日本に住んでいる20歳以上60歳未満の方は、国民年金に強制加入するため、この被保険者になります。
また国民年金の被保険者は次のように、第1号~第3号に分かれているのです。
【第1号被保険者】
第2号や第3号に該当しない、自営業者、農林漁業者、フリーランス、学生、無職者などは、第1号被保険者になります。
これに該当する方は納付書や口座振替などにより、2020年度額で1万6,540円となる国民年金の保険料を、自分で納付しなければなりません。
【第2号被保険者】
厚生年金保険に加入している会社員や公務員(20歳未満、60歳以上65歳未満も含む)は、第2号被保険者として国民年金にも加入します。
そのため給与(月給、賞与)から控除されている、厚生年金保険の保険料の一部は、国民年金の保険料として利用されているのです。
【第3号被保険者】
第2号被保険者に扶養されている、年収130万円未満の20歳以上60歳未満の配偶者は、届出をすれば第3号被保険者になります。
この第3号被保険者の国民年金の保険料は、扶養している配偶者がいない方も含めた、第2号被保険者が負担しております。
つまり第2号被保険者が納付した厚生年金保険の保険料は、第3号被保険者の国民年金の保険料としても利用されているのです。
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目次
申請免除、納付猶予、学生納付特例には相違点がある
国民年金の第1号被保険者が経済的な理由などで、保険料を納付できない時は、所定の手続きを行うと、申請免除(全額免除、4分の3免除、半額免除、4分の1免除)や納付猶予を、受けられる場合があります。
ただ大学や大学院などに在学している方が、保険料を納付できない場合には、学生納付特例が優先されるのです。
また新年度が始まる4月頃になると、学生納付特例について紹介した記事を、よく見かけるという印象があります。
この理由について考えてみると、申請免除や納付猶予は原則として、7月から翌年の6月までを、ひとつのサイクル(始期と終期)にしているのです。
それに対して学生納付特例は、4月から翌年の3月までを、ひとつのサイクルにしているため、新年度が始まる4月頃に、よく紹介されるのではないかと思います。
学生納付特例を受けた期間は、納付猶予を受けた期間と同じように、保険料を追納(後払い)しないと、原則65歳になると国民年金から支給される「老齢基礎年金」の金額に、まったく反映されないのです。
ただ次のようなメリットがあるため、所定の手続きを行って、学生納付特例を受けた方が良いのです。
・ 国民年金の保険料を納付できるのは原則として、納付期限(納付対象月の翌月末日)から2年になりますが、学生納付特例を受けていると、過去10年まで遡って保険料を追納できます。
なお申請免除や納付猶予は、申請者の所得審査に加えて、配偶者や世帯主の所得審査もあります。
一方で学生納付特例は、申請者(学生)の所得審査だけなので、例えば収入のある親と同居している場合でも、受けられる可能性が高いのです。
学生だった方々が起こした「学生無年金障害者訴訟」
国民年金から支給される年金としては、原則65歳から支給される老齢基礎年金があります。
これに加えて国民年金の被保険者が死亡すると、一定の遺族に対して、遺族基礎年金が支給されます。
また国民年金の被保険者が一定の障害状態になると、障害基礎年金が支給されます。
この障害基礎年金を受給できなかった方々が2001年7月に、不支給決定の取り消しや賠償金の支払いを求め、全国各地の9つの地裁で、いっせいに国を訴えたのです。
国を訴えたのは障害を負った当時に、大学や大学院などに在学していた方々になるため、この訴訟は一般的に「学生無年金障害者訴訟」と呼ばれております。
20歳以上の学生は1991年3月までは任意加入だった
国民年金は1961年4月に始まったのですが、20歳以上の学生は1991年4月に強制加入になるまでは、加入したい方だけが任意加入しておりました。
この任意加入制度には保険料の免除がなかったため、学生にとっては経済的な負担が大きかったのです。
また任意加入制度の存在が、十分に周知されていなかったため、ほとんどの学生は加入していなかったのです。
そのため不慮の事故などで障害を負った当時に、国民年金に加入していなかったため、障害基礎年金を受給できなかった方々が、全国で4,000人くらいおりました。
1986年3月までは任意加入だった、会社員などに扶養されている配偶者も、全国で2万人くらいが同じような事情で、障害基礎年金を受給できなかったようです。
学生無年金障害者訴訟が起こされた背景には、障害基礎年金の無年金問題で苦しんでいる、このような多くの人々の存在があったのです。
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保険料の未納期間が増えると障害基礎年金を受給できない
最高裁まで争った学生無年金障害者訴訟は、地裁では原告の主張が認められたケースもありましたが、最高裁では原告の敗訴という結果になりました。
しかし国は障害基礎年金を受給できない、任意加入の対象であった学生や、会社員などに扶養されている配偶者などに対して、「特別障害給付金」を支給するという救済策を打ち出したのです。
また現在は学生でも、国民年金に強制加入することになっており、保険料を納付できない場合には、学生納付特例という制度があります。
そのため障害基礎年金の無年金問題は、もう起きないような気がしますが、同様の問題が繰り返される可能性があります。
この理由として初診日(障害の原因になった病気やケガで、医師などの診療を初めて受けた日)の前日において、次のいずれかの保険料の納付要件を満たしていないと、障害基礎年金を受給できません。
・ 初診日に65歳未満の場合には、初診日がある月の前々月までの1年間に、公的年金の保険料の未納期間がない
また若い世代は国民年金の保険料の納付率が低く、この保険料の納付要件を満たせない可能性があるため、障害基礎年金の無年金問題が繰り返されると思うのです。
例えば2019年度のデータを見てみると、第1号被保険者に関する国民年金の保険料の納付率は、69.3%まで上昇しておりますが、20歳~24歳は64.55%、25歳~29歳は57.09%になっております。
国民年金の保険料の納付率は、申請免除、納付猶予、学生納付特例の期間を除いて算出するため、これらを受ければ納付率が改善されるとともに、障害基礎年金の不支給を防止できます。
それにもかかわらず手続きをしない方がいるのは、障害基礎年金の無年金問題で苦しみ、国を訴えた人々の存在を、多くの方が忘れてしまったことも、理由のひとつではないかと思います。
「天災は忘れた頃にやってくる」という言葉がありますが、障害基礎年金の無年金問題についても、こういった人々を忘れた頃に同様の問題が、繰り返される可能性があるのです。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)