今回は、9月3日の米ナスダック総合指数の急落を受け、その理由と今後の展望について解説していきたいと思います。

目次
ナスダック総合指数急落
2020年9月3日に米ナスダック上場のハイテク株が急落しました。
特に注目すべきは米ナスダック総合指数の値動きです。
直近までは、世界的な超金融緩和によりグロース株優位の展開が続いていただけに、この急落は多くの投資家を驚かせるものとなりました。
きっかけは、8月の米民間雇用統計(ADP)が42.8万人増と市場予想117万人を大きく下回ったことにあります。
これにより、今まで急ピッチに上昇を続けていたナスダック指数が急落しました。
しかし、同月4日に発表された米雇用統計において失業率が5か月ぶりに8%台にまで下落したことで、引けに買い戻される展開となったもののその後さらに株価は急落し、ナスダック総合指数は直近高値から1割以上下落しました。
雇用統計ももちろん利益確定売りを誘発させた原因と言えますが、実際にはいくつもの下落要因が複雑に絡み合い、市場心理を悪化させました。
ナスダック総合指数急落の要因
複雑に絡み合ったいくつもの下落要因と何なのでしょうか。
要因1. ソフトバンクGが米国株を売却
今回の下落には前述のとおり雇用統計も影響していますが、より注意しておかなければならないのがソフトバンクグループの動向です。
直近でソフトバンクグループが米国の主力銘柄を大量に保有していることが判明し、市場の話題となりました。
保有している銘柄には、アマゾンやネットフリックス、マイクロソフトなどの銘柄が含まれていて、今までのユニコーン企業への投資とは色彩がまったく異なっていました。
中には、現在の市場のシンボリックな銘柄である米電気自動車大手テスラモーターズも含まれており、6月末から保有していたとすればその含み益は巨額です。
しかし、ソフトバンクグループが今回この米国株を売却しているとの観測が出ていて、さらに大量のコールオプションを購入していることが判明しました。
ソフトバンクグループが米国株を売却していることが判明したことにより、市場は売りを加速させて今回の急落となりました。
要因2. テスラとアップルが急落
また、個別銘柄にも直近の大きな動きがありました。
テスラモーターズとアップルの株式分割です。株式分割発表後は値ごろ感から新規投資家の参入が期待され、急上昇していきました。
しかし、ここで押さえておくべきは、
という点です。
過去に多くの分割銘柄に取り組んできましたが、分割実施後には株価が下落基調になるケースがほとんどでした。
このリバランスがタイミング悪く今回の急落に重なったことも一因となっています。

要因3. 米中関係の悪化
11月の大統領選を間近に控え、トランプ大統領が票取りの発言を強めていて、中国とのデカップリング(切り離し)を示唆してきました。
これについては市場関係者もある程度予測できていましたが、予想外だったのが中国半導体大手SMICのエンティティリスト追加を強調してきたことです。
中国半導体大手SMICは、直近のニュースで中国政府からの手厚い資金供給を受けていることでも非常に話題になった世界的にも有名な大企業です。
この企業がファーウェイと同様に規制対象になるかもしれないとなると市場への影響は無視できません。
これを受けて「米中関係はさらに深刻化する可能性が高くなる」という観測が今回の下落の要因です。
要因4. コロナワクチン開発期待後退
11月の大統領選を控えた米トランプ大統領が、サプライズで10月中のワクチン開発、接種開発を目指していることを発言していました。
しかし、ワクチンを開発している医薬大手アストラゼネカやファイザーなどは安全性をより重視する意向を発表し、それが確認されるまでは承認を求めないとしました。
この大統領とワクチン開発企業との意見の食い違いを市場は不安視しました。
テクニカル面での注意
上記のネガティブ要因がいくつも重なったことがトリガーとなってハイテク関連市場のナスダックが急落、直近高値から1割以上下落しました。
これによってナスダック総合指数の出来高は急増し、VIX指数も急上昇しました。
ここで注意したいのが、
ということです。
そのため、通常ではサポートラインとなり得る抵抗ラインを簡単に突き抜けてしまう可能性がありますので、そこには注意しておいた方がよいことでしょう。
「上昇したVIX指数がどの段階で下落に転じるのか」の見極めが重要
今回のナスダック急落は、ソフトバンクGによる米国株売却やその他多くの下落要因が重なったことで、急ピッチでの調整が進む結果となりました。
そのため、テクニカル的にも慎重に行動した方がよいものと思われます。
今後は、上昇したVIX指数がいつの段階で下落に転じるのかを見極めることが重要ですので、そこは押さえておいた方がよいと言えます。(執筆者:現役証券マン 白鳥 翔一)