2020年10月5日付けの日本経済新聞の朝刊に、住宅ローンの完済年齢の平均が73歳とこの20年間で5歳上昇している記事が掲載されていました。
原因として、
・ 住宅価格の上昇に伴う返済期間の長期化
が記載されていましたが、赤信号みんなで渡れば怖くない、という訳にはいきません。

目次
昔は問題はなかった
高度経済成長期など昔の住宅購入は多少背伸びや無理しても問題ない時代だったと言えます。
それは、「土地価格の上昇」、「年功序列の給与体系」、「終身雇用の雇用形態」の3つの理由があったからです。
60歳時点で住宅ローンの残債がある場合でも退職金で一括返済、そして、60歳から公的年金が支給されていましたので、老後の生活も問題なかったと言えるでしょう。
しかし、今は先ほどの3つの理由に当てはまるケースはほとんどなく、退職金は減少傾向にあり、公的年金の支給開始も現時点で65歳からとなっています。
一方で、60歳以降も雇用継続制度が採用されている会社が多くなりましたが、これらを補うまでは難しい場合が多いでしょう。
乱雑な言い方ではありますが、昔のマネープランは「何とかなる」時代でしたが、今は「しっかりと計画を立てる」時代へと変化しています。
そのひとつに、ファイナンシャル・プランナーという資格も高度経済成長期にはありませんでした。
退職金で住宅ローンを一括返済、65歳以降の住宅ローンの返済がある時は問題か
セカンドライフの生活費などは公的年金だけで賄うのは難しく、退職金を含めた自分での準備も必要になっています。
もし、退職金で住宅ローンを一括返済するのであれば、他にセカンドライフに向けた何らかの準備が必要です。
退職金制度も確定拠出年金の導入などにより、予定していた退職金が手に入らないということも考えられる時代です。
また、65歳以降に住宅ローンの返済がある場合、住宅ローンの返済だけでなく、マンションの場合は修繕積立金の上昇も十二分に考えられます。
一戸建ての場合には、リフォームも必要になってきます。
今後、公的年金の支給金額は減額されることが予測できますので、セカンドライフでは、住宅ローンは完済していることが望ましいです。

ボーナス返済がある場合も注意
もしボーナス返済も併用して目一杯に借りている場合には、公的年金からはボーナスの支給はありません。
最悪、ボーナス返済月に公的年金の大部分が住宅ローンの返済に充てなければならない可能性もあります。
現役時代の住宅ローンの返済とセカンドライフでの住宅ローンの返済は、当たり前とはいえ環境が異なります。
住宅ローンの返済で家計が圧迫してしまい、老後破産に直結しやすい状況だと言えます。
したがって、住宅ローンの完済年齢が65歳を超えている場合は、繰上げ返済などで返済期間を短縮していく必要があります。
問題の先送りをするのではなく、今からすぐに家計を見直して、繰上げ返済のための資金の確保が必要です。
危機が目に見える形になってからでは、対応策が限りなく限られてしまいます。
今から住宅購入を検討される方の注意点
住宅の購入を検討される時には、マンションにするか一戸建てにするか、通勤や通学を含めた周辺の環境や立地、広さや間取り・部屋の数、そして住宅の設備などを考えたり気にしたりするところでしょう。
金銭面では、毎月の返済額と住宅ローンの金利は考えたり気にしたりするところではないでしょうか。
一方で、返済期間を気にされる方は少ないかもしれませんが、そこに落とし穴が潜んでいます。
返済期間25年の場合と35年の比較
下記の比較は、返済期間を25年の場合と35年に設定した場合との比較です。
【前提】毎月の返済額:10万円 ・金利:1.1%(全期間固定金利)
返済期間:25年
・借入可能額:2,621万円・総返済額:約2,990万円・支払利息総額:約369万円
返済期間:35年
・借入可能額:3,484万円・総返済額:約4,199万円・支払利息総額:約715万円
毎月の返済額が同じでも、返済期間を伸ばすことで借入可能額も増加します。
言い換えると、その分だけ価格の高い住宅を購入することが可能になります。
手が届かないと思った住宅でも、返済期間を伸ばすことで手が届きます。
家計への影響をイメージする
毎月の返済額の増加は目の前のことですので家計への影響はイメージしやすいですが、返済期間を伸ばすことについては、かなり将来のことなので、家計への影響はイメージしにくい部分でもあります。
しかし、借入額が増加すればするほどその分だけ支払利息の総額も増加します。
毎月の住宅ローンの返済額は元金部分と利息部分の合計額ですので、目に見えにくい形ではありますが家計の圧迫にもつながってしまいます。
返済期間も重要

したがって、住宅購入を検討される方は返済期間にも注意しておきましょう。
60歳以降さらには70歳直前まで住宅ローンを組むのであれば、今と5~10年後の家計だけでなく、おおよそでも結構ですので60歳以降の家計もイメージしておきましょう。
返済期間は60歳までに完済させるのが理想ですが、遅くとも65歳までに完済ができる資金計画を立てておきましょう。
「金融機関の資産が通過した=無理なく返済できる借入額」とは限りません。
返済期間までを慎重に考えるとなると「住宅の購入はできない」という意見もあるでしょうが、住宅を購入してしまうと後戻りはなかなかできません。
将来、「あの時もっと慎重になっておけば良かった」とならないように、購入時点で「何とかなる」の考え方は控えめにしておきましょう。(執筆者:CFP、FP技能士1級 岡田 佳久)