組みで金利が決まるかを解説していきます。
目次
「変動金利」:金利が決まる仕組み
・ 基準となる金利が上下動すると、連動して自分の金利も変動する
・ 変動するときも、基準金利と自分の金利の差(解離といいます)は変わらない
これが変動金利の原則です。
基準となる金利のことを「基準金利」(規定金利、基本金利などとも)と呼び、多くの金融機関では新長期プライムレートと同じ水準になっています。
具体例で説明すると、例えばあなたの住宅ローンが変動金利で1%なら、銀行はあなたのローン金利を基準金利から1.475%ディスカウントしていることになります。
なお銀行では解離という言葉より、顧客へのアピール度から「優遇」と表現します。
新長期プライムレートとは
銀行が事業資金融資などで長期に借入に適用する変動金利の基準となる金利(レート)のことです。
「最優遇金利」あるいは略して「新長プラ」ともいいます。
現行の金利水準は年2.475%程度です。
「固定金利」:金利が決まる仕組み
・ 固定金利が長く適用されるほど金利は高くなる
・ 固定金利も基準となる金利から差し引いたり、上乗せしたりして金利が決まる
これが固定金利の基本的な仕組みです。
大まかなところは変動金利と同じで、違うのは基準となる金利です。
銀行の金利を参考に考えます
「どうなると値引きしてくれるの?」
金利の上乗せや値引きは、主に以下のような要素で決まります。

儲かるお客様は値引き
住宅ローンを利用する人は、長期間利息をもらえるだけでなく、銀行にとって儲かるお客様です。
ローンを利用すれば、多くの人が給料をその銀行に振込指定します。
また、家の公共料金から家族の預金などいろいろ銀行取引が増えていきます。
銀行ではこうして取引が拡大することを「取引が太る」、「太いお客様」などと表現します。
住宅ローンを新規で申し込む時に給料振込を指定する、あるいはクレジットカードなど銀行員から勧誘されて、付き合うと金利値引きがあるのは、これが理由です。
逆に勤務先の決まりで給料振込を指定できないとか、クレジットカードなどをセールスしても付き合わないと、金利値引きが少なくなり、このあたりは銀行も商売です。
リスクが高いと金利も高い
住宅ローンも借金なので、返済できなくなると、本人だけでなく銀行も困ります。
融資したお金が回収できないことは、銀行にとってのリスクになります。
そこでリスクを考えるときは、例えば
勤続年数が短い
勤務先が小規模
といった要素を数値化して、金利を上乗せするのが基本です。
ただし、あくまで回収のリスクを数字から判断しているだけで、決して勤務先が小規模だから返せないなどと決め付けているわけではありません。
転職したばかりだとローン金利が安くならないとか、同じ年収・同じ勤続年数でも、公務員や先生のほうが優遇してもらえるのは、これが理由です。
銀行のメンツや懐事情
銀行同士の競争や地域のシェア争いなどメンツから、特別に金利が安くなることもあります。
これは特に地方で見られる傾向で「あの銀行が1%ならうちはもっと下げます」などライバル関係の銀行同士で争っています。
これなどある意味不毛なことで、銀行にいる人間としてはじくじたる思いです。
いっぽう注意しなければいけないのが、他と比べて金利が異常に低い場合です。
創立何十周年などの理由もないのに、他より明らかに低すぎる金利には注意が必要で、理由は主に2つあります。
1つは、低金利だと思っていたのに、よく見たらいろいろ仕組みがあって実際には他と同じだったというケースです。
例えば金利は安いけどローン手数料が高く、結局ほかと変わらない場合です。
そしてもう1つは銀行の懐事情です。
経営難や評価が低いなどで住宅ローンのお客様があつまらないとか、最悪は経営悪化でなんとしてでも住宅ローンを集めないとまずい、などの理由で低金利を打ち出すことがあります。
過去破綻した金融機関において、なりふり構わない営業があったと私は見聞きしたことがあります。
もちろん最近は法律が整備され、銀行も強引な営業はできません。
とはいえ、コロナ禍で金融機関の経営悪化が心配される状況なので、ぜひ覚えておいてください。
住宅ローンの金利はどこまで下げられるのか
「金利がどこまで下げられるのか」の核心は明かせません。
なぜなら銀行も営利企業であり、収益の根幹部分は極秘中の極秘事項だからです。
と言っても、それでは説明になりませんので、理論的な部分について解説します。

最低ラインは銀行が赤字にならない金利
大前提として、銀行が赤字になる金利はできません。
ローンの残高だけを追求して利益度外視なら、金利を0%にすれば良いわけであり、これを逆に考えると、かなりの低金利でも、それは銀行にもうけがある金利ということになります。
「あとどのくらい金利を下げさせられるか」は「銀行のもうけがどれだけ残っているのか」という部分になります。
変動金利:ほぼ最低水準で引き下げは難しい
上記のように銀行のもうけがほとんど残っていない状況下で、さらに引き下げを期待しても、ほとんど望めないのが現実です。
ここまで期待して読まれた人は、ガッカリしてしまうかもしれませんが、低金利、金融機関の競争激化で、変動金利はほぼ最低水準に達しています。
銀行ホームページで公表されている金利から、引き下げても0.0〇%(小数点第2位)くらいでしょう。
例えば今月(2020年9月)ある銀行の変動金利は0.525%でしたので、理論的な水準は0.4%台と考えられます。
このように変動金利で引き下げはほとんど期待できない、と考えてください。
固定金利:金融機関によって全く違う
固定金利には正解がないので、説明が難しいのが本音です。
固定金利も基準値があり、そこからディスカウントの最低水準がある点は、変動金利と同じです。
しかしながら、固定金利の基準値は銀行によりそれぞれ全く違います。
しかも極秘中の極秘なので、正直私でも他の銀行の基準値や引き下げ可能な水準はわかりません。
値引きしていないほうが値引きできる、とは限らない
例えばA銀行とB銀行と、2つの銀行で十年間固定金利を比べてみましょう。
この時A銀行は10年固定・0.74% B銀行は10年固定0.95%でした。
引き下げ幅を見てみると下記のとおりです。
B銀行は基準値(*)が2.95%なので▲2.0%値引きしている
*基準値は「店頭表示金利」などの名称で、銀行ホームページで見られませす。
例では、BよりAのほうが金利は安いが、BよりAのほうが多く値引きしています。
単純に考えると値引きしていないB銀行のほうが、引き下げの余地があるように思われます。
しかし注意したいのは、基準値イコール店頭表示金利ではないということです。
店頭表示金利とは「本当の基準値(採算ぎりぎりの最低水準)」ではなく、これにいくらか上乗せした数値を公表しています。
したがって、「どちらがどれだけ値引きしているか」は本当の基準値で考えないとわかりません。
ここまで説明が多い感がありますので理論的な水準としてですが、
例えば上記A、Bはそれぞれ実在する銀行の今月(2020年9月)の金利水準です。
10年固定でA銀行、0.74%ですが、理論的な最低水準は0.5%台と考えられます。
ダイナミックな引き下げは期待できない
固定金利10年なら理論的な最低水準は0.5%台
これらは、私の勤務する銀行なら可能な金利水準ですが、同時にほかの銀行でも同じ水準が可能と思われます。
現状の金利水準ではダイナミックに数%などの引き下げは期待できませんが、下げてもらえる可能性があることを知り、借り換える前に、今借りている銀行に相談してください。(執筆者:銀行員一筋30年 加藤 隆二)