事業主や従業員の意思にかかわらず、次のような事業所については、社会保険(健康保険、厚生年金保険)に加入する必要があります。
・ 常時従業員を使用する、国、地方公共団体、法人(株式会社、合同会社など)の事業所
・ 常時5人以上の従業員を使用する、個人の事業所(飲食業、宿泊業、農林水産業などは除く)
後者の厚生年金保険は1種類しかないのですが、後者の健康保険は次のように、2種類に分かれているのです。

目次
2種類の健康保険
(1) 協会けんぽ(全国健康保険協会管掌健康保険)
各都道府県に支部がある全国健康保険協会によって運営され、主に中小企業の従業員と、その被扶養者が加入しております。
(2) 組合健保(組合管掌健康保険)
企業が単独または複数で設立した健康保険組合によって運営され、主に大企業の従業員と、その被扶養者が加入しております。
いずれの健康保険に加入しているのかを知りたい時は、健康保険証の中の「保険者名称」という欄を見れば良いのです。
なお保険者とは保険料を徴収したり、保険給付を行ったりする、健康保険事業の運営主体を示します。
健康保険の保険者は上記のように、全国健康保険協会か健康保険組合になりますが、国民健康保険の保険者は「市区町村と都道府県」、または「国民健康保険組合」になります。
2割弱の組合健保は協会けんぽより保険料率が高い
組合健保には次のようなメリットがあるため、協会けんぽよりお得だと言われております。
・ 保険料率を自主的に設定できるため、協会けんぽより低い保険料率の設定が可能です(保険料率が低いと保険料が安くなる)
・ 法定給付の上乗せとなる「付加給付」を支給できるため、協会けんぽより窓口負担が軽くなります
・ 健康保険の保険料は原則として、従業員と事業主が折半で負担しますが、組合健保は従業員の負担を折半より低く設定できます
・ 人間ドックの受診補助などの「保健事業」を、任意に実施できます
ただ2019年度は6割弱の健康保険組合が、赤字になっただけでなく、これからも厳しい運営が続くと予想されているため、上記のような組合健保のメリットは、以前より少なくなっているのです。
例えば2019年度は2割弱の組合健保が、協会けんぽ以上の保険料率を設定しているようです。
このように組合健保の保険料率が、協会けんぽの水準を上回ってしまうと、組合健保を運営する必要性が低くなります。
ですから企業としては、組合健保を運営する健康保険組合の解散を検討し、実際に解散すると組合健保の加入者は、協会けんぽに移行します。
また保険料率が協会けんぽの水準を上回る、2割弱の組合健保を運営する健康保険組合は、「解散予備軍」と考えられているのです。
後期高齢者医療の財源の約4割は現役世代が負担している
原則75歳から加入する後期高齢者医療の財源構成は、患者の自己負担を除くと、次のようになっているのです。
・ 公費(国、都道府県、市区町村の負担):約5割
・ 現役世代が負担する「後期高齢者支援金」:約4割
・ 後期高齢者医療の加入者が負担する保険料:約1割
協会けんぽと組合健保は後期高齢者支援金を拠出するために、健康保険の加入者から「特定保険料」を徴収します。
つまり給与から控除されている健康保険の保険料の一部は、後期高齢者医療に対する、仕送りのために使われているのです。
また高齢化の進行により、後期高齢者支援金の負担が増えているため、協会けんぽと組合健保の財政を圧迫しているのです。
協会けんぽの加入者が増えると国の財政に影響を与える
後期高齢者支援金を拠出するのは、協会けんぽと組合健保のいずれにとっても、大きな負担になっているのですが、協会けんぽの方は長期に渡って、黒字を維持しております。
協会けんぽの保険給付費には、国庫補助(国からの援助)があるのに対して、組合健保の保険給付費には国庫補助がないというのが、この理由のひとつだと思います。
こういった事情があるため、健康保険組合が解散され、組合健保の加入者が協会けんぽに移行すると、その分だけ国庫補助が増えるので、国の財政の面で問題があるのです。
一方で2022年から団塊の世代が後期高齢者医療に入り始め、後期高齢者支援金の負担が増えるなどの理由により、保険料率が協会けんぽの水準を上回る組合健保が、約4割に達すると推計されているため、組合健保に止まるのも問題があるのです。
政府としては年収200万円以上の後期高齢者医療の自己負担を、1割から2割に引き上げ、現役世代の負担を軽減するようですが、このくらいの改正だと、あまり改善は期待できないと思います。
また健康保険の保険料は原則として、給与の金額に応じて決まるため、健康保険の加入者の給与が下がると、協会けんぽや組合健保の保険料収入が減ってしまいます。
そのため新型コロナウイルスによる景気悪化は、健康保険組合の解散危機を早めるという予想があるのです。

マイナンバーカードを取得した方が良い2つの理由
2021年3月から所定の手続きをすると、マイナンバーカードを健康保険証の代わりに使えるようになります。
これにはいろいろなメリットがありますが、マイナンバーカードを持っていない方が取得したいと思うほどメリットは、存在しないと考えているのです。
ただ勤務先の健康保険組合が、解散予備軍ではないかという不安を感じる方は、次のような2つの理由でマイナンバーカードを、取得した方が良いのかもしれません。
理由(1) 健康保険証が届かない可能性がある
健康保険組合が解散すると、組合健保の加入者は協会けんぽに移行しますが、健康保険証を医療機関などの窓口に提示すれば、今までと同じように2割~3割の自己負担で診療を受けられます。
ただ組合健保の健康保険証を返却して、協会けんぽの健康保険証を、新たに受け取る必要があるのです。
しかも大人数が一斉に移行するため、健康保険証の準備や発送に、かなりの手間と時間がかかると推測されます。
そのため予定していた時期に健康保険証が、自宅や職場まで届かない可能性があるのです。
また健康保険組合に住所変更が伝わっていないと、変更前の住所に健康保険証が送られてしまう可能性があります。
マイナンバーカードを保有していれば、このようなトラブルが起きたとしても、マイナンバーカードを健康保険証の代わりに使えば良いので、慌てる必要がないのです。
理由(2) マイナンバーカードに一本化される可能性がある
2021年3月以降はマイナンバーカードを保有する従業員の、健康保険証の新規発行を停止し、最終的にはマイナンバーカードに一本化する可能性があります。
その理由としてはマイナンバーカードに一本化すると、健康保険証の準備や発送のために使っていたコストをカットできるため、健康保険組合の財政の改善に役立つからです。
またこのような事態になったとしても、マイナンバーカードを持っていれば、慌てて取得する必要がないのです。
あくまで推測にすぎませんが、解散予備軍の健康保険組合がさらに増加する点や、新型コロナウイルスによる景気悪化で保険料収入が減少する点から考えると、まったくありえない話ではないと思います。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)