今回は、FOMC(連邦公開市場委員会=アメリカの金融政策を決定する会合のこと)の結果を受けて円高が加速したので、その理由と今後の注目点について解説していきたいと思います。

目次
FRBは2023年まで金利ゼロ誘導を発表
今回のFOMCでは、参加メンバー17人の内13人が2023年まで金利をゼロ誘導した方がいいとの意見で一致し、消費者物価指数(CPI)が2.0%を若干上回る水準まで金融緩和を継続することを公表しました。
ここで重要となるのが、従来FRBは2020‐2022年までの金利見通しは公表してきましたが、4年分の見通しを公表したことは今までなかった点にあります。
これは、実質の追加緩和であり、大量の資金供給が長期間にわたり継続されることを意味するのです。
しかし、市場関係者の中には、23年までの見通しが公表されたことで、従来の予測に使っていたデータの算出方法が変わった可能性を指摘しました。
今後の予測が難しくなったとの意見もあるのです。
23年見通しにいくつもの疑問
FRBによって公表された資料によると、23年までに実質
インフレ率(CPI)は2.0%
失業率は4.0%
に回復するとの内容でした。
しかし、このデータの中で疑問となるのがインフレ率と失業率のデータであり、現在この2つのデータは急速な改善傾向にあるのです。
このペースで回復を続けた場合、23年以前に目標数値まで改善する可能性があるのです。
そのため、今後公表される上記2つの経済指標の回復ペースには注目しておく必要があります。
仮にこの回復ペースが予想以上に鈍化しなかった場合、FRBは見通しを上方修正してくる可能性にも注目しておく必要があるでしょう。
このタイミングで発表した理由
さらに疑問となるのが、なぜこのタイミングで23年までの金利ゼロ誘導を発表したのかという点にあります。
今回の発表は実質的な金融緩和であり、現在コロナショックから経済が回復に向かい、さまざまなデータで改善傾向が確認されている中で使うべきカードではないのです。
仮にFRBのデータが示す通りのペースで改善が進むのならば、近い将来その回復ペースは鈍化する可能性があることになり、今後発表されるデータの動向には注意する必要性があるのです。
しかし、もし前述のような理由で今回の発表がされていないならば、原因はこの時期特有の要因となる可能性が考えられます。
それは、11月の大統領選をにらんでの公表であり、それまでに株式市場を上昇させたかった思惑があるのかもしれないのです。
この考えが正しければ、FRBは間接的にトランプ大統領を支持していることになるのです。
株高と大統領選の関係
株高と米大統領選には深い関係性が存在し、米国のS&P500指数が上昇した時の大統領の当選率は非常に高いのです。
そうなるとFRBは、マーケットにとってバイデン氏よりもトランプ大統領の方が好ましいと考えていることになるのです。
この考え方が正しいとなると、今後の大統領選に向けてS&P500指数の値動きを追っておく必要があり、かつバイデン氏が当選した時の市場へのインパクトも考慮せざる負えなくなります。
円高・株安が加速
現在の為替市場は急速にドル安が加速し、1ドル104円台まで円高が進行しています。
それに合わせ、ハイテク市場であるNASDAQ総合指数も下落に再度転じており、ドル安=ハイテク株売りの流れが再度進んでいるのです。
しかし、ここで注目しておきたいのが、米10年物国債の利回りはそれほど変化していない点にあり、日米金利差に変化はほとんどないのにドル安が加速している点にあります。
通常でしたら、より長期間の緩和継続は株式市場にとってプラスに働くはずなのに、マーケットは逆の値動きをしているのです。
ファーウェイ規制強化の影響

では、なぜ円高と株安が加速しているのか。
ここで思い出したほしいのが、このFOMC直前に起きたネガティブイベントです。
15日に米国はファーウェイへの半導体輸出禁止措置を発動、世界的にファーウェイへの輸出が禁止されたのです。
この時点ですでに106円台から105円前半まで円高は進んでおり、その後の弱い米小売売上高の発表、FOMCの結果、パウエル議長の講演の順番に104円台まで円高は加速したのです。
つまり、初動はファーウェイへの規制強化であり、それがマーケットに悪影響を及ぼした元凶である可能性が考えられるのです。
そのため、今後の相場展開を予測するためには、米中関係の方向性と中国市場の動向を追っておく必要性が考えられるので、その点には注意しておく必要があります。
今後は中国株式市場とドル元の値動きに注目
以上より、今回のFOMCの公表内容はサプライズ的な内容であり、公表タイミングを考えると大統領選を意識している可能性が高いように思われます。
また、今回の円高・株安の直接的な原因は、米中関係の悪化が主要因として考えられるので、今後は中国株式市場とドル元の値動きに注目しておいた方がいいでしょう。
今後の米消費者物価指数と失業率の推移が現行の回復ペースから鈍化傾向にあるのかにも注意しておく必要があります。
FRBが示した見通しと大幅に乖離してくるかに市場の関心は高まるものと思われます。(執筆者:現役証券マン 白鳥 翔一)