仕事中に新型コロナウイルス(以下新型コロナ)に感染して、会社を休まざるを得なくなった場合、労災保険(以下労災)は適用されないと思っていませんか。
今、労災が適用されるケースが増えてきてます。
そこで、適用されるケースや請求のポイントについてご紹介します。

目次
新型コロナの労災請求の現状
厚生労働省が令和2年11月26日に発表した「新型コロナの感染症に関する労災請求件数」は、下記の表のようになります。

医療従事者等以外では、社会福祉や介護事業が多いのは当然ですが、その他では運輸業や接客中心の小売業、飲食サービスも目立ちます。
しかし、まだまだ新型コロナに感染しても労災が適用されるのかわからない人が多いため、請求の件数は伸び悩んでいます。
また、新型コロナに感染して休職しても、健康保険の傷病手当金が受給できるため、労災を請求しない人もいるでしょう。
傷病手当金は、賃金の約3分の2が支給され、医療費は3割負担です。
しかし、労災が適用されれば、休業補償給付金と休業特別支給金で賃金の約8割が支給され、医療費は無料です。
労災がいかに手厚い補償をしているかが分かると思います。
労災認定基準の緩和
厚生労働省は、令和2年4月28日付で「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて」という通達を出して、労災認定基準を緩和しました。
参照:厚生労働省(pdf)
このため従来から多かった医療従事者等だけでなく、医療従事者等以外からも労災請求が増えています。
通達内容
1. 医療従事者等が新型コロナに感染した場合には、業務外で感染したことが明らかな場合を除き、原則として労災保険給付の対象となる。
2. 医療従事者等以外の労働者であって、感染経路が特定された場合
感染源が業務に内在していることが明らかな場合は、労災保険給付の対象となる。
例:飲食店店員、建設作業員
3. 医療従事者等以外の労働者であって、感染経路が特定されない場合
・複数(労災請求人を含む)の感染者が確認された労働環境下での業務
・顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務
例:小売店販売員、タクシー乗務員、育児サービス業務等
特に3の感染経路が判明しない場合であっても、労働基準監督署において個別の事案ごとに調査して労災保険給付の対象となるか否かと判断します。
どこで感染したかわからない場合でも、労災の請求は可能です。
また、職場で複数の感染者が確認された場合ですが、この複数は労災請求人と他の労働者の2人で対象です。
ただし、労災請求人と他の労働者の職場が異なり、接触の機会がないようなケースは、当たらないと考えられています。
労災保険について
労災保険は、仕事中や通勤途上で病気やケガをした場合や、障害、死亡した場合に補償が受けられる制度です。
ここでは、病気に絞って説明します。
まず、治療を受けるため医者にかかった場合に医療費が無料となる療養補償給付があります。
さらに療養のために働くことができず賃金を受けない場合は、休業補償給付金が支給されます。
休業補償給付金は、休業3日目までは支給対象とならず、この間は会社が平均賃金の6割を支払います。
4日目以降は、休業補償給付の対象となり、1日につき給付基礎日額(直近3か月間の賃金総額を日数で割った額)の6割が支給され、さらに2割の休業特別支給金が支給されて、合わせて給付基礎日額の8割の休業補償が行われます。
さらにこれらの給付金は、すべて非課税です。

労災保険請求の手続き
労災の手続きは、労災に遭った本人か家族が行うのが原則です。
しかし、現実では会社が手続きを代行していますので、会社に新型コロナ感染が原因の労災請求をお願いします。
ただし、他の労災と異なり、会社が新型コロナの労災請求を拒否する場合も考えられます。
その場合は、会社には請求書類作成への助力義務が法的にありますので、労働基準監督署に相談をしてください。
労働基準監督署での手続きの順番
1. 補償の種類に応じた請求書を手に入れる
労働基準監督署または厚生労働省のHPからダウンロードできます。
2. 請求書に記入する
請求書には、事業主の署名欄もあります。
署名が得られなければ書類不備として受け付けてもらえませんので、注意してください。
3. 請求書と添付書類を労働基準監督署に提出
4. 労働基準監督署の調査への対応
労災を請求すると本人または会社等に対して聞き取り調査があります。
5. 労災保険の給付の決定
労災の給付が不支給となった場合、審査請求できますが、不支給の決定を覆すことは難しいといえます。
労災の方が手厚い補償を受けられる
仕事をしていて新型コロナに感染した場合、感染経路が不明でも労災の対象となるケースがあります。
特に多くの人と接する仕事をされている方は、認定されやすくなっているといってよいでしょう。
確かに会社を休んで賃金がもらえない場合、傷病手当金でも生活費を補うことはできますが、労災の方が手厚い補償を受けられます。
特に新型コロナの影響で症状が重い場合、長期間の医療費や障害を負った時のことを考えると、労災の請求をする方がメリットが大きいと言えます。(執筆者:特定社会保険労務士、1級FP技能士 菅田 芳恵)